2016年7月1日金曜日

東シナ海で日本を威嚇する中国(1):日本政府にとっては追い風だが

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 このところやたらと尖閣近辺で中国軍が動き回る。
 政府にとっては参議院選挙、おそらくそれに続く憲法改正を見通すと、中国政府の支援行動ではないかと思うほどで、ありがたいことに映る。
 惰眠をむさぼっていた「お詫びと反省の国」のマクラを蹴飛ばして、叩き起こしたのが2012年に起きた中国の反日デモである。
 寝ぼけ眼でフラフラ立ち上がって何とかしないといけないようだ、と気がついて打ち出したのが
 「普通の国」
というあまりにインパクトのないスローガンだった。
 同じような表現なら中国の「新常態」の方がゴロがいい。
 「普通の国」とは「新常態」ということであるが、どうも言葉に刺激性がない。
 「普通」を「新しい普通」とすれば
 英文ならどちらも「ニューノーマル」でいいだろう。
 しかし、普通に「新しい普通」はない、言葉の矛盾になる。
 長い惰眠から覚めておぼつかない足取りでヨタヨタ歩み始めて4年。
 このところ足腰もしっかりしてきたのが今の日本。
 さて、「普通の国:新常態:ニューノーマル」とするにはまず、マクラを蹴飛ばした中国に向き合わねばならなくなっている。
 中国としてはあれだけの反日デモをかけたのに、逆に日本を強気にさせてしまった失敗を取り返すために、東シナ海をあきらめて南シナ海へと矛先を変えた。
 ここはすんなりいった。
 中国に対抗できる国がいない。
 尖閣のウサを人工島建設で晴らした。
 なんといってもオバマが親中でことはすんなりいった。
 だが、少々やりすぎた。
 任期終了を目前に控えて「無能の大統領」という肩書で歴史から忘れ去られる可能性を思い煩ったとき、オバマが変身してしまった。
 


JB Press 2016.7.1(金)  阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47213

中国が東シナ海で日本を威嚇する本当の理由
緊張レベル高まる南シナ海情勢、
窮地に陥る中国


●米海軍がフィリピン・ルソン島中部のクラーク空軍基地に配備した電子戦機EA18グラウラー。中国による南シナ海の軍事拠点化の動きをけん制する狙いがあると見られる。米海軍提供(2016年6月5日撮影、16日公開)。(c)AFP/US NAVY/BOBBY J. SIENS〔AFPBB News〕

 世界は今、英国のEU離脱問題で揺れている。
 いずれこの問題が、「レファレンダム」(住民投票)という政治的意思決定の手段と意義に関わる形で、
 香港や台湾に影響が及ぶこともありうるだろう。
 それは、広義において、法治社会のあり方をめぐる問題につながる。
 香港や台湾で住民の意思が問われることになれば、中国の対応が改めて注目されることになるのは明らかだ。

 英国政府はレファレンダムの結果を厳粛に受け止めたが、政治民主化を否定する中国政府あるいは共産党指導体制が「民意を問う」こと自体ありえない。
 とはいえ、例えば台湾のように共産党の統治が及んでいない場所で、かつて陳水扁政権が試みようとして実現しなかった住民投票が本当に実施されて中国に不利な結果が出た場合、中国はどう受け止めるのか。
 それを無視するのは勝手だが、国際社会の厳しい目を覚悟しなければならない。

■いよいよ常設仲裁裁判所が裁決

 そしてまさに今、同様なことが問われようとしている。
 中国が主張する南シナ海の主権をめぐって、2013年にフィリピンがオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴した。
 いよいよその裁決が7月上旬に出される時期を迎え、俄然南シナ海をめぐる情勢が緊迫してきたからだ。

 習近平政権は国内で盛んに「法治」を強調してきたが、国際社会における行動準則たる国際法にどう対応するのか。
 中国は、例えば国連海洋法条約の「排他的経済水域」の設定基準の曖昧さを突いて、東シナ海の「排他的経済水域」の設定で「中間線」でなく「大陸棚延長論」を主張し、自分に都合のいい部分だけ「つまみ食い」しようとしてきた。
 だが、南シナ海の事例でそれは通用しそうもない。

 常設仲裁裁判所から中国にとって不利な裁決が出されることは広く予想されている。
 それに対して中国は一切を無視する姿勢を崩していない。
 常設仲裁裁判所の裁決は強制執行する手立てがない以上、評決そのものに拘束力があるわけではない。
 しかし、中国に裁決無視の対応を許せば、南シナ海は「無法地帯」になりかねないことも事実である。

■中国に明白な警告を発したカーター米国防長官

 6月18日から20日にかけ、米海軍が南シナ海に隣接するフィリピン東側海域で、「ジョン・ステニス」と「ロナルド・レーガン」の2隻の原子力空母を中核とした海軍戦力を集結させ、中国に米軍の戦闘力を誇示する形で軍事演習を行った。
 先週は、同じ西太平洋海域で、「ジョン・ステニス」も参加した米・日・印の3カ国演習「マラバール」を行ったばかりであった。

 6月18日付けの「ニューヨーク・タイムズ」の記事によれば、空母2隻による演習は予定を前倒しして行われたという。
 前倒しの理由は何なのか。

 6月3日から5日にかけて、シンガポールでアジア安全保障会議、通称「シャングリラ・ダイアローグ」が行われ、アシュトン・カーター米国防長官が6月4日にスピーチを行った。
 カーター米国防長官はスピーチの中で、南シナ海で人工島建設など拡張主義的行動を取り続ける中国に対し、
 「不幸にも中国がこうした行動をとり続ければ、自らを孤立させる万里の長城を築いてしまうことになるだろう」
と牽制した。
 また、質疑応答で、中国がスカボロー礁の埋め立てを開始した場合の対応を問われ、
 「そうならないことを願うが、もしそうなったら米国と地域の諸国がともに行動を起こす結果になり、それは地域の緊張を高めるのみならず、中国を孤立させることになるだろう」
と答えた。
 米国による中国に対する明白な警告である。

 これに対し、翌5日に中国代表の孫建国副参謀長(海軍上将)は、米国海軍の
 「航行の自由作戦(FONOP)」は明白な軍事的挑発であると非難し、
 フィリピンの常設仲裁裁判所への提訴の不当性を訴え、
 「我々がトラブルを起こすつもりはないが、トラブルを恐れるものでもない」
という強気の発言を繰り出した。

 しかし、中国がいくら強弁しようと、南シナ海における人工島建設など、一方的な現状変更を強行し、かつ国際法などの裏付けのない「九段線」をあたかも「海上国境」のごとく主張し続けることで、
 中国は外交的に「孤立感」を強めてきたことは間違いない。

 カーター米国防長官の発言は正鵠を射たものであった。
 さらに今度は空母2隻を中国の近海で展開するという米海軍の露骨とも言える軍事力の誇示に中国は晒されたわけだ。
 中国はオバマ政権の対中慎重姿勢をいいことに、人工島建設に代表される「一方的な現状変更」を継続的に行ってきた。
 これに対し、米国はそれを阻止するための具体的行動を取りあぐねてきたことも事実である。
 しかし、常設仲裁裁判所の裁決を機会に、中国の南シナ海における行動に懸念を深める国々を糾合し、国際的な圧力で中国を抑えこもうという米国の意思は証明されたと言っていいだろう。

■中国の南シナ海問題への対処法、ポイントは3つ

 ここで問題を整理しておきたい。
 中国にとって南シナ海問題への対処は、
(1):域外国、特に米国、日本等の干渉排除、
(2):関係国、特にASEAN諸国の分断、
(3):域外国と関係国との連携による中国包囲網の形成阻止、
が重要となる。

 (1)については
 昨年来、米国による「航行の自由作戦」が展開されると中国はこれに強く抗議し、対抗策として西沙諸島に対空ミサイルを配備するなど、南シナ海の軍事化に拍車をかけつつ、「海軍艦船を南シナ海に入れた米軍への対抗措置だ」として自己正当化を図っている。
 中国にとって許容できないのは、米軍と連動して日本の海上自衛隊が南シナ海で哨戒活動をすることであろう。

 (2)については、
 中国の“息のかかった”国を味方につけることである。
 南シナ海で中国と領有権を争っているのはフィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイだ。
 中国としては領有権争いに加わっていない国々、とりわけ中国の経済援助に依存するラオスやカンボジアを味方につけ、分断を図りつつ、領土問題については中国が優位に立てる二国間交渉に持ち込むことが基本的な戦略となる。
 カンボジアやラオスなどが中国の主張を支持すれば、「コンセンサス」を重視するASEANとして、中国に厳しい統一見解を出すことは難しくなる。

 (3)は、
 中国にとって最悪のシナリオを回避することであり、これは(2)を成功裏に進めることによって可能となるように見える。
 しかし、米国とベトナムの関係改善による武器供与の解禁や、米国とフィリピンとの軍事協力の進展、さらには日本とフィリピンやベトナムとの海上警察行動における協力などによって、事実上の「対中包囲網」が形成されつつあると言える。
 ただし、フィリピンの次期大統領に就任予定のドゥテルテ氏は嫌米親中とされており、今後のフィリピンの「立ち位置」が問われることとなる。

■東シナ海での領海侵犯は南シナ海から注意をそらせるため

 こうした状況のもとで、6月14日、中国雲南省玉渓で中国の主催によるASEAN・中国特別外相会議が開催された。
 南シナ海における領有権問題をめぐる常設仲裁裁判所の判断が近く示される見通しの中での開催である。
 この会議が注目されたのはいわば当然のことであった。
 しかし、会議の結末は唖然とさせるものだった。
 ASEAN側の複数の外相が中国に対し「深刻な懸念」を訴えた(バラクリシュナン・シンガポール外相)ものの、結局ASEAN側の共同声明は取り下げられ、中国・ASEANの共同記者会見もキャンセルされたのだ。

 この結末から垣間見えるのは、
 ASEAN側が「対中懸念」で結束しそうなところを中国が圧力をかけて反故にした構図である。
 領土問題では当事者ではないシンガポールやインドネシアなどのASEANのメンバーにしても、中国の「仲裁裁判そのものが無効」という姿勢に対して議論が紛糾したことが窺える。

 現状から言えることは、中国は、
 (1)の域外国による南シナ海への関与を有効に封じ込めることに失敗し、
 (2)についてのASEAN諸国間の分断も、現状では「かろうじて」凌いでいるレベルであろう。
 そうなれば、
 (3)の対中包囲網をいかに防ぐかが中国にとって課題となる。

 中国海軍戦闘艦の尖閣諸島の接続水域への侵入や、中国海軍情報収集艦のトカラ海峡での領海侵犯事例は、今後の海上自衛隊艦艇の南シナ海での哨戒活動を阻止すべく、東シナ海、南西諸島など日本周辺海域に注意を集めさせる(踏みとどまらせる)ための「陽動作戦」と解釈することもできよう。

 尖閣諸島海域に中国海軍の戦闘艦が侵入した事案は、もちろんこれまでの緊張レベルが一段上がったことを意味するわけで、今後は海上保安庁と海上自衛隊とのより一層の緊密な連携をもって対処せねばならないだろう。
 ただし、中国が海軍情報収集艦の領海侵犯について「無害航行」を主張し、「航行の自由」に言及したことは、
 今後、海上自衛隊が南シナ海を航行するときにも同じことを言えることになる
 (中国は排他的経済水域での他国海軍艦船の航行については事前の承認を求めている。
 すなわちダブルスタンダードである)。
 また、米海軍同様に「航行の自由」を標榜することによって日中の対等をアピールすることもできる。
 問われるのは、日本政府の「中国を刺激したくない」という消極姿勢であろう。

中国は南シナ海問題で、はっきり言えば「窮地」に陥っている。
 尖閣諸島など東シナ海に手を出したのは、関心をそらせるためである。
 フィリピン次期大統領という不確定要素はあるものの、中国包囲網の形成は着実に進展していると言ってよいだろう。
 窮地に陥った中国が今後どのような手を打つのか、予断を許さない。



ダイヤモンドオンライン 2016年7月4日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/94064

中国は戦前の日本と同じ過ちを犯し自滅に向かっている

参議院選挙や英国のEU離脱の陰に隠れて目立たないが、中国は日本への挑発を続けている。
挑発を年々エスカレートさせている中国。尖閣をめぐって日中が戦争になる可能性は、強まっている。
しかし大局を見れば、中国は戦前の日本と同じ過ちを犯し、自滅に向かっている。

■挑発の動きを強める中国
 真の狙いは何か?

 中国軍艦は6月9日、尖閣周辺の接続水域に入った。
 そして、6月15日には、鹿児島県・口永良部島周辺の領海に入っている。
 この2つの挑発について、順番に見てみることにしよう。
 まず、中国軍艦が6月9日、尖閣周辺の接続水域に入った件について、産経新聞6月10日から。

<防衛省などによると、9日午前0時50分ごろ、中国海軍のジャンカイI級フリゲート艦1隻が久場島北東の接続水域に入ったのを海上自衛隊護衛艦「せとぎり」が確認。
 フリゲート艦は約2時間20分にわたって航行し、午前3時10分ごろ、大正島北北西から接続水域を離れた。>

 これは、何を意味するのだろうか?
 中国は、年々挑発のレベルをエスカレートさせている。
 その行動には一貫性があり、戦略的な動きと見るべきだろう。

  ここで少し、中国の動きについて振り返ってみよう。
 2008年、米国発「100年に1度の大不況」がはじまった。
 09年、世界中の多くの人が、「米国の時代は終わり、中国の時代が来た」と思った
 (09年、米国のGDP成長率はマイナス2.78%だったが、
 中国はプラス9.2%だった。
 さらに、10年10.61%、11年9.46%成長。
 中国のGDPは日本を抜き、世界2位に浮上した)。

 10年9月、「尖閣中国漁船衝突事件」が起こる。
 どう見ても中国が悪いのだが、同国は日本に「レアアース禁輸」など過酷な制裁を課し、世界を驚かせた。
 この時期から、中国政府の高官たちは、「尖閣は、わが国『固有の領土』であり、『核心的利益』である」と世界中で公言しはじめた。

 12年9月、日本政府、「尖閣国有化」を決定。
 これで、日中関係は「戦後最悪」になってしまう。
 以後、中国は、「領海侵犯」「領空侵犯」を繰り返すようになっていく。
 12年11月、中国は、ロシア、韓国に「反日統一共同戦線」の創設を提案。
 中国の代表団はモスクワで、「日本には尖閣ばかりか、沖縄の領有権もない」と断言した(「反日統一共同戦線」戦略の詳細はこちらを参照)。

 13年11月、中国は尖閣も含む「防空識別圏」を設定。
 このように、中国は、10年以降、特に12年9月の「尖閣国有化」以降、徐々に挑発をエスカレートさせている。
 「反日統一共同戦線」戦略で宣言されているように、中国は
 「日本には尖閣の領有権も沖縄の領有権もない」
とはっきり主張している。
 その上で、挑発行動を徐々に強めているのだから、
 「まず尖閣を、その後沖縄を奪うことを意図している」
と考えるのが自然だ。

■中国につきあわされたロシア
 “二枚舌外交”でモタモタする米国

 ところで、上にあげた記事には、重要な続きがある。
 実をいうと、この時、接続水域に入ったのは、中国鑑だけではなかったのだ。
 再び産経新聞6月10日付(太線筆者。以下同じ)。

<これに先立ち、8日午後9時50分ごろ、ロシア海軍のウダロイ級駆逐艦など3隻が尖閣の久場島と大正島の間を南から北に向かって航行しているのを海自護衛艦「はたかぜ」が確認した。
 9日午前3時5分ごろに接続水域を離れた。>

 中国より先に、ロシア軍艦が入っていた。
 これは、当然「中国とロシアが一体化して行動した」と見るべきだろう。
 米国も、「中ロが日米同盟を牽制している」と受け止めている。

<尖閣接続水域侵入 米政府、日米同盟揺さぶりに警戒 自衛隊と連携し監視 産経新聞 6月10日(金)7時55分配信
 【ワシントン=青木伸行】
 米政府は8日、中国、ロシア海軍の艦船が尖閣諸島周辺の接続水域に一時入った事態について、日本と日米同盟への牽制(けんせい)と受け止め、自衛隊と緊密に連携し警戒監視活動に当たっている。
 政府は、「状況について報告を受けており、日本政府と連絡を取っている」(国務省東アジア・太平洋局)と強調している。>

 ロシアのこの行動、世界情勢を追っている人には、不思議に感じられるだろう。
 安倍総理とプーチン大統領は5月6日、ロシアのソチで会談。「両国関係は劇的に改善された」のではなかったか?
 また、このシリーズでもしばしば取り上げているように、「AIIB事件」以降、米国は中国を「主敵」と定め、ロシアと和解しはじめたのではなかったか?

 これは、そのとおりである。
 15年3月、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、イスラエル、韓国など親米諸国群が、米国の制止を無視し、中国主導「AIIB」への参加を決めた。

米国はこれで、「中国は覇権まで、あと少しの距離にいること」を痛感した。
 それでオバマは、中国以外の問題、具体的には
 「ウクライナ問題」
 「イラク核問題」
 「シリア内戦」
を「アッ」という間に解決した。
 国力を「中国との戦い」に集中させるためだ。
 オバマは、これら3つの問題を解決する過程でロシアとの協力を深め、米ロ関係は良好になっていった。

 しかし、ここに米国の複雑な事情がある。
 オバマと国務省は、「中国と対峙するためにロシアと和解する」という「リアリズム外交」を行っている。
 しかし、米国防総省は「中国もロシアも封じ込める」という、「単独覇権戦略」をいまも継続しているのだ。
 具体的には、NATOの強化と拡大である。

 NATOは、「反ロシア」の「巨大軍事同盟」で、ソ連崩壊後、拡大をつづけている。
 かつてロシア(正確にはソ連)の影響下にあった東欧諸国も、ロシア(正確にはソ連)の領土だったバルト三国も加盟している。
 さらに米国は、旧ソ連国でロシアの隣に位置するウクライナやグルジアを、NATOに加盟させたい。

 オバマ・国務省の「和解路線」と、国防総省の「対立路線」。
 この「二面外交」がプーチンを不審にさせ、「事実上の同盟国」である中国から離れることができないのだ。
 つまり、今回のロシア軍艦の動きは、「中国に依頼された」ということだろう。
 それ以外の理由は、見当たらない
 (「米国の外交が分裂している」と書くと、「そんなバカな!」と思う人もいるかもしれない。
 しかし、省によって、ある国へのアプローチが違うことは、よくあることだ。
 たとえば、米財務省は明らかに「親中」だが、
 国防総省は、はっきりと「反中」である)。

■中国軍艦の領海侵入をスルーした!?
憂慮すべき日本メディアの「平和ボケ」

 次に、2つ目の挑発について見てみよう。

<中国軍艦が一時領海侵入 口永良部島周辺海域 海警行動は発令せず
産経新聞 6月15日(水)11時7分配信
 防衛省は15日、中国海軍の艦艇が鹿児島県の口永良部島周辺の領海に入ったと発表した。
 同海域の領海に中国艦が入るのは初めて。
 中国艦はすでに領海を出ている。
 自衛隊に対して海上警備行動は発令されていない。
 政府は警戒監視を強めて情報収集を進めるとともに、中国の意図の分析を急いでいる。>

 この出来事について、知らなかった人も多いかもしれない。
 新聞には出ていたが、テレビニュースでは、完全にスルーされていたからだ。
 確かにこの日は、「舛添東京都知事辞任」「イチロー偉業達成」「北海道地震」など、大きなニュースがたくさんあったのも事実だ。
 しかし、中国軍艦の「領海侵入」という国家の安全保障にとって重大なニュースを完全に無視する日本のテレビはどうなっているのだろうか?

 「メディアが国民の『平和ボケ』を助長している」と批判されても仕方ないだろう。

  「知らぬが仏」という。
 中国が日本への挑発をエスカレートさせている事実を知らなければ、心穏やかに暮らすことができ、夜は熟睡することができるだろう。
 逆に、日本と中国の間で何が起こっているか事実をはっきり知れば、安心して眠ることができなくなるかもしれない。

 ただ、今回に関しては幸いなことに、日本国民がスルーをしても、大局的には問題が少ないと言える。
 確かに、中国に対して油断することは決してできないのだが、
 大きな流れで見れば現在、日本はどんどん有利になっているのだ。

 なぜか?
 15日の領海侵犯の意図について、産経新聞6月15日付は、以下のように書いている。

<防衛省幹部は中国の狙いについて「10日から同海域で行っている日米印共同訓練『マラバール』に参加しているインド艦艇2隻を追尾した可能性もある」との見方を示している。>

 そう、日本、米国、インドは6月10日から、共同軍事訓練を実施していたのだ。
 この訓練は、もともと米国とインドが行ってきた。
 しかし、昨年から日本も参加することになり、日米印の安保面での連携が、強固になってきた。
 この訓練の目的は、もちろん「対中国」である。
 中国は、この訓練に激怒して「挑発した」というのだ。
 実際、中国はインドに対しても、ひどい挑発をしている。

<中国軍がインド北部に侵入 領有権主張、日米との連携強化に反発か
産経新聞 6月15日(水)19時18分配信
【ニューデリー=岩田智雄】
 インドと中国が領有権を争い、インドの実効支配下にある印北部アルナチャルプラデシュ州に今月9日、中国人民解放軍が侵入していたことが分かった。
 印国防省当局者が15日、産経新聞に明らかにした。
 中国は、インドが日米両国と安全保障で連携を強めていることに反発し、軍事的圧力をかけた可能性がある。
 中国兵約250人は、州西部の東カメン地区に侵入し、約3時間滞在した。>

■日本に対してだけではない!
米国、インドも挑発して墓穴を堀る中国

 さらに、中国は、米軍に対しても挑発行動をしている。

<中国艦、領海侵入した日に日米印の共同軍事訓練で米空母を追尾
ロイター 2016年6月15日(水)20時40分配信
 中国の軍艦が日本領海に侵入した15日、沖縄本島の東方沖で行われている日、米、インドの共同軍事演習「マラバール」にも中国艦の影がちらついた。
 3カ国は対潜水艦戦などの訓練など通じ、海洋進出を強める中国をけん制しようとしているが、中国は情報収集艦を派遣して米空母を追尾した。>

 ここまででわかることは、何だろうか?
 中国は、日本だけでなく、米国、インドに対しても挑発行動をしている。
 しかし、これはむしろ「逆効果」だ。
 中国の行動で、日本、米国、インドが、「怖いから協力関係は解消しよう」とは決してならない。
 むしろ、日米印は「対中国」で協力関係を深化させていくことだろう。
 つまり中国は、「墓穴を掘っている」のだ。

  「日本はなぜ先の大戦で負けたのか?」――。
 いろいろ答えはあるだろうが、筆者は、「孤立したから負けた」と考えている。
 日露戦争が終わった1905年当時、日米英の関係は非常に良好だった。
 しかし、日本は同年、(戦勝の結果ロシアから日本に移譲された)「南満州鉄道を共同経営しよう」という米国の提案を拒否。
 戦時中多額の資金援助をしてくれた同国との仲を悪化させてしまう。

 ついで日本は、第1次大戦(1914~1918年)中、同盟国英国の再三の「陸軍派兵要求」を拒否しつづけ、同国に「日英同盟破棄」を決意させてしまった(1923年に失効)。
 日英同盟失効から10年後の1933年、日本は「満州国建国」に反対されたことを理由に、国際連盟を脱退し、国際的に孤立した。

 結果、1937年に日中戦争がはじまった時、日本は、米国、英国、ソ連、中国を敵にまわしていたのだ。

 これでは勝てるはずがない。
 そもそも、日本が満州に進出した安保上の理由は、ロシア(後にソ連)の「南下政策」を阻止するためだった。
 もし米国を「南満州鉄道」に入れておけば、どうなっただろう?
 米国が「ロシアの南下」を阻止するので、日本の脅威は大いに減っていたはずだ。
 ところが実際の日本は孤立し、破滅した。

 中国は今、当時の日本と同じ道を突き進んでいる。
 中国は、日本、米国、インドを愚かにも同時に挑発している。
 南シナ海では、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどと争っている。
 一方で、北朝鮮の暴走を事実上黙認しているので、子分だった韓国も、日本と和解して米国の影響下に戻ってしまった。

 チャイナマネーに目が眩んだ欧州は、「AIIB」や「人民元のSDR構成通貨問題」で、米国を裏切り、中国についた。
 しかし、中国経済は今年からはっきり「世界のお荷物」になっており、
 「金の切れ目が縁の切れ目」とばかり、欧州諸国も露骨に態度を変えてきている。

 中国の挑発は今も続き、ますますエスカレートしている。
 しかし、孤立を免れている日本は、孤立に向かっている中国より、有利な立場にいる。
 もちろん、油断は禁物。
 日本は先の大戦の教訓を活かし、「孤立」しないよう、くれぐれも慎重に進む必要がある。



朝日新聞デジタル 7月4日(月)21時49分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160704-00000133-asahi-pol

「日本の戦闘機がレーダー照射」 
中国国防省が空自非難

 中国国防省は4日、先月17日に東シナ海上空で航空自衛隊機が中国軍機に緊急発進したことについて、
 「日本のF15戦闘機が中国軍機に接近し、(射撃用の)火器管制レーダーを照射した」
と日本を非難した。
 中国軍機の行動を正当化する狙いがあるとみられる。

 日本政府関係者によると、先月17日、空自機が尖閣諸島を含む南西諸島周辺の上空で中国軍機に緊急発進する事態があった。

 これに関連して、自衛隊の元空将が同28日、中国軍機が空自機に「攻撃動作を仕かけてきた」との記事をネット上に掲載。
 「空自機は自己防御装置を使用しながら中国軍機によるミサイル攻撃を回避しつつ離脱した」
と記した。
 萩生田光一官房副長官は翌29日の記者会見で
 「(中国機から)攻撃をかけられたという事実は確認していない。
 近距離でのやりとりはあった」
と説明した。

 中国国防省は4日、記者の質問に答える形で
 「2機のスホイ30が東シナ海の防空識別圏をパトロール中、
 日本のF15戦闘機2機が急速に接近し、火器管制レーダーを照射した」
 「中国軍は戦術機動などの措置をとったところ、日本機は赤外線の妨害弾を投射して退避した」
と説明した。



毎日新聞 7月4日(月)23時53分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160704-00000090-mai-int

<中国>空自に攻撃動作は「事実の歪曲」

 【北京・石原聖】
 東シナ海上空で中国軍の戦闘機がスクランブル(緊急発進)した空自戦闘機に攻撃動作を仕掛けたと元航空自衛隊空将が発表したことをめぐり、中国国防省は4日、「事実の歪曲(わいきょく)だ」とする談話を発表。
 6月17日に空自の戦闘機が中国側に
 「火器管制レーダーを照射し、中国側が戦術的な機動動作で応対すると、
 (熱源を感知してミサイルから逃れる花火のような)フレアをまいて逃げた」
などとした。

 談話は、中国が設定した防空識別圏を定期パトロールしていた中国軍機2機に空自の戦闘機2機が急速接近して挑発したとも指摘。
 日中間の「海空連絡メカニズム」の早期運用開始のための「条件づくり」として
 「日本側が空中での偶発的な衝突を引き起こしやすい挑発的な行動を停止すること」
を求めた。



読売新聞 7月5日(火)7時37分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160704-00050130-yom-int

空自機の緊急発進「日本側が挑発」…中国反論

 【北京=蒔田一彦】東シナ海上空で6月17日、航空自衛隊の戦闘機が中国軍の戦闘機に対して行った緊急発進(スクランブル)について、中国国防省は4日、ホームページ上に談話を発表し、中国が東シナ海上空に設置した防空識別圏を巡視飛行中の中国軍のSu30戦闘機2機に空自のF15戦闘機2機が高速接近してきたものだったと反論した。

 同省は「日本機の挑発的な行動は空中の偶発的な事故を容易に引き起こす」とし、日本側に「一切の挑発行為の停止」を要求した。

 日本政府関係者はこの緊急発進について、空自機が相手ミサイルを誘導する火炎弾を発射するなどして空域を離脱したと説明している。
 一方、中国側は、空自機が中国軍機に向けて火器管制レーダーを照射したとしている。
 中国軍は、日本などから「挑発行為」を指摘されると、まったく逆の状況を主張して反論するケースが多い。




●【青山繁晴】核攻撃だってありえるぞ!米軍を本気で怒らせた中国【防空識別圏】2016年6月24日





【自ら孤立化を選ぶ中国の思惑】


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