2016年7月24日日曜日

南シナ海仲裁裁判決(7):海軍を増強することで、そこに権力基盤を求めた習近平だが

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 海軍を増強することで、そこに権力基盤を求めた習近平だが。
 それが充分な成果をあげてこないときは、陸軍系に不満が高まることは目に見えている。
 腐敗運動は旧派に属する陸軍系が狙われている。
 いまは首を縮めているが、もし習近平がちょっとでも躓けば一気に怨念が吹き出てくる。 
 虐げられた陸軍の恨みは深いものがある
と見ていいだろう。
 「中国の夢」より「自分のフトコロ」が優先する
ことは間違いない。
 
 南シナ海とは「習近平=海軍連合」の生命線
ともいえる。
 なんとしてもここにかじりつくしか習近平に道は残されていない。
 ここで失敗すれば「旧派=陸軍連合」の巻き返しにさらされる。
 いかにしてもくいい止めねばならない。
 一切の妥協はしない、それが習近平の姿勢だろう。
 妥協できない状況に追い詰められていると言っていい。
 もし、ここで妥協したら習近平の権力立場が崩れ落ちるのである。
 ドンパチがあっても、中国は引かない、というより引けない。
 
 地域に意図的に緊張を作ることで政権の延命を狙ってくるだろう。
 東シナ海はその標的になる可能性が大きい。
 軽い行き違いがあってもここでは本格的なものにはなりにくい。
 それは日本が中国にとって強すぎるからである。
 まともに鉢合わせして共産党政権それ自体を潰すようになることは習近平の目論見にはない。


jiji.com 2016/07/24-14:24
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016072400072&g=int

中国軍、最新兵器を誇示
=南シナ海で実効支配を強化

 【北京時事】
 南シナ海の領有権をめぐる中国の主張を否定した仲裁裁判所の判決が出た後、中国軍は軍事演習や高官の部隊視察で最新兵器を誇示している。
 軍事力を見せつけ、南シナ海問題で譲歩しない姿勢を内外に強調する狙いがある。

 国営中央テレビなどは19日、范長竜中央軍事委員会副主席が南シナ海を管轄する南部戦区を視察したと報道し、核爆弾の搭載が可能な戦略爆撃機H6Kや準中距離弾道ミサイルDF16を映し出した。
 范氏は視察で、
 「わが国が直面する複雑で厳しい安全保障環境を認識し、急襲能力を高めないといけない」
と指示した。
 H6Kの戦闘行動半径は3500キロ。
 射程2000キロ以上の巡航ミサイルや超音速対艦ミサイルを搭載するとされ、日本全土や米領グアムへの攻撃が可能とみられている。
 中国空軍は18日にH6Kが南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)の上空などを飛行し、警戒監視活動を行ったことを明らかにしている。
 一方、DF16は射程1000キロで非常に命中精度が高く、沖縄、台湾が対象となっている。



Yahoo ニュース 2016年7月24日 10時19分配信 遠藤誉  | 東京福祉大学国際交流センター長
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20160724-00060224/

中国空海軍とも強化――習政権ジレンマの裏返し

 南シナ海の判決を受け中国の反撃がやまない。
 米中海軍トップ会談で中国は人工島建設継続を、軍事委員会副主席は「平和の幻想を抱くな」と表明。
 「判決がボタンを押した」
と弁明し、態度を翻したフィリピンにも対抗しなければならない。

◆人工島建設はやめない――米中海軍トップ会談

 新華網7月18日電によれば、リチャードソン・米海軍作戦部長と呉勝利・海軍司令員(軍事委員会委員)との会談が北京で行われたとのこと。
 会談で呉勝利司令員は
 「中国が領土主権問題に関して譲歩すると思わない方がいい」
と、一歩も譲らぬ姿勢を見せた。
 さらに
 「われわれは如何なることがあっても、南シナ海における主権と権益を犠牲にすることはなく、
 これは中国の核心的利益であり、中華民族の根本的利益である」
とした。 
 また
 「われわれはいかなる軍事的挑発も恐れない。
 中国の軍隊は、国家の主権と安全と発展を守る堅強な力であり、
 中国海軍はいかなる権利侵害と挑発に対しても対応するだけの十分な準備ができている」
と強調した。
 その上で、
 「我々は島嶼建設を中途半端に終わらせることは絶対にしない!」
と、人工島建設を続行することとともに、積極的に防衛していくことを宣言し、アメリカを牽制した。

 中央テレビ局CCTVでは、威圧的な呉勝利氏の顔を大写しにして、小顔のリチャードソン氏の顔を委縮しているような表情で脇に映し出すに留め、「ほれ、この通り、中国軍は強い!」という印象を人民に与えることに必死だということが、逆に伺われた。
 一方のリチャードソン氏は
 「中国海軍の接待に感謝し、喜んで呉勝利と提携して両軍関係の友好的な発展と信頼関係の構築に寄与したい」
としたと言ったと、新華網は伝えている。
 その言葉を受けるかのように、中国側がリチャードソン氏を北海艦隊や潜艇学院に案内し、遼寧などの艦艇を視察したことなどを紹介し、「中国が米国よりも上に立ちながら」、米中がいかに友好的であるかをアピールした。

 用意周到に組まれた映像の割には、二人が並んで立っている映像なども映しており、それを見る限りにおいては、リチャードソン氏は決して引けを取らず、ほぼ同じ背の高さで、せっかく呉勝利氏の顔だけ大写しして、まるで縮んだように恐縮したリチャードソン氏の顔を添えたのに、その映像効果を帳消しにしている。

◆「平和の幻想を抱くな」――範長竜・中央軍事委員会副主席

 「人民網」7月21電によれば、範長竜・中央軍事委員会副主席(中共中央政治局委員)は、南部戦区部隊の視察を行い、
 「軍事闘争に関するあらゆる準備作業を強く推進し、
 肝心の有事の時には、必ず“突撃任務”の力を瞬時に発揮できるようにせよ」
と指令を出した。
 南シナ海作戦に関してこのように具体的な指令を出したのは、中華人民共和国誕生以来初めてのことだと、CCTVでも軍事評論家による解説が行われた。
 「今日のフォーカス」など多くのニュース番組でも特集し、範長竜副主席が「平和の幻想を抱くな」という声明のもと、「今後、南シナ海における哨戒飛行を常態化させる」と強調したと報道した。
 解説者はさまざまに表現を変えながらも、結局のところ
 「判決が軍事強化のボタンを押した」
とし、
 「平和のための防衛」から「平和のための攻撃」
に出るため「準備は整った」と異口同音に唱えている。

 アメリカを中心とした「一部の国」が、「中国の軍事力を軟弱なものと誤読した」ためにこのような権力を侵害する不当な判決が出たので、中国軍は今後、「決して軟弱ではない」ことを見せつけていかなければならないと強調している。
 つまり「バカにされないように」南シナ海における軍事力の威力を常態化させることが肝要だ、としているわけだ。

◆あの「戴旭」までが叫び始めた

 中国人民解放軍・国防大学の教授を務める戴旭氏は、7月18日に開かれたネットシンポジウムで
 「南シナ海という中国の大門が閉ざされたら、中国は内陸国家になってしまう」
という講演を行なった。
 中国南海ネットオンライン開設式で開かれた「南海問題シンポジウム」でのことだ。
 彼はさらに
 「中国は世論というプラットフォームで国内外の中国人と全地球上の中華民族の英知と力を結集して、
 アメリカと日本の陰謀をあばき、打撃を与えなければならない」
と言った。
 戴旭というのは、2014年1月1日に中国のネットで発表された「2013年度中国人クズランキング」で、堂々の4位にランクイン入りした人物だ(詳細は拙著『中国人が選んだワースト中国人番付――やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』のp.77で詳述)。
 ネットユーザーにバカにされ、
 中国政府からはナショナリズムを焚き付けすぎて困ると眉をひそめられている彼までが駆りだされたとなれば、
 これは国内世論的に、非常にまずい状況が来ていることを意味する。

◆追いつめられる習近平政権

 これまで中国は、南シナ海に人工島を完成させるたびに、まるで戦争相手から島を奪い取ったかのごとく、「戦勝の歓喜」に沸いてきた。
 歌唱大会を開くなど、お祭り騒ぎだった。そのたびに「ほらね、中国共産党政権はすごいだろう?」と、求心力を高めるのに必死だったのである。
 その「偉大なる中国の領土・領海」が、
 実は他人のもので、中国にはそれらを所有する法的根拠がないとなったら、
 どうなるだろう。
 習近平政権は人民に対してメンツ丸つぶれ
などという単純な言葉で表現できるレベルではない。
 そうでなくとも中共政府に不満を持つ中国人民が政府転覆に動くきっかけを作ろうとするかもしれない。
 そのため、あまり過激に愛国主義を煽るわけにもいかないのである。
 排外デモが、反政府デモに転換していったら困る。
 その可能性は、胡錦濤政権における反日デモで、イヤというほど見て来た。
 だから、習近平政権になってからは、反日デモさえ行なわせないように徹底して抑えつけてきた。
 その分だけ売国政府と呼ばれないようにするために、対日強硬姿勢を取ってきたのである。
 ところが今では、「敵」は日本だけでなく、南シナ海で「航行の自由」を主張して、中国に言わせれば「軍事行動」を行なっているアメリカだ。
 アメリカ系の商品ボイコットを訴える抗議運動が始まっているが、これは危険だ。
 中・米が「新型大国関係」として世界を君臨するという習近平政権の外交スローガンもまた、メンツ丸つぶれになるからである。

◆フィリピンの新大統領が親中路線を翻(ひるがえ)す

 加えて、中国が致命的な打撃を受ける事態が発生した。
 6月30日に就任したドゥテルテ大統領は、就任式の後の閣議で、
 「フィリピンに有利な判決が出ても、中国とは話し合いで解決する」
としていたのだが、中国の王毅外相のあまりに高圧的な態度に、「中国に譲歩しない姿勢」を表明したのだ。
 中国大陸以外の中文ネット情報によれば、7月19日、フィリピンのヤサイ外相がフィリピンの「ABS-CBN」ニュースの取材を受けて、次のように語ったという。

――モンゴルでアジア欧州会議(ASEM)に出席している間、場外で王毅外相と会った。
 そのとき王毅外相は、
 「ハーグの判決結果に関しては一切触れることを許さない」
という前提条件で、二国間会談を申し出てきた。
 だから私は会談を断った。
 なぜなら、それはフィリピンの国益にそぐわないからだ。
 フィリピンの主要な任務は、スカボロー礁(黄巌島)におけるフィリピン漁民の利益を守ることにあるからだ。

 中国のこのような高飛車すぎる姿勢こそが、国際社会から締め出される最大の原因を作っていることを、中国は分かっていない。
 一党支配体制を維持することこそが、中国の最大の課題なのだが、その求心力を失いつつあるため、なりふり構わず動き始めている。
 その課題のために、自らを追い込み始めた中国――。
 しかし、9月初旬には中国でG20が開催される。
 勇ましい言葉通りに空海軍強化による行動を、いま取ることはできない。
 さあ、どうするか――?
 習近平政権のジレンマはエスカレートしていくばかりだろう。



JB Press 2016.7.25(月)  阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47432

裁定が出ても中国が一歩も引くわけにはいかない理由
「無謬性」の虜となった習近平

仲裁判断、中国外交に大打撃 習主席「一切受け入れない」

 7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、フィリピンによって提起された南シナ海の国際法上の解釈をめぐる裁定を下した。
 裁定は中国の主張をことごとく否定する内容であり、中国側の「全面敗訴」と言っていい内容であった。

 中国はフィリピンの常設仲裁裁判所への提訴そのものを不当なものとし、裁判への参与も行ってこなかった。
 事前の予想で、中国に不利な裁定となることは予想されていたが、それは中国も織り込み済みのことであっただろう。

 ただし、中国側が主張してきた「古来中国のものであった」ことを根拠に、南シナ海の管轄権の範囲を示す「九段線」についてまで裁定が及ぶとは想定外だったかもしれない。

■裁定が出ても一歩も引かない中国

 中国は不利な裁定が出ても対応できるように、中国側の南シナ海をめぐる主張に賛同する国家を多数集める工作に励んできた。
 同時に、自らの主張の正当性を改めて強調するための「白書」まで多言語版で用意していた。

 中国によれば、南シナ海における中国の立場を支持する国は70カ国に上るとされている。
 だが、その多くが南シナ海の領有権をめぐる問題に関心のないアフリカ、中東、中央アジアの国々である。
 その中にはインドも含まれていたが、
 インド政府は「すべての関係国に対し、仲裁裁判所への最大限の敬意を示すよう求める」
との声明を発表しており、中国の立場を支持などしていないことが分かる。
 70カ国の支持というのは、かなりの誇張が盛り込まれていると見てよい。

常設仲裁裁判所の裁定では、中国の主張する九段線の「歴史的経緯」は根拠なしとして否定され、南沙諸島には「島」はなく「岩(礁)」と満潮時には水没する「低潮高地」があるだけであり、「岩(礁)」は領海12海里を宣言できるが排他的経済水域(EEZ)は設定できず、「低潮高地」はどちらもその権限を持たないとされた。
 要するに、中国の主張する南シナ海の管轄権が否定されたのである。

 問題は、中国はいかなる裁定が出されようとも、南シナ海問題で一歩も引かない姿勢を貫く意思を明確にしていたことである。
 そこまで中国が決意した背景は何なのか。
 それは「党・指導者の無謬性」へのこだわりであり、ひいては習近平主席を「常に正しい判断をする指導者」であることを確保するためであったと言っていいだろう。

■「無謬性」にこだわり過ぎて政策が硬直化

今年3月、新疆ウイグル自治区のネットニュースサイト「無界新聞」に
 「忠誠なる共産党員」の名で
 習近平の政策的誤謬を羅列し辞任を求める「公開書簡」が出され、
 大騒ぎとなったことは記憶に新しい。
 民主主義国家では言論の自由があり、政権批判など当たり前の現象だが、一党独裁の中国ではそれが許されない。
 党とそのトップリーダーは「常に正しい」ことにされているから、党や習近平を名指しで批判することなど許されてはいないのである。
 「無界新聞」の件については、当局が血眼になって犯人探しを行ったことは言うまでもないが、いまだに首謀者は見つかっていない。

 中国では、現在に至るも「無謬性」の神話が生きている。
 毛沢東は死後、文化大革命の責任を問われたものの、1981年の歴史決議で「功績第一、誤り第二」の結論となった。
 鄧小平に関しては、1997年に死去して今年で19年になるが、依然として1989年の天安門事件の責任さえ正式に問われてはいない。

 では習近平の場合はどうか。
 「中華民族の偉大な復興」を「中国の夢」であるとする習近平主席は、東南アジアの「小国」に蚕食された南シナ海、とりわけ南沙諸島を「取り戻す」ことが自らに課せられた歴史的使命であるとともに、東アジア地域秩序を形成する盟主としての中国の地位確立にとってもきわめて重要な事業であると位置づけた。

 そのために、これまで台湾やチベットなど「分離独立」の気配のある地域に限って使っていた「核心的利益」という修辞を南シナ海にも援用し、「領土主権に関わる問題について一切譲歩しない」姿勢を明確にしてきた。
 つまり習近平政権は、南シナ海の領有をめぐる紛議に関して「退路を断つ」政策を強行してきたのである。
 南シナ海での中国の政策が「正しいもの」だとする「無謬性」へのこだわりが政策を硬直化させ、状況の変化に対し柔軟な軌道修正をする余裕を失わせてしまったと言える。

■米中の緊張関係はさらに高まることに

 今回の常設仲裁裁判所の裁定は、「南シナ海の島嶼が誰のものか」について明確にしていない。
 もともと裁定の目的はそこにはなかったわけであり、今回の裁定で、中国の南シナ海の島嶼の領有権の主張までは排除されていないのである。
 これは中国にとって幸いであり、中国にはこれまで通りの主張を展開する余地が残されたことになる。
 とはいえ、国際法廷で下された「最終判断」は、それなりに重く習近平政権にのしかかる。
 いわば「国際的圧力」であり、今後中国が参加する国際会議で繰り返し「裁定順守」のプレッシャーがかけられることになる。

 それにもかかわらず、「無謬性」を確保しなければならない
 中国としては、独自の論理で2つの行動を追求するしかないであろう。

★.第1に、国内対策である。
 今回の裁定は、広く国内でも報道されており、政権の主張を「鵜呑み」にすることに慣らされてきた人民に対し、国際社会の圧力に屈する姿勢は見せられない。
 下手に妥協すれば「裏切られた」人民による政権批判を招く
からである。

 一方、知識人を中心に、裁定を「中国外交の大失敗」と醒めた目で見る「民意」にも対抗しなければならない。
 いずれにおいても政権批判を封じ込めるには、習近平政権の「無謬性」を証明するために南シナ海における中国の拡張主義をさらに進めるしかない。

★.第2に、対外政策である。
 中国では内政がそのまま外交に反映されるから、
 外交も強硬路線で突っ走るしかない
 領有権問題をめぐって中国は「裁定を棚上げした上での二国間協議」を主張するが、当事国であるフィリピンは言うに及ばず、もはやそんな中国に都合のいい条件で協議に応じる国はないだろう。

 南シナ海における「航行の自由」作戦を展開する米国は、裁定を追い風にさらに南シナ海における米軍のプレゼンス強化を目指すかもしれない。
 また、裁定を歓迎する日本が南シナ海の航行の自由へ参画することを歓迎するであろう。
 それを嫌う中国は、日本を牽制するために東シナ海で緊張を造成するかもしれないし、南シナ海上空の「防空識別圏」設定を急ぐかもしれない。
 現状では、中国の空中哨戒能力は十分とは思えないが、域外国の干渉排除のため無理をする可能性は排除できない。

 結局、南シナ海をめぐる常設仲裁裁判所の裁定は出たものの、それが南シナ海の緊張を解決するものとはならず、一層緊張を高める結果になりそうである。

 裁定は確かに中国を窮地に追い込んだが、だからといって「引くわけにはいかない」中国と、海洋覇権国家・米国との雌雄を決する危険性は裁定前よりも高まっていると言えるだろう。


WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年07月25日(Mon)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7348

欧州も警戒し始めた中国の独善

 仏戦略研究財団アジア部長のニケが、Diplomat誌ウェブサイトに6月11日付で掲載された論説において、先のシャングリラ・ダイアローグにおける中国の態度があまりにも悪かったことも手伝って、
 最近では従来アジアの安全保障に関心の低かった欧州の認識が変わってきている
と述べ、仏がその牽引役となることを歓迎しています。
 要旨、次の通り。

■演説の荒々しいトーン

 今年のシャングリラ・ダイアローグにおいて、中国の孫建国副参謀総長は「アジア太平洋地域の文明は、調和の中で混ざり合い、相互の順応も活気に満ちている」と述べた。
 だがこうした人々を安心させるような言葉にもかかわらず、演説の荒々しいトーンや南シナ海で繰り返される領有権主張、仲裁裁判判決をあらかじめ拒否するといったことは、地域の大きな懸念になっている。
 しかもこうした懸念は、アジア太平洋の安全保障の中心から離れた国にまで広がっている。
 従来これらの国々は、中立ではないにせよ、バランスをとるのを好んでいたはずだ。

 その姿勢の変化は、「ハードな安全保障」に取り組まないことで知られていたEUに顕著である。
 中東や移民、テロといった自分たちの地域で高まる問題にもかかわらず、EUは徐々にアジアにおける利害の大きさを認識しつつある。

 こうした変化をもたらしている主要要因は、言うまでもなく
★.中国による南シナ海での主張、国際規範の拒絶、近隣諸国に強制しているヒエラルキーシステムである。
 また、中国がよりアグレッシブな戦略的選択をすることは、内政要因や体制変革への懸念と直接的に関係している。
 シャングリラでの中国の演説は、今まで以上に主張が激しく、イデオロギー的なものであった。

 EUを含む国際社会にとっての主要課題の1つは、
★.中国が、自らも批准している国際合意に基づくいかなる制約にも強い拒否反応を示すという点である。
 これは国連海洋法条約や中比仲裁裁判の判決について顕著である。
 これは、条約や国際約束を遵守するのは、
 共産党指導部が狭く規定する国益に適う場合のみだということ
であり、大きな不安定化要因となる。

 この点、ル・ドリアン仏国防大臣がシャングリラで述べたようなフランスの明確な立場は歓迎されるべきものだ。
 海洋における法の支配の原則が脅かされていることについて、ル・ドリアン大臣は、国連海洋法条約の不遵守問題は地域を越え大西洋から北極にまで影響しうることを想起させた。

 欧州における主要軍事国の1つであるフランスは、インド太平洋地域に及ぼしうる十分な軍事プレゼンスをもっている。
 そして、国連海洋法条約が認める航行や上空飛行の自由の原則に対する脅威は受け入れられない。
 伊勢志摩サミット後の共同声明でも言及されたように、ル・ドリアン大臣は、ルールに基づく海洋秩序、国際法の尊重、対話が脅しや強制、武力の行使によって妨げられてはならないことを述べた。

 欧州の海軍間で調整を行い連携することで南シナ海で欧州による航行の自由作戦を行うとの提案は、歓迎された。
 もしそれを実行に移せば、同提案は、すべてにおいて重要な意味を持つ地域の安定に貢献する欧州の取り組みとしてポジティブなシグナルになるだろう。

出典:Valérie Niquet,‘France Leads Europe's Changing Approach to Asian Security Issues’(The Diplomat, June 11, 2016)
http://thediplomat.com/2016/06/france-leads-europes-changing-approach-to-asian-security-issues/

 アジアの安全保障問題について、これまで比較的関心の薄かったEU諸国が、中国の南シナ海への海洋進出に対し、強い懸念を示し始めたことは、当然とはいえ、歓迎すべきことです。
 特に、フランスが率先して海洋分野における法の支配を重視する言動を取り始めたことは高く評価できます。
 伊勢志摩サミットの首脳宣言において、海洋秩序の維持のために国際法の諸原則に基づくルールを遵守することの重要性が強調されたことの意味は大きいものがあります。

■強硬かつ独善的な態度

 その後のシンガポールのシャングリラ会議において、中国側の態度が強硬かつ独善的であったことが、関係諸国の間に中国に対する警戒感を一層高めることとなりました。

 ドイツも最近、これまで以上に中国の南シナ海進出に対し、警戒感を示すようになりました。
 これは、先日のメルケル・習近平会談においても見られた通りです。
 欧州はこれまで全体としてアジアから離れているという地理的要因に加え、経済関係を通じ中国との関係を強めてきたため、中国に対し、比較的微温的な対応をとってきました。
 しかし、ル・ドリアン仏国防大臣の指摘するように、南シナ海の問題はやがては、大西洋から北極に至る海域でも同様のことが起こり得ることを欧州の国々に想起させることとなりました。

 フィリピンが提訴した国際仲裁裁判所の判決については、日本としては、あくまでも国際法、国際ルールに基づき対処するとの立場で、米、ASEAN諸国、EUと協力しつつ対処すべきです。
 日本にとっては、南シナ海が東シナ海、台湾海峡に隣接し、かつシーレーンにあたる戦略上の要衝の地であることに何ら変わりはありません。


Record china配信日時:2016年7月27日(水) 7時50分
http://www.recordchina.co.jp/a136667.html

ASEAN共同声明で仲裁裁判決に触れず
「中国の外交的勝利」―仏メディア

 2016年7月25日、仏国際放送ラジオ・フランス・アンテルナショナル(中国語電子版)は、ラオスの首都ビエンチャンで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議で各国外相が採択した共同声明について、南シナ海で中国が主張していた権利が国際法違反とする常設仲裁裁判所の判決への言及は盛り込まれなかったことは「中国の大きな外交的勝利だ」と伝えた。

 24日の外相会議では各国の意見がまとまらず、25日も協議を続けたが共同声明を発表するに至らなかった。
 中国との関係が強いカンボジアが態度を硬化させたことなどが理由。
 中国は会議後、カンボジアに感謝の意を表明した。 

 仏AFP通信によると、中国のカンボジアに対する根回しが奏功した結果となった。
 南シナ海の領有権問題で中国と対立するフィリピン、ベトナムが声明に強い対中姿勢を盛り込もうとしたが、カンボジアが反発して難色を示し、共同声明では触れられなかった。




ASEAN外相会議、南シナ海問題で中国に“配慮”
TBS系(JNN) 7月27日(水)10時47分配信


Record china配信日時:2016年7月30日(土) 3時30分
http://www.recordchina.co.jp/a146031.html

南シナ海問題、亀裂深まるASEAN、
カンボジア、中国の「代理人」に
外相会議声明、仲裁判決に言及せず

 2016年7月29日、南シナ海問題をめぐり、東南アジア諸国連合(ASEAN)の亀裂が深まっている。
 ラオスで開かれた外相会議では、常設仲裁裁判所(PCA)が中国の領有権を否定した直後にもかかわらず、各国の思惑が交錯。共同声明では仲裁裁判に言及しなかった。
 この中で中国の「代理人」役を買って出たのはカンボジアだ。

 ASEANはベトナム戦争中の1967年、米国の後押しを受けた「反共のとりで」として、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピンの5カ国でスタートした。
 84年にブルネイが加盟して6カ国になり、95年ベトナム、97年ミャンマー・ラオス 99年カンボジアと続き、計10カ国になった。

 日本メディアによると、24日からラオスの首都ビエンチャンで開催されたASEAN外相会議で、中国と南シナ海の領有権を争うフィリピンとベトナムは、共同声明に
(1):仲裁裁判の判決を歓迎する
(2):中国の大規模な埋め立てに懸念を示す
(3):法にのっとったプロセスと外交を尊重する
―などの明記を主張した。

 これに対し、カンボジアがASEANの「全会一致の原則」を盾に強く抵抗。
 25日に採択された
★.共同声明では南シナ海情勢について中国の名指しを避けつつ、「深刻な懸念」を表明し、「法的プロセスの尊重」の文言は盛り込まれたものの、
 仲裁裁判には一切触れなかった。 

★.ASEAN内の親中派はカンボジアラオスブルネイ
 ラオスは取りまとめ役の議長国で動きにくく、ブルネイは目立つのを好まない。
 AFP通信は「カンボジアがASEANの合意形成を阻止」と報じた。

 カンボジア政府を率いるフン・セン首相は、約300万人の国民を虐殺したとされるポル・ポト派(クメール・ルージュ)出身。
 東部地方軍の幹部だったが、ポル・ポト派指導部による粛清の危険を感じて1977年、ベトナムに逃亡した。

 カンボジアに侵攻したベトナム軍は79年1月、首都プノンペンを制圧し、ポル・ポト政権を打倒。
 ベトナム軍と共に母国に戻ったフン・セン氏は外相などを経て30代の若さで首相に就任した。
 当時、中国が支持していたポル・ポト派はタイ国境のジャングルに逃れ、フン・セン首相を「ベトナムの操り人形」などと非難していた。

 ASEANが大きな役割を果たしたカンボジア和平達成後もフン・セン氏は、ほぼ一貫して首相にとどまり、政権担当期間は30年以上に及ぶ。
 近年は経済援助や投資を続ける中国に急接近。
 かつて自らを権力の座に就かせたベトナムとは、すっかり袂(たもと)を分かった形だ。

 南シナ海問題に関する他のASEAN各国の立ち位置は複雑。
 領有権を主張するマレーシアや周辺海域で中国漁船の違法操業が相次ぐインドネシアは中国に批判的だが、タイ、ミャンマー、シンガポールは深入りを避けている。

 今回の共同声明が中国に配慮する内容になったのは、こうした関係の表れでもある。
★.PCAの“お墨付き”があるのに、域内の問題で明確な立場を示せなかったASEANは大きな岐路に立たされている。





【自ら孤立化を選ぶ中国の思惑】


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