2016年7月14日木曜日

南シナ海仲裁裁判決(3):習近平は法規範を信じない、信ずるものは文字通り「力」だ!

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 南シナ海周辺には強国はいない。
 よって中国が出てくれば巨象の登場で周辺国はその無謀をただ眺めているしかない。
 勝手に中国が荒らしまわったとしても対抗する手段がない。
 国際的な法を無視すると宣言した中国に対して、打つ手はない。
 中国の無法だけがこの地域のルールとなる。
 この無法を止める手立てはないという悔しさに忍従するしかない。
そこにアメリカが入ってきた。
 中国の支配拡張は止まらないが、とりあえずはアメリカ対中国のにらみ合いとなり、わずかだが均衡状態だ出現する。
 せいぜいそんなところだろう。
 中国の無法行為という暗闇に、僅かなアメリカの法行為が周辺国の灯火になるにすぎない。
 ほとんど期待できないほどの明かりではあるが。
 だが、ないよりあった方がいい。
 周辺国にとってアメリカはささやかな一筋の希望の光りなのである。

 中国は南シナ海に出ていったのは東シナ海が無理だと判断したからにほかならない。
 そこには日本があって、
 日本は中国の軍事力に対する恐れをまったくもっていない。
 防空識別圏すら守れない解放軍空軍に対して、
 中国が苛立ち嫌がるほどにスクランブルをかけられる日本の航空力を国民は信じている。
 中国艦艇の多さは海洋国日本の先の大戦の経験からいって、ほとんど気にならない。
 いっちょ事があれば、多くの中国艦艇は海の底に消える、と日本人は思っている。
 戦争キャリアのない中国海軍は数で鼻高々になっている。
 ことがあれば、それがポキッツと折れることは海軍より、共産党の方がよく知っている。

 尖閣を中国のヘリコプター部隊が急襲して占拠するから危うい、といった論理で煽る軍事評論家もいる。
 急襲するのはいい。
 果たして占拠し続けることができるか、と考えれば先が見えてくる。
 領空を支配しているのは空自であり、スクランブルすらきっちりとまともにできない解放軍には占拠を支援し続けることはできない。
 なら艦艇を尖閣に派遣して占拠を応援するという策がとれるかというと、これも無理。
 まさに、それこそ中国艦艇の墓場になってしまう。
 要はイニシャルコストか、ランニングコストかという問題になる。
 もし、占拠した部隊を見捨てることになったら、中国国内はどんな状態になるだろうか。
 共産党が崩壊しかねない。
 
 ちなみに日本の弱みはやはり憲法9条であろう。
 現実は9条など無視して軍事力を増強しているが。
 今は、現実に憲法を合わせるか、憲法に現実を合わせるか、の判断の局面にいる。
 尖閣が急襲されるようなことがあれば、待ってましたとばかりに憲法改正がすんなり国民の間で認められることになるだろう。
 尖閣は日本領土ということで、自衛力行使の範囲内にある。
 よってここでは軍事力が行使できる。
 となれば、9条は尖閣では足を引っ張る条文にはならない。
 逆にいうと、中国が尖閣を急襲してくれれば、日本にとってはありがたいことになる。

 南シナ海問題は日本にとって中国の無法を大きく宣伝してくれる。
 中国はヤバイ国家であり、ヤクザ国家であり、そんな国家に接している日本はそれなりの対策を取らねば国家存亡にもかかわるかもしれない、といった気分を国民内に蔓延させてくれている。
 いつ、この無法が東シナ海に移ってくるかもしれないという、危惧感を助長させる。 
 日本にとっては南シナ海はありがたい問題を
 劇として見させてくれている
ということでもある。
  先に行われた調査によると日本人の9割近くが中国を嫌っているということである。
 やたらと恫喝手段をとる中国のやり方に多くの日本人が辟易しているということの現れなのであろう。
 特に自分より弱いものに強圧的に振る舞う仕草は、弱いものいじめを嫌う日本人の判官びいきになじまない手法であろう。


BBCニュース 2016年07月14日
http://www.bbc.com/japanese/36792604

仲裁裁判所の南シナ海判決尊重を 
フィリピンが中国に呼びかけ



 フィリピン政府は14日、南シナ海の領有権をめぐって対立する中国に対し、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が12日に下した判決を尊重するよう呼びかけた。



 フィリピン外務省は文書で、15日からモンゴルで開かれるアジア欧州会議(ASEM)首脳会合の場で、ペルフェクト・ヤサイ外相が仲裁裁判所の判決を取り上げると表明した。

 同会合には中国の習近平国家主席も出席する。

 仲裁裁判所は12日、南シナ海のほぼ全域にわたる中国の領有権の主張には法的根拠がないとの判断を示した。中国は判決を無視すると表明している。
 中国は、南シナ海の領有権をめぐる争いは、仲裁裁判所の管轄外だとし、同国の活動に影響を及ぼさないとの考えだ。

 モンゴルの首都ウランバートルで開かれるASEM首脳会合は、仲裁裁判所の判決後、最初の主要な外交の場となる。


●ASEM首脳会合に出席するヤサイ比外相Image copyrightGETTY IMAGES

 会合には、南シナ海で同様に中国との領土問題を抱えるベトナムやマレーシアを含む53カ国の首脳が参加する。
 また、フィリピンにとっては、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の新政権発足後、初めての国際舞台になる。

 フィリピン外務省の文書では、会合でドゥテルテ大統領の名代を務めるヤサイ外相が、
 「ASEMの目的に沿う形で、南シナ海問題に対するフィリピンの平和的かつ法に基づくアプローチ、さらにすべての関係国が最近の判決を尊重する必要性について協議する」
と述べられている。

 仲裁裁判所の判決について、フィリピンが出した声明としては、これまで最も明確なものだ。
 ドゥテルテ大統領は、ベニグノ・アキノ前大統領よりも融和的な立場を示しており、仲裁裁判所がフィリピンの訴えを認めた場合でも、中国と天然資源を共有する用意があると述べていた。

 中国は、ASEM首脳会合は、南シナ海問題を「協議するのには適切な場でない」としている。



Record china 配信日時:2016年7月14日(木) 23時40分
http://www.recordchina.co.jp/a144849.html

<南シナ海>仲裁裁判所の判決は中国に有利?
最終的な勝者は中国か―インド紙

  2016年7月12日、インド英字紙ヒンドゥスタン・タイムズは、国際仲裁裁判所判決は中国にとって有利な結果をもたらすと分析した。
 14日付で環球時報が伝えた。

 国際仲裁裁判所は南シナ海問題に関する判決を下した。
 歴史的領有という中国の主張を否定したほか、人工島についても排他的経済水域(EEZ)を有する島しょではないとの判断を下した。
 中国にとって不利な判決であることは確かだが
 しかし最終的な勝者は中国かもしれない。 

 中国は南シナ海での実効支配を強化しているが、米国は有力な対抗手段を打ち出せないできた。
 約1年半前から「航行の自由」作戦を実施し、軍艦や軍用機を派遣しているが、大きな影響力は行使できていない。
 中国が判決を無視して実効支配の強化に努めれば、
 米国の無力はより鮮明なものとなる。 

 かつて東南アジア諸国連合(ASEAN)のエリートがインド高官に語った話が象徴的だ。
 「もし中国の空母が来たならば、米国に助けを求める。
 もし米国が空母を派遣しなかったら私たちはもろ手を挙げて中国の空母を歓迎するだろう」、
と。
 もし米国が有効な対抗手段を見つけられなければ、
 ASEAN諸国は中国を歓迎する道しか残されていない
というわけだ。



WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年07月14日(Thu)  石 平 (中国問題・日中問題評論家)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7294

南シナ海問題、裁定を「紙くず」と切り捨てる中国
「アメリカ黒幕説」を展開する理由

 今月12日、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海における中国の主張や行動は国連海洋法条約違反だとしてフィリピンが求めた仲裁手続きについての裁定を公表した。
 それは、中国が南シナ海の広い範囲に独自に設定した「九段線」に「法的根拠はない」と明確に認定した画期的な裁定であった。

 この裁定内容は、南シナ海の主権に関する中国政府の主張をほぼ全面的に退けたものだ。
 いわゆる九段線の「歴史的権利」が完全に否定されることによって、南シナ海全体への中国支配の正当性の根拠が根底からひっくり返されたのである。
 中国が南シナ海でやってきたこと、これからやっていくであろうことのほとんど全ては、国際法の視点からすれば、まさに「無法行為」と見なされたのである。

■どのように窮地から脱するつもりなのか

 裁定の内容は事前に察知していたものの、中国政府の受けた衝撃はやはり大きかったようだ。
 裁定が公表された7月12日午後5時過ぎ(北京現地時間)直後から、中国外務省は裁定に猛反発する政府声明を発表し、外務大臣の王毅氏も口調の厳しい談話を発表した。
 その1時間後、国営新華通信社は裁定を「単なる紙くず」と罵倒するような強烈な論評を配信した。

 翌日、人民日報は一面で本件に関する政府の2つの声明を並べたのと同時に、三面全体を使い、九つの論評・記事を掲載して批判と罵倒の集中砲火を浴びせた。

 一連の批判の中で、中国政府や国営メデイアは裁定を口々に「茶番」や「紙くず」だと切り捨てている。
 しかし裁定が単なる「茶番」や「紙くず」なら、中国政府と国営メディアはそこまで猛烈な反撃に出る必要はないだろう。
 中国側がそれほど神経質になって総掛かりの反撃キャンペーンを展開していること自体、裁定の結果が中国政府にとっての深刻なボディブローとなって効いていることの証拠である。

 中国政府は当初から、裁定の結果を一切拒否する方針であった。
 しかしここまでくると、騒げば騒ぐほどいわば「無法国家」としてのイメージを国際社会に定着させていくだけで、中国の国際社会からの孤立はますます進むだろう。
 そして今まで、南シナ海における中国の行動を厳しく批判しそれを阻止しようとしてきた米国や日本及び周辺関係諸国は、今後一層中国の無法的な行動を封じ込めようとするだろう。
 未曾有の窮地に立たされたのはどう考えても、中国の習近平政権である。

■「日米陰謀論」? その根拠は…

 習政権は今後、一体どのようにして窮地から脱出して体制を立て直そうとするのだろうか。
 実は、裁定公表の直前から現在に至るまで、中国政府と配下の国営メデイアが放った一連の反撃の言説から、彼らの考える対応策の概要を垣間みることができる。
 裁定に対する中国側の批判や反発の言説の特徴の一つが、裁定を米国が主導して日本が加担した、「外部勢力の陰謀」だと決めつけている点である。

 たとえば7月8日、人民日報の掲載論評は来るべき裁定について、
 「仲裁裁判所の裁定は提訴から裁定までのプロセスのすべてが、アメリカがアジア太平洋地域における自らの主導的地位を維持するために設けた一つの“罠”だ」
と論じて、アメリカこそが裁定の「黒幕」であるとの珍説を展開した。

 7月11日、裁定公表の前日、人民日報は再び裁定に関する論評を掲載したが、その論評も明確に、フィリピン政府による提訴の背後にアメリカの「アジア回帰戦略」があったとの見方を示し、「アメリカ黒幕説」をより具体的に展開した。

 同じく11日、国営通信社の中国新聞社も裁定に関する記事を配信したが、最後の部分で専門家の話を引用する形で、
 「南シナ海に関する今回の裁定は、アメリカの政治的操作の結果である」
と結論づけた。

 同日、もう一つの国営通信社である新華通信社も裁定に関する長文の「検証記事」を配信したが、冒頭から、
 「今回の裁定は、アメリカがその背後で操り、フィリピンがその主役を演じてみせ、日本が脇役として共演した反中茶番である」
との見解を示した。「アメリカ黒幕説」をさらに肉付けたものであると同時に、日本までを「陰謀」の加担者として引きずり出したのだ。

 こうして中国側は「アメリカ黒幕説」の一つの形を整えたつもりかもしれないが、その根拠はあまりにも脆弱である。

 「アメリカ黒幕説」の唯一の根拠は、柳井俊二氏という一人の日本人の存在である。

 人民日報や新華通信社の主張によると、元駐米大使である日本外交官の柳井俊二氏は、国際海洋裁判所裁判所長の在任中、オランダ・ハーグの仲裁裁判所の仲裁裁判官の5人中4人を任命したという。
 だからこそ、中国に不利な裁定が出たわけである、というのだ。
 中国側はまさにこの一点を以って、南シナ海裁定は「アメリカ主導、日本加担の茶番」だと認定した。
 正気な人ならば、この程度の根拠による「黒幕説」はこじつけにもならない荒唐無稽なものであると一目で分かるだろう。
 反論にも値しないような出鱈目というしかない。

 しかし中華人民共和国政府は堂々と、まさにこの根拠にもならない「根拠」を以って、アメリカという国を裁定の「黒幕」だと断定し、日本までを「加担者」に仕立ててしまった。
 中国はそこまでして、一体何を企んでいるのだろうか。

■「法への抵抗」から「正義の戦い」へ?

 中国政府はそこまで無理をしてでも、アメリカを「黒幕」に仕立てようとしたのには、二つの狙いがあろう。

★.一つはすなわち、裁判所の裁定それ自体の正当性を根底からひっくり返すことにある。
 つまり、裁判所を操っているのは自らの覇権を守ろうとするアメリカであり、そして今回の裁定は単なるアメリカの私利私欲から発した謀略の結果であれば、もはや何の公正性も正当性もない。
 したがって中国政府は当然、それを完全に無視し、拒否することができるのである。

★.もう一つの狙いは、アメリカを「黒幕」だと決めつけることによって、
 今回の裁定の一件を、「中国vs仲裁裁判所」の構図から、「中国vs強権国家・アメリカ」という戦いの構図へとすり替えることであろう。
 中国は最初から仲裁裁判所の裁定を一切拒否する構えであった。
 しかしそれは、仲裁裁判所に対する中国政府の抵抗だと国際的に認識されていれば、中国の分は悪い。
 国際社会から「裁判の結果に抵抗する無法者」
のように認定されてしまう。
 しかしそうではなく、仲裁所は単なる操り人形であって、アメリカという国こそがその「黒幕」であるなら、中国の裁定拒否はもはや「法への抵抗」ではなく、アメリカの強権に対する中国の「正義の戦い」となるのである。

 まさにこの二つの理由を以って中国は、宣伝機関の総力を挙げてアメリカを「黒幕」に仕立てようとしていた。
 それがもし成功していれば、中国は国際法のルールに公然と反抗するような無法国家として見なされるのではなく、むしろアメリカの陰謀に敢然と立ち向かう「勇士」として評価されるのかもしれない。
 そして、中国政府が今回の窮地からやすやすと脱出できるのではないかと習政権が計算しているのであろう。

■アメリカと関係を深める各国

 しかし、この虫の良すぎる計算が思惑通りになるかどうかは実に微妙だ。
 柳井俊二氏の存在と働きだけを根拠にしてアメリカを「黒幕」に仕立てるのはあまりにもいいかげんであり、国際社会を信頼させることは到底無理であろう。
 政府の情報遮断と洗脳にさらされている中国国内の一般市民以外、誰もそんな出鱈目を信じはしない。
 中国政府の宣伝は結局、自国民を欺く以外にほとんど効果がないだろう。

 そして、アメリカを「黒幕」に仕立てた以上、習近平政権は今後、より一層厳しい姿勢でアメリカと対峙していかなければならない。
 それは、アジア太平洋地域における中国自身の孤立に拍車をかけることとなろう。

 現在のアジアでは、日本が米国との同盟関係を強化しているだけでなく、一時「親中」と言われた韓国も、中国からの反対を押し切ってアメリカから最新型迎撃ミサイルの導入に踏み切った。
 「中国一辺倒」の偏った外交から脱出して親米へと再び戻ったと言えるだろう。
 東南アジアでは、同じく南シナ海の領有権問題で中国と対立しているベトナムも最近、アメリカからの武器禁輸全面解除などの「特別待遇」を受けて、関係緊密化を急いでいる。

 このような状況の中で、中国がアメリカと全面対決の姿勢を明確にすればするほど、中国から離れたり距離を置いたりする国はさらに増えてくるであろう。
 つまり、窮地から脱出するためにアメリカを「黒幕」に仕立てる習政権の策は逆に、中国にとってますます窮地を作り出しかねない。
 結局自らの首を絞めることとなるだけである。

■フィリピンとの直接対話に賭ける中国

 そうすると、中国にとっての最後の「起死回生策」は結局、裁定のもう一方の当事者であるフィリピンと直接対話による解決を図ることである。
 習政権にとって幸いなことに、南シナ海裁定が出る前から、フィリピンで政権交替があり、中国に強硬姿勢のアキノ政権から今のドゥテルテ政権に変わった。
 そしてドゥテルテ新大統領は度々、中国と対抗ではなく対話の道を選ぶとの発言をしている。

 したがって中国政府としては今後、極力フィリピン新政権との対話の糸口を見出して、両国間の直接対話に活路を見出そうとするであろう。
 当事者同士が直接の話し合いによって問題解決の道を探す、という姿勢を示すことによって、裁判所の裁定を無力化してしまい、アメリカや日本からの「干渉」を跳ね返すこともできるからである。

 だからこそ、今回の裁定に対する一連の批判・反発においては、中国政府と国営メデイアは、裁定の出発点となったフィリピンの提訴に対し、「悪いのはフィリピンの前政権」ということをことさらに強調し、新大統領への批判を一切避けている。
 そして、裁定が公表された直後の王毅外相の談話では、フィリピン新政権の姿勢に「留意した」とし、フィリピン政府との直接対話に意欲を示しているのである。

 もちろん、フィリピンとの直接対話が上手くいくかどうかは未知数だ。
 新政権は、南シナ海問題で中国と対話することによって経済援助やインフラ投資などの経済的利益を中国から引き出す魂胆であろうが、それでも、そのためにフィリピンが南シナ海の主権問題を中国に譲歩するようなことはまず考えにくい。
 主権問題を棚上げにしての対話がどこまで成果を挙げられるのかは分からない。

 しかも、裁定が中国の主張を全面的に退けたことで、今、
 中国との対話において優位に立つのはフィリピンであり、
 主導権を握っているのはドゥテルテ大統領である
と言っても過言ではない。
 フィリピンとの対話が中国政府の思惑通りに進む保証はどこにもないのである。

 結局、裁定に従う形で南シナ海での膨張主義政策を放棄するのが中国にとっての本当の「起死回生策」となるはずだが、それがどうしてもできないのは、中華帝国の伝統を受け継いだ習近平政権の救い難い「難病」である。
 南シナ海の秩序と平和を守るための国際社会の戦いは、今後も続くのであろう。



現代ビジネス 2016年07月15日(金) 長谷川 幸洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49175

ついに中国は戦争への道を歩み始めたのではないか、という「強い懸念」
戦前日本を思い出す

■「判決は紙くず」と切り捨てる恐ろしさ

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海における中国の主権を否定した。
 中国が岩礁を埋め立てて造成した人工島周辺の排他的経済水域(EEZ)や大陸棚も認めなかった。
 中国の完全な敗北である。
 中国はこれから、どんな行動に出るのだろうか。

 中国は6月13日、判決について「無効で拘束力がない」とする白書を発表した。
 外務次官は「判決は紙くず」と酷評している。
 判決前も戴秉国・前国務委員が同じ言葉を使って批判していたので、
 中国はどうやら「判決は紙くず」論で片付ける作戦のようだ。

 日本や米国、オーストラリアなどは中国に判決受け入れを求める声明や談話を出している。
 こちらも予想通りの展開である。
 主権の主張や人工島建設がいくら国際法無視の行為であっても、だからといって日米などに法を守らせる強制力はない。

 あくまで違法行為を非難する国際包囲網を築いて、中国に圧力を加えていく。
 米国は軍が南シナ海を定期的にパトロールして、中国の主張を実態的に崩していく。
 これに日本など各国も海と空から支援していく。
 当面はこれ以外の方策はない。

 先にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議では、フランスも欧州連合(EU)加盟国に対して南シナ海に海軍艦艇を派遣するよう呼びかける考えを表明した。
 欧州はこれまで距離を置いてきた感があったが、ここへきて南シナ海問題は他人事ではない、と懸念を強めているようだ。
 欧州勢の参加が実現すれば、日米欧豪が対中包囲網で協調する展開になる。

 加えて直接の当事者であるフィリピンやベトナム、マレーシア、シンガポールなど中国に距離を置く東アジア各国も対中圧力を強めていくだろう。

■激化するアメリカとの対立

 私は6月10日、ニッポン放送の参院選特別番組で安倍晋三首相に中国軍艦が尖閣や口永良部島周辺の領海を侵犯した問題について日本の対応を質問した。
 安倍首相は
 「中国が国際法を尊ぶ態度を示すよう国際社会で連携していくことが大切だ」
と答えた。

 中国への対応策は南シナ海でも東シナ海でも同じである。
 国際包囲網の圧力を強めて無法行為の断念を迫っていくのだ。
 だが、それで中国の姿勢が変わるだろうか。
 残念ながら、ほとんど期待できない。

 なぜなら彼らの戦略は行き当たりばったりではなく、実は首尾一貫しているからだ。
 一言で言えば、習近平政権の誕生以来、
 中国は「自国の縄張り拡大」を徹底して追求してきた。

 習近平政権が誕生したのは2012年11月だ。
 それから7ヵ月後の13年6月に訪米し、オバマ大統領との米中首脳会談に臨んだ。
★.そのとき習国家主席が大統領に持ちかけたのは「太平洋の縄張り分割」提案である。
http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/46233

 習主席は大統領に向かって「太平洋は米中両国を受け入れるのに十分に広い」という有名な台詞を吐いた。
 これは「太平洋は十分に広いのだから、米中両国で縄張りを分け合おうぜ」というのが真意にほかならなかった。
 これにはオバマ大統領が「日本が米国の同盟国であるのを忘れるな」と反撃したので、主席の目論見は見事に失敗した。

★.すると半年後の13年11月に持ちだしたのが、東シナ海上空の防空識別圏設定である。

 太平洋分割に失敗した後、本当は東シナ海の縄張りを言い出したかったのだろうが、それを言うと尖閣問題に直結して日米を刺激するので、海ではなく空の縄張りを言ったのだろう。
 ところが、これも米国が直ちにB52戦略爆撃機を飛ばして威嚇すると、中国は手も足も出なかったので結局、失敗した。

★.その次に、中国がターゲットに選んだのが南シナ海だった。
 南シナ海への進出自体はフィリピンが米軍基地を追い出した1992年以降から始まっていたが、2014年に人工島建設が本格化した。
 滑走路建設が確認されたのは14年11月である。

■ヤクザと同じ発想

 つまり、習近平政権は発足直後から一貫して太平洋、東シナ海とその上空、南シナ海と縄張りの確保と拡大を目指してきた。
 当初は「新型大国関係」というキャッチフレーズの下、米国と合意の上での縄張り分割を持ちかけたが、それに失敗したので、実力で南シナ海を奪いにきたのだ。
 こういう経緯を見れば、習政権が仲裁裁の判決が出たくらいで簡単に引っ込むと期待するほうがおかしい。
 縄張り拡大こそが習政権の本質といっていいからだ。

 なぜ、それほど縄張り拡大に執着するのか。
 そこは諸説がある。

 たとえば、
★.軍事専門家は南シナ海を確保できれば、米国を射程に収める弾道ミサイル(SLBM)の発射可能な潜水艦を配備できるから、圧倒的に中国有利になる、という。
 いざ戦闘となれば、潜水艦は人工島よりもはるかに敵に探知されにくい。

★.経済専門家は南シナ海には天然ガスや原油など無尽蔵の資源が眠っているからだ、という。
 エネルギー資源輸入国である中国にとって、自国の支配圏からエネルギーを入手できるようになれば、経済発展だけでなく安全保障にとっても大きな利点になる。

 いずれもその通りだろう。
 だが、私はもっと単純に彼らは「自分の縄張りを大きくしたいのだ」と理解すればいいと思っている。
 ようするに、ヤクザと同じである。

 ヤクザは縄張り拡大が即、利益拡大と思っている。
 それと同じで、習政権も「縄張り拡大が国益拡大」と信じているのだ。
 こういう考え方は、私たちとはまったく違う。
 日米欧をはじめ民主主義国は世界が相互依存関係にあることを理解している。

 自分の繁栄は相手の繁栄あってこそ。
 自国にとって貿易相手国の存在が不可欠であり、逆もまた真なり、と信じているから、互いの平和的関係を強化していく。
 そこでは平和と繁栄は一体である。
 だが、中国はそう考えていない。

 「オレはお前の縄張りを尊重するから、お前もオレの縄張りを尊重しろ」。
 中国はそれが共存共栄と考えているのだ。
 けっして相互依存関係にあるとは思っていない。
 相手に隙あらば自分の縄張りを拡大したい。いま南シナ海で起きているのは、本質的にそういう事態である。

 米国が南シナ海で航行の自由を完全に維持しようと思えば常時、空母を2隻は現地に派遣しておかなければならない、と言われている。
 だが米国にそんな余裕はないので、間隙を突いて中国はせっせと人工島に滑走路を建設してしまった。

■かつての日本がそうだった

 ヤクザに法の順守を説教しても始まらないのと同じように、中国に「法を守れ」と叫んでみても何も変わらない。
 相手の考え方、信じている生存の原理が根本的に違うからだ。
 習政権が信じているのは、法規範ではない。
 文字通り「」に他ならない。

 思い起こせば、かつての日本もそうだった。

 満州事変の後、日本は国際連盟が派遣した現地調査委員会(リットン調査団)の報告に同意できず1933年9月、国際連盟を脱退した。当時、日本陸軍の中堅幕僚で政策決定に大きな影響力を及ぼしていた永田鉄山は国際連盟をどう認識していたか。

 第21回山本七平賞を受賞した川田稔名古屋大学名誉教授の『昭和陸軍の軌跡 永田鉄山の構想とその分岐』(中公新書)によれば、
 永田は国際連盟が「国際社会をいわば『力』の支配する世界から『法』の支配する世界へと転換しようとする志向を含むものである」と理解していた(77ページ)。
 だが、国際連盟は各国に法の支配に従わせる力を欠いているので、いずれ世界戦争は不可避である。
 そうだとすれば、中国はいずれ列強の草刈り場になるから、日本も次期大戦に備えなければならない。
 そう判断していた。
 そういう考え方が満州事変後の連盟脱退、2.26事件、さらに盧溝橋事件から日中の全面戦争へと発展していったのだ。

 これは、まさにいまの中国ではないか。
 法の支配などといっても、
 中国を国際法に従わせる強制力や権威は仲裁裁にはもちろん、日米欧にもない。
 そうであれば、やはり力がモノをいう。
 習政権はそう信じているのだ。

 いまや中国は自国も批准した国際海洋法条約などどうでもいい、紙くず程度にしか考えていないのではないか。
 そうであれば、一方的に条約の枠組みから脱退する可能性だってありえなくはない。

 そうなれば、まさにかつて国際連盟から脱退した日本と同じである。
 その先にあるのは何だったか。
 最初は小さな武力衝突がやがて本格的な戦争に発展したのだ。

 日本の新聞やテレビはおずおずとして、はっきり言わないから、私がこのコラムで言おう。
 いま中国は戦争への道を走り始めたのではないか。
 まさに「歴史は繰り返す」である。
 そうならなければいいが、ならない保証はどこにもない。



新潮社 フォーサイト 7月12日(火)10時42分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160712-00010000-fsight-int

南シナ海「仲裁裁判」:「中国の野望」の分析と対策

●南シナ海の戦略的トライアングル

 2013年1月、フィリピンは南シナ海における中国との紛争について、政治的・外交的な解決努力は尽くしたとして、国連海洋法条約に基づく仲裁手続を開始した。
 仲裁裁判所の裁判事務を担当する、オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所(PCA)は昨年10月、フィリピンが提起した15項目のうち8項目は留保するものの、7項目について管轄権があると判定し、審理することを決定した。
 そして7月12日、その裁定が下されることになったのである。
 提起されている問題とはそもそも何なのか、仲裁裁判では何に対して裁定が下されるのか、そしてその結果どんな影響が南シナ海に及ぶのか。

■国際司法に訴え出たフィリピン

 2012年4月のことだった。
 フィリピン・ルソン島の西方、同国の排他的経済水域(EEZ)内にあるスカボロー礁の近くで、中国漁船の不法操業を取り締まろうとするフィリピンの艦船と、それを阻止しようとする中国公船とが対峙する事態になった。
 にらみ合いは続くが、2カ月後、悪天候でフィリピン艦船が現場海域を離れた隙を狙い、中国が同海域を押さえ、スカボロー礁は中国が実効支配するようになった。
 フィリピンの海軍力は艦船80隻、総トン数約4.7万トン。
 2700トン級のフリゲート艦2隻が最も大きい艦艇だ。
 これに対して中国は艦船892隻、総トン数142.3万トンで、潜水艦のほか6500トンや5700トンの駆逐艦などを擁しており、その圧倒的な戦力差は歴然としている。
 中国の一方的な実効支配を実力で覆せないフィリピンは2013年1月、国連海洋法条約に基づくPCAへの提訴という方法をとった。
 紛争の解決を当事者間ではなく、国際司法の場に委ねたのである。

■「島」なのか「岩」なのか

 ではフィリピンが提起し、仲裁裁判所が同裁判所に管轄権があると認めた7項目を見てみよう。
 因みに仲裁裁判所は一方の当事国の参加だけで審理を進めることができる枠組みである。

(1):スカボロー礁にEEZや大陸棚は生じない。
(2):南沙諸島のミスチーフ礁、セカンドトーマス礁、スービ礁は「低潮高地」(後述)であり、領海、EEZ、大陸棚は生じない。
(3):ガベン礁、ケナン礁は「低潮高地」であり、領海、EEZ、大陸棚は生じない。
(4):ジョンソン南礁、クアテロン礁、ファイアリークロス礁では、EEZ、大陸棚は生じない。

(5):中国はフィリピン漁民のスカボロー礁での伝統的漁業を不法に妨害している。
(6):中国はスカボロー礁、セカンドトーマス礁の環境保護に関して条約に違反している。
(7):スカボロー礁近海での中国公船の危険な運用は条約違反である。

 最も重要なのは、最初の4項目である。
 ここでは、対象となる各礁が国際法上の「島」なのかどうかが問題となっている。
 つまり、各礁の「国連海洋法条約上の法的地位」が争われているのだ。
 国連海洋法条約では、
 島とは
 「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるもの」
と定義されている(海洋法条約第121条1項)。
 ただし、人間が居住できなかったり、独自の経済的生活を維持できないものは「岩」とされ、EEZや大陸棚を持たないと定められてもいる(海洋法条約第121条3項)。

 一方、低潮高地の定義はこうだ。
 「自然に形成された陸地であって、低潮時には水に囲まれ水面上にあるが、高潮時には水中に没するもの」であり、「その全部が本土又は島から領海の幅を超える距離にあるときは、それ自体の領海を有しない」(海洋法条約第13条)。

 つまり「島」ならば、これを基点に領海やEEZ、大陸棚が決定されるわけだが、「岩」や「低潮高地」は「島」ではないので起点にはなりえない。
 仮にそれを人工島化しても、「自然に形成された陸地」ではないので、国際法上は「島」とはみなされないということなのである。

 これらのことを前提に7項目を見てみる。
★.まず(1)だが、スカボロー礁はそもそもフィリピンのEEZ内にあり、しかも同国はこれを「島」ではなく「岩」と認識している。
 だから中国がここを実効支配しても、中国のEEZや大陸棚は生起しない、という言い分である。
★.(2)~(3)については低潮高地だから、領海やEEZの基点となる「島」とは法的に認められない。
★.(4)は、既に中国が勝手に人工島にしてしまったが、その人工島をもって大陸棚やEEZの基点としていることはけしからん、という訴えなのである。
★.(5)~(7)は、国際司法上、上記(1)~(4)が証明されれば、当然違法だというべき内容である。

■間接的に「九段線」を論破?

 注意しなければならないのは、こうした項目に対する仲裁裁判所の裁定は、中国の南シナ海支配の是非を直接的に問うものではない、ということだ。
 中国は以前から、南シナ海のほぼ全海域を囲い込む「九段線」を主張している。
 これは、九段線内のエリアでは自らの主権、管轄権、歴史的権利がすべて及んでいるとするもので、西沙・南沙諸島などへの中国の進出は、すべてこの主張に基づいている。

 フィリピンはもちろんこの点についても、
 「九段線内での主権、管轄権、歴史的権利の主張は海洋法条約に反し、法的効力はない」
と仲裁裁判所に提起したが、昨年10月の裁判所の決定では「判断留保」とされ、直接的に審理されることはなくなった。
 しかし、もし各礁の法的地位についてフィリピン寄りの裁定が下された場合、結果として九段線の主張が崩されることになる。
 当然これを中国は受け入れず、「裁判は認めない」「仲裁裁判所に管轄権はない」「裁判所の裁定は受け入れない、拘束力もない」と、裁定が出る前から徹底して裁判を無視する言動を繰り返しているのである。
 彼らにとっては、国際司法判断上、違法か否かは問題ではなく、これまで積み上げてきた既成事実のみが大切なのである。

■南シナ海は「核心的利益」

 海洋法条約締結国でありながら、なぜ中国はそこまで裁判を忌避するのか。
 それは、中国にとって南シナ海が今や「核心的利益」になったからだ。
 中国の海洋進出はもともと、漁業や海底資源といった経済的利益を求めるためのものだった。
 今回の仲裁裁判の原因となったスカボロー礁での紛争も、中国漁船の操業が問題視されたことが発端だった。
 ところが中国は2014年から、実効支配している各礁の人工島化を急速に進めはじめた。
 中でも西沙諸島のウッディー島には3000メートル級の滑走路を造成したほか、レーダーシステムを設置、2砲兵中隊の地対空ミサイルを配備した。
 さらに南沙諸島のファイアリークロス礁も埋め立てが進められ、3000メートルを超える滑走路、軍用とみられる港湾施設などの軍事施設が完成あるいは建設中という状況だ。
 これはつまり、中国軍の前方展開が始まったことを意味しているのだ。
 3000メートル級の滑走路があれば、主力戦闘機を南シナ海に常駐させることが可能な上、港湾施設は、中国海軍水上艦艇はもちろん、戦略ミサイル潜水艦も海南島周辺よりも水深が深い南方に配備できるようになる。
 南シナ海を核心的利益と中国が宣言したことは、この地域が中国にとって経済的利益のみならず、軍事的、国家戦略上極めて重要なエリアに本質的に変ったことを意味しているのだ。
 したがって、中国がこれらをむざむざと手放すとはとうてい考え難い。
 ちなみに、東シナ海における尖閣諸島も「核心的利益」と言いだしたように、南シナ海の島嶼と全く同じ文脈で観る必要があることを付言しておく。

■「戦略的トライアングル」を阻止せよ

 そして今年3月、米軍が重大な発表を行った。
 中国がスカボロー礁周辺海域の測量を行っており、いずれ人工島の造成を始めるのではないか、というのである。
 もしスカボロー礁が軍事拠点化したら、フィリピンの喉元にまで中国軍が進出してくるだけではない。
 ウッディー島、ファイアリークロス礁、スカボロー礁を結ぶ、南シナ海の「戦略的トライアングル」が完成され、この地域の覇権を中国が完全かつ面的に掌握することになる。
 それは言い換えれば、中国が日本や韓国の生命線であるシーレーンを押さえるのみならず、対米核抑止力としての第2撃能力、即ち米国からの第1撃の核攻撃に対して場所が特定困難な潜水艦から核ミサイルを報復攻撃する能力、を握ることになるのである。

 こうした中国の野望を阻止する方法としてまず必要なのは、今回の仲裁裁判で、フィリピンの主張が国際的な司法判断として認められることだろう。
 もちろん中国は、そうした判断を受け入れず、スカボロー礁の軍事拠点化に手を染めるかもしれない。
 しかしそうなると、昨年来言われている米軍のフィリピン再駐留が急がれることになる。

 筆者は今年4月に寄稿した「海自護衛艦『カムラン湾寄港』の読み方」の中で、中国は南シナ海に「力の空白」が生じるたびに進出を繰り返した、と論じた。
 1992年、米軍はフィリピンのスービック海軍基地から完全撤退し、そこに力の空白が生まれた。
 が、一昨年、フィリピンと米国は、米軍によるフィリピンの軍事基地使用を盛り込んだ新軍事協定に署名。
 米海軍はスービック港に戦闘機やフリゲート艦を再度常駐させる計画だという。
 もしこれが早期に実現すれば力の空白は埋まり、中国のスカボロー礁軍事拠点化を阻止することが可能となる。
 どちらが先手を打つのかによって、南シナ海情勢は大きく変わるだろう。

■南シナ海で国際的な活動を

 だが、アメリカの動向に頼るだけでは不十分である。
 6月に寄稿した「日米への意趣返しか? 相次いだ中国軍艦の『進入』『侵犯』」でも述べたことだが、今回の仲裁裁判での司法判断を中国に理解させるためには、南シナ海問題を「国際化」することも必要である。
 6月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラダイアログ)で、フランスのルドリアン国防相は、EU(欧州連合)各国に「海軍艦艇を派遣しよう」と発言した。
 これは「国連海洋法条約に基づく考え方を中国に教えるため」に、「WEU(西欧同盟)海軍を南シナ海に派遣」しようという意味である。
 こうした国際的な活動が、中国に対しては案外効くのである。
 その中国は、仲裁裁判の判定次第では「海洋法条約から脱退する」とまで過激な発言をしているが、本当にそこまでエスカレートするだろうか。
 日本はかつて、満州事変に関するリットン調査団の報告を受け入れられず、国際連盟を脱退して孤立し、その後の悲劇を招いた。
 中国の現状は、当時の日本と似ている。もし
 海洋法条約から脱退すれば、中国は孤立し、破滅の道に向かって歩み出すことになりかねない。賢明なる指導者はそれをよくよく理解している、と信じたいところである。

元海将、金沢工業大学虎ノ門大学院教授、キヤノングローバル戦略研究所客員研究員 伊藤俊幸

Foresight(フォーサイト)|国際情報サイト
http://www.fsight.jp/



withnews 7月15日(金)7時0分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160715-00000001-withnews-int

中国が完敗、
仲裁裁判所が言い渡した「5つのダメ出し」と「2万字にわたる反論」 
南シナ海境界線

 南シナ海に主権が及ぶとして海洋進出を強める中国に、国際司法が初めてNOを突きつけた…。
 フィリピンが国連海洋法条約違反として申し立てた仲裁裁判。
 申し立てから3年半を経て出した結論は、中国の管轄権を全面的に批判するものでした。
 オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所が中国に突きつけた「5つのダメ出し」とは?
(朝日新聞国際報道部記者・今村優莉)

【ダメ出し1】中国が主張する境界線→『証拠なし』
 判決の最大の焦点は、中国が主張する独自の境界線、いわゆる「9段線」を認めるかどうかでした。
 中国側は南シナ海の全域がすっぽり収まる9段線を境界線として主張し、ここに自国の権利が及ぶとして、七つの岩礁を埋め立て、人工島などを造ってきました。

【判決では…】
 中国や他国の漁師が歴史的に南シナ海の島々を利用していたとしても、中国がその水域や資源を独占的に支配していたという証拠はない。
 よって裁判所は、中国が「9段線」内の海洋水域の資源について主張する歴史的権利は、法的な根拠はないと認定する。

【ダメ出し2】埋め立てた人工島→『岩以下』
 中国が埋め立てた人工島が何にあたるのかも争われました。
 仮に『島』であれば、周囲12カイリ(約22キロ)が“領海”として認められ“排他的経済水域(EEZ)”では資源の探査や人工島が設置できます。
 『岩』は領海のみが認められます。満ち潮の時は水没してしまう『低潮高地』だと何の権利も認められません。

【判決では…】
 中国が建設を進める七つの人工島についてはスビ礁、ヒューズ礁、ミスチーフ礁の3か所は『低潮高地』。
 南沙諸島に『島』はなく、この海域に中国の管轄権が及ぶ場所はない。

【ダメ出し3】中国艦船の存在→『フィリピン漁民の邪魔』
 中国の南シナ海における活動については、中国艦船がフィリピンの漁民の漁業を妨害しているという批判が起きていました。

【判決では…】
 中国はフィリピンのEEZ内で、フィリピンの漁業・石油探査の妨害や、人工島の建設などによってフィリピンの主権を侵してきた。
 フィリピン漁民のアクセスを制限して権利を侵害した。
 中国艦船はフィリピン船を妨害し、深刻な衝突の危険を生み出した。

【ダメ出し4】人工島建設→『環境を破壊』
 中国の“人工島”建設に関しては、自然を破壊しているという指摘がありました。

【判決では…】
 中国は大規模な埋め立てと人工島の建設を七つの岩礁で実施し、サンゴ礁に修復不可能な損害を与えた。
 中国当局は、中国人漁師がサンゴ礁に激しい被害を与える方法で絶滅のおそれがあるウミガメやサンゴ、ミル貝などを大量に捕獲していると知りながら、その活動を止める義務を果たさなかった。

【ダメ出し5】中国の態度→『証拠を破壊』
 大規模な人工島建設を強行した中国の態度が、今回の紛争を悪化させたかどうかも争われました。

【判決では…】
 中国は海洋環境に修復不可能な損害を与え、フィリピンのEEZ内で大規模な人工島を建設し、南シナ海諸島の自然な状態という証拠を破壊した。
 こうした行為は紛争解決の手続き中の条約国としての義務に背く。

■中国、2万字に及ぶ白書で反論

  さて、対する中国の反応を見てみましょう。
 もともと中国はこの裁判について「一片の紙くず」(戴秉国・前国務委員)、「受け入れず、参与せず、認めない」(人民日報)、「茶番劇」(王毅外相)と、相手にしない立場をとっていました。

 判決が下った翌13日、中国国務院は2万字に及ぶ白書で反論。
 タイトルは《中国は断固として、南シナ海に関する争いをフィリピンとの話し合いを通じて解決していく》というもので、これまた「5つの主張」を展開しています。

【主張1】南シナ海「2000年前から支配」
 中国人民の南シナ海における活動は、紀元前2世紀の西漢時代にさかのぼる。
 中国が最も早く発見し、命名し、利用し、かつ周辺海域にて有効的、平和的に主権を担ってきた。
 中国がこの海域における権益は長い歴史をかけて確立されたものであり、法的根拠に十分基づいたものだ。

【主張2】争いの発端は「フィリピンが違法に占拠」
 南シナ海を巡る中国、フィリピン両国の争いの発端は、フィリピンが違法に中国の管轄する南沙諸島の島嶼を占拠したことが核心だ。
 南沙諸島はフィリピン領土の外にある。国際海洋法の制度の発展が中国・フィリピン間の海洋区分の争いを生み出したのだ。

【主張3】争いは「話し合いによって解決する」
 中国は断固として南シナ海諸島における主権を守り抜き、フィリピンによる一方的な訴えに反対する。
 フィリピンとは話し合いを通じて解決していく。
 だが、残念なのは、フィリピン側に協力する意志が乏しいため、両国の話し合いが停滞している。

【主張4】「問題を複雑化しているのはフィリピンの方だ」
 フィリピンは、中国との間で成立した南シナ海紛争の解決に関するコンセンサスに背き、「国連海洋法条約」の制度を乱用して勝手に(仲裁裁判所に)訴えた。この行為は解決を導くためではなく、これを機に中国の自国の管轄を否定したいだけなのだ。

【主張5】中国は南シナ海を平穏に保つ要である。
 一貫して憲法に従い、国際法治の促進を保ち、国際法を尊重し、争いや不一致を話し合いによって解決してきた。
 ウィンウィンの関係を通じて南シナ海を平和的、友好的、協力的な海にするために尽力する。




【自ら孤立化を選ぶ中国の思惑】




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