『
WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年08月01日(Mon) 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7345
日本の財政が絶対に破綻しない理由
「日本政府の財政赤字は巨額で、借金も巨額であり、しかも今後は少子高齢化で財政収支は悪化して行くから、日本政府はいつかは破産する」と考えている人も多いようです。
それならなぜ日本国債を買うのだ?
といった話は別の機会に譲るとして、今回は日本政府の破産の可能性について、考えてみましょう。
結論を先に言えば、筆者は、財政は破綻しないと考えています。
読者は以下の拙稿を読んで「非常識だ」と思うかも知れませんが、それはそれとして、頭の体操として「どこが間違っているのだろう?」と考えながらお読みいただければ幸いです。
結果として筆者の誤りを指摘できず、筆者の意見に賛同して下されば、さらに幸いです。
■まずは「最後の手段」があることを確認
日本政府が破産することは、絶対にありません。
最後の最期には、日銀に紙幣を印刷させて国債を償還してしまえば良いからです。
日銀法などの改正は必要ですが、それだけのことです。
これは禁じ手であると言われていて、世の中に大量の紙幣が出回ると超インフレになる可能性が高まると懸念している人が大勢いますが、
日銀としては、預金準備率を大幅に高めることで、市場に出回る紙幣を減らし、超インフレを防ぐことも可能ではありますから、人々が考えているほど「有り得ない選択肢」ではなさそうです。
とはいえ、これは銀行への課税と同じ意味を持ちますから、なぜ銀行だけに課税するのか、といった議論が必要ですし、超インフレを心配している人が大勢いる政策は現実的ではないでしょう。
したがって、以下では、「紙幣印刷に頼らなくても国債は償還できる」ことを示したいと思います。
過激な案は、いくつも思いつきます。
たとえば資産課税で家計金融資産1700兆円の半分を税金で召し上げてしまえば、財政赤字はほぼ解消します。
さすがの筆者もこれは推奨しませんが、頭の体操としては
「消費税を未来永劫20%にする」
のと
「一回だけ資産課税をする」
のと、どれくらい違うのか、冷静に考えてみることも必要かと思っています。
相続税率を100%にすれば、日本の高齢者は平均すれば金持ちですから、莫大な税収が見込めるでしょう。
これは極端だとしても、
「相続税率を大幅に引き上げる。
一方で贈与税率を引き下げ、高齢者から子や孫への生前贈与を促す」
政策ならば、現実的かも知れません。
ここまでで、最悪でも政府の破産は無いということを確認した上で、上記のような極端な手段を採らなくても国債が償還でき、日本政府が破産しない、ということを示していきたいと思います。
■少子高齢化で増税が容易になる
バブル崩壊後、日本経済の長期停滞期には、失業問題が深刻でした。
そこで、時として大胆な失業対策としての公共投資が行われましたし、そうでなくとも「費用対効果の乏しい歳出」が続く傾向がありました。
「この歳出を止めると、現在この仕事に就いている人が失業してしまう」という反対論が強かったからです。
また、増税も容易ではありませんでした。
「増税をすると景気が悪化して失業が増える。そうなると税収が落ち込むのみならず、再び失業対策の公共投資が必要になってしまう」
という反対論が強かったからです。
中には単に税金を払いたくない人が景気悪化を理由として反対していただけの場合もあったでしょうが、そうした人に反対の口実を与えていたのが失業問題だったと考えれば、やはり失業が増税を困難にしていたのです。
また、筆者のように本当に景気を心配して増税に反対していた人も多かったと思います。
そして実際、増税によって景気が悪化し、景気対策が必要となって財政がむしろ悪化したように見えたケースもあったわけです。
しかし、今後は労働力不足の時代ですから、増税して景気が悪くなっても失業者が増えることは無いでしょう。
一時的に失業した人も、比較的容易に次の仕事を見つけることができるはずですから、問題は深刻化しないでしょう。
■増税がインフレ対策と財政再建の一石二鳥に
少子高齢化で労働力不足が深刻化していくと、インフレの時代が来ます。
恒常的に労働力が足りないので、物が不足して価格が上がっていくのです。
労働力不足による賃金の上昇も、コストプッシュ・インフレをもたらすでしょう。
通常は、インフレ抑制は金融引き締めの仕事ですが、昨今の日本のように政府が巨額の借金を抱えている場合、金融引き締めで金利が上がると財政部門の金利負担が巨額になってしまうので、好ましくありません。
従って、ポリシーミックスとして金融を緩和したまま増税で景気を抑制してインフレを抑え込もうということになりそうです。
現在、インフレ抑制に財政政策(増税等)が使われていないのは、増税はタイムラグが長いからです。
たとえば消費税の場合、法案を作成して国会で審議して、法律が成立してから準備期間を置いて、ようやく増税されるわけですが、その間に景気が悪化して、増税が実施される頃にはインフレが納まっている可能性も高いのです。
しかし今後は、恒常的なインフレ圧力に悩むことになりますから、増税で対応することが適切でしょう。
増税に多少時間がかかっても、その間にインフレ圧力が消えることはなさそうですし、高い税率で恒常的に景気を抑制し続けることが必用になってくるからです。
■政治的には過疎地を維持するか、といった問題も浮上
現在までのところ、過疎地に道路を整備する事業は、効率は悪いけれども失業対策の面もあるので、特に反対意見は強くありませんでした。
しかし今後は、労働力不足の時代を迎え、「過疎地の人々に都会に移住してもらえば、過疎地への道路を整備する必要がなくなり、道路建設要員が介護に従事できるようになる」といった意見が強まってくるでしょう。
「生まれ育った過疎地で暮らしたい」という人々の希望をどこまで尊重するかは政治の問題ですから本稿では深入りしませんが、仮に「過疎地から都会に引っ越していただければ年金を2倍支払います」といった制度ができるならば、財政赤字の面では大いに助かることになるでしょう。
■最後の最後は日本人が一人になるので財政赤字は解消
極端な議論ですが、少子化で一人っ子と一人っ子が結婚して一人っ子を産むことが続くと、最後は日本人が一人になります。
その子は家計金融資産の1700兆円を相続します。
同時に政府から1000兆円の税金を課せられるでしょうが、手元に700兆円残るので、豊かな人生を送るでしょう。
つまり、「財政赤字は子供たちに借金を残すから世代間不公平だ」という議論はミスリーディングなのです。
その部分だけを切り取れば正しいのですが、日本人の高齢者は平均すれば多額の資産を残して他界しますので、後世の世代には遺産が入るのです。
つまり、世代間不公平ではなく、遺産が相続できる子とできない子の世代内不公平が問題なのです。
これについては、相続税率を高くする、資産課税を行う等々の議論があるでしょうが、政治の問題ですから本稿では深入りはやめておきましょう。
■不適切な政策が採られなければ子供世代は豊かに
重要なことは、何千年後かに日本人が最後の一人になれば、財政赤字の問題は何の苦も無く解決する、ということです。
このことを充分に認識した上で、では今後何千年かの間に、いつ、どのような財政破綻が生じ得るのかを考える必要があります。
もちろん、政府が不適切な政策を採れば、財政が破綻する可能性も考えられるでしょうが、特に不適切な政策が採られなければ、淡々と日本人の人口が減少していき、子どもは両親の遺産(つまり4人の祖父母の遺産)を相続し、次第に豊かになっていく、ということになるでしょう。
その間、財務省は
「国の借金を国民一人当たりで計算すると、こんなに増えている」
と宣伝して増税キャンペーンを張り続けるでしょうが、気にすることはないのです。
以上が筆者の「暴論」ですが、いかがでしたでしょうか。
「非常識だし到底賛同はできないが、理論的に論破することも難しそうだ。
今後も論破を目指して頭の体操を続けよう」
と思っていただければ、筆者としては幸いです。
』
『
WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年07月18日(Mon) 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)
少子高齢化で日本経済が迎える黄金時代
「日本経済は、人口減少で衰退して行くし、
少子高齢化で年金も破綻しそうだし、
明るい展望など持ちようもない」
と考えている人は多いと思います。
しかし、少子高齢化にも悪い面と良い面があります。
筆者は、
今後10年間は少子高齢化の良い面が表面化し、日本経済は明るい時代を迎える
と考えています。
少数説ですから、「非常識だ」と考える読者も多いと思いますが、「どこが間違えているのだろう?」と考えながら御読み頂ければ幸いです。
読者の頭の体操になれば幸いですし、結果として読者が筆者の誤りを発見できずに、筆者に賛同していただければ、さらに幸いです(笑)。
■バブル崩壊後の諸問題の源は失業だった
バブル崩壊後、日本経済は長期停滞に陥りましたが、その根幹は失業問題でした。
失業が多い(労働力の供給超過)ので、賃金が下がり、デフレになり、それが景気を更に悪化させました。
失業者が不幸であるのみならず、「辞表を出せば失業する」という恐怖からブラック企業の社員が辞表を出せず、結果としてブラック企業が存続、増加してしまいました。
企業は、いつでも労働力が確保出来るという安心感から、正社員を減らして非正規社員を増やしました。
労働力を囲い込む必要を感じなくなったからです。
この結果、正社員になれずに非正規職員として生計を立てざるを得ない人が増え、「ワーキング・プア」と呼ばれる人々も出現しました。
ワーキング・プアは、結婚できなかったり、結婚しても子供が産めなかったりしたため、少子化に拍車をかける要因となりました。
財政赤字が膨らんだのは、失業対策として公共投資などを行なったことに加え、「増税すると景気が悪化して失業が増えてしまう」という反対論が強かったからです。
そして実際に増税して景気が悪化して財政赤字がむしろ悪化してしまったこともありました。
景気は「税収という金の卵を産む鶏」であるのに、それを殺してしまったからです。失業が問題であった真の原因は、日本人が勤勉で倹約家であることでした。
勤勉に物を作り、倹約に務めたことで物が余ったのです。
余った物は輸出をしましたが、それにより円高を招いてしまい、際限なく輸出を増やすことは出来なかったのです。
そこで企業は人を雇わなくなり、失業が増えた、というわけです。
■今後は失業より労働力不足が問題となる
★.少子高齢化によって、現役世代の人口(作る人)が急激に減りますが、
総人口(使う人)の減り方は緩やかです。
そうなると、
失業問題は自動的に解決し、労働力不足が問題
となってきます。
現在の日本経済は、まさに移行期で需要と供給のバランスが良い時期にあるのです。
そして、今後は少しずつ労働力不足の時代になっていきますが、じつは★.労働力は少し足りないくらいが経済にとって活力になる
のです。
非正規労働者の待遇は、労働力の需給を素直に反映するので、労働力が不足すると、非正規労働者の待遇が順調に改善して行くでしょう。
そうなれば、非正規労働によって生計を立てている人々の生活が改善し、ワーキング・プアが消滅します。
そうなれば、非正規同志が結婚しても子供が産めるようになり、少子化も緩やかになるかも知れません。
1日4時間しか働けない高齢者や子育て中の女性なども、仕事を探せば簡単に見つかるようになります。
まさに「一億総活躍社会」ですね(笑)。
子育て世代は消費性向が高いので、所得の増加が消費に直結しやすいですし、高齢者も、仕事を見つけられるようになれば、老後の不安が和らぎ、消費が増えることも期待されます。
■需要が増えれば供給が増える
現在、経済成長率がほとんどゼロなのに、労働力が不足しています。
これを見て、「日本経済は労働力不足なので成長出来ない(潜在成長率がゼロである)」と心配している人も多いようですが、これはバックミラーを見ながら運転するようなもので、将来予測としては正しくありません。
心配要りません。
需要が増えれば供給も増えるからです。
日本企業は、これまで省力化投資を怠って来ました。安い労働力が自由に使えたからです。
しかし、これからは労働力不足の時代になるので、企業は省力化投資を迫られることになるでしょう。
「省力化投資の必要が無かったから、投資をしてこなかった時代」に投資が行われなかったというデータを用いて、今後の投資を予測するのはミスリーディングなのです。
ここで明るい材料は、これまでサボって来た分だけ、日本経済には「少しだけ省力化投資をすれば大幅に省力化できる余地」が充分にあるということです。
これは、
今後は設備投資が増えて景気が上向くという需要面と、労働力不足でも供給力は増やせるという供給面と、
両方で明るい材料です。
■財政赤字問題も悪化しない
少子高齢化は財政を悪化させると多くの人が考えていますが、そうでもないでしょう。
これまで、「増税をすると景気が悪化して失業が増え、失業対策で財政が悪化する」ということで増税が難しかったわけですが、
★.今後は景気が悪化しても失業が増えないので、「気軽に」増税できるようになるでしょう。
むしろ、
かもしれません。
金融引き締めで金利が上がると政府の利払いが増加してしまいますから、
★.ポリシーミックスとして「金融は緩和したままにして、景気過熱を増税で抑え込む」
ということになるはずです。
そうなれば、増税は財政再建とインフレ対策の一石二鳥という事になります。
最期に、本当の極論です。
財政は破綻しません。
少子化が進むと、日本人の人口は減り続け、最後は一人になります。
その人は、1700兆円の個人金融資産を相続します。
国の借金が1000兆円あるので、同額の税金を徴収されるでしょうが、手元に700兆円あるので、豊かな一生が送れるはずです。
「財政赤字は、将来世代に増税することになるので世代間の不公平だ」と言われます。
その部分だけを切り取れば、その通りですが、日本人の高齢者は(平均すれば)多額の資産を残したまま他界し、遺産を遺します。
それも考慮すれば、世代間不公平など存在しないのです。問題は、遺産が相続できる子と相続できない子がいる、という「世代内不公平」なのです。
これをどうするか、相続税や累進課税を増税すべきか否かは、政治の問題なので、本稿で議論するのはやめておきましょう。
』
『
WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年07月25日(Mon) 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7342
バブル後の長期停滞は、日本人の勤勉と倹約が原因だった
皆が正しいことをすると、皆が酷い目に遭うことがあります。
銀行破綻の噂を聞いた人にとって、正しい行動は直ちに預金を引き出すことですが、皆が預金を引き出そうとすると、銀行は本当に破綻してしまい、ほとんどの預金者は損をします。
こうしたことを「合成の誤謬」と呼びますが、
バブル崩壊後の日本経済の長期停滞も、合成の誤謬が原因だったのです。
今回は、これについて考えてみましょう。
■日本人は勤勉に働き、
倹約に努める素晴らしい人々
日本人は勤勉です。
かつて日本製品が世界を席巻していた頃、妬んだ外国人から「日本人はウサギ小屋に住む働き中毒だ」と揶揄されていたものですが、勤勉が素晴らしいものであることは、言うまでもありません。
倹約家であることも、素晴らしいことです。
浪費より倹約の方が良いに決まっています。
江戸時代までの日本では、勤勉に働き倹約に努めることが、生きていくための条件でしたから、「正しい事が良い結果につながった」わけです。
明治以降、バブル崩壊までは、人々が勤勉に働いて多くの物を作り、倹約に努めて消費を控えたから設備投資機械が数多く作られて経済が発展したのです。
資金面から見ると、人々が勤勉に働いて倹約をして貯金をしたから、銀行が人々から預かった資金を設備投資資金として融資することが出来たのです。
ここでも「正しい事が良い結果につながった」わけです。
■皆が勤勉と倹約に努めると、
売れ残りが発生し、失業が増える
しかし、バブルが崩壊してみると、設備投資需要は小さくなってしまいました。
そうなると、物が余るようになったのです。
皆が勤勉に働いて大量の物を作り、皆が倹約に努めて物を買わないのですから、当然のことです。
そこで、売れ残った物を外国に売ろうとしましたが、それには限度がありました。
日本が巨額の輸出をすると、まずは貿易摩擦として外国政府の怒りを買ったのです。
加えて、輸出企業が持ち帰ったドルを売りに出すため、ドル安円高になり、輸出採算が悪化しました。
つまり、売れ残った物を無限に外国に売り続ける事は出来ないのです。
そうなると、企業は生産を減らしますから、雇用も減らします。
そうなると、失業が増えます。
この失業の増加こそが、バブル崩壊後の日本経済の諸悪の根源だったのです。
■デフレスパイラルの原因は失業だった
バブル崩壊後の日本経済は、デフレスパイラルに陥っていたと言われています。
消費者物価統計を見ると、それほど下がっているわけではありませんが、「消費者物価統計というものが、統計作成上の諸問題によって物価上昇率が高めに出る傾向がある」という事を考慮すれば、たしかにデフレスパイラルだったと言えるでしょう。
失業者が多いと、彼等は消費を抑えますから物が売れなくなり、物の需給が緩んで物価が下がります。
ディマンド・プル・インフレの反対ですね。
また、失業者が多いと、労働力需給の緩みによって賃金が下がります。
そうなると、サービス産業などで値下げ競争が起こります。
コスト・プッシュ・インフレの反対ですね。
要するに、失業はデフレの源なのです。
デフレになると、物が売れなくなります。
人々が更なる値下がりを予想して買い控えを行なうようになるからです。
設備投資も手控えられるでしょう。
借金をして工場を建てたとして、製品価格はデフレで下がっていくのに借金は減って行かないのでは、採算を採るのが難しいからです。
要するに、デフレになると景気が悪くなるのです。
そうなると失業が増えて、さらなるデフレを招くことになります。
スパイラル(悪循環)ですね。
これは、「実質金利が高くなるから」という説明も可能です。
実質金利というのは、金利から物価上昇率(厳密には予想物価上昇率)を差し引いた値のことです。
これが設備投資などを考える際に重要なのです。
物価が20%上昇している国で金利が10%であれば、人々は喜んで借金をして投資を行うでしょうし、買い急ぎも行うでしょう。
一方で、金利がゼロでも物価が下がっている国では、人々は買い控えをして貯金に励むでしょう。
要するに、金利を見る際には物価上昇率との対比で見ないと、景気への影響はわからない、という事なのです。
■財政赤字の元凶も失業だった
失業が増えると、失業対策として公共事業が行われるので、財政赤字が増えます。
それだけではありません。
増税しようとすると、
「増税をしたら景気が悪化して失業が増える。
失業対策として公共投資が増えるから、財政赤字がかえって増えてしまう」
といった反対論が高まります。
これは、増税が嫌だから言い訳として言っている論者もいるでしょうが、本当に財政赤字を心配している論者もいるでしょう。
実際、増税で景気が悪化して、財政がかえって悪化したと考えられる事例も見られているのです。
行政コストの削減も同様です。
行政コストの削減は、失業に直結する場合もあるので、増税以上に抵抗が強い場合もあるでしょう。
■少子化の一因も失業だった
失業者が多いので、
企業は正社員として労働者を囲い込まなくても、何時でも安い非正規労働者が確保出来ました。
そこで、企業は正社員を非正規社員で置き換えて行ったのです。
非正規労働というのは、従来は主婦や学生の小遣い稼ぎが中心でしたから、時給が低くても社会問題にはなりませんでしたが、これで生計を立てようとする人が増えてくると、「ワーキング・プア」の問題が出てきます。
ワーキング・プアは、自分の生活が苦しいだけでなく、結婚相手を見つける事が難しかったり、子供を産む事を諦めたりするケースが少なくないのです。
こうして考えると、少子化が進んだ一因は失業者が多かったことだ、と言えるわけです。
子どもが減ると、育児用品などの需要が落ち込みますから、景気が悪化します。
したがって、これも少子化と不景気のスパイラルになっていた、というわけなのです。
【参考記事】
本稿によって、勤勉と倹約によって物が余ったことが、長期停滞の原因であることが御理解いただけたと思います。
しかし今後は、少子高齢化により労働力が不足し、物が余らなくなります。
そうなると日本経済の様々な問題が一気に解決して黄金時代が来るかも知れません。
そのあたりは下記の拙稿を御覧いただければ幸いです。
また、勤勉と倹約が問題を引き起こすことを御子様にも御理解いただくため、アリ国とキリギリス国の物語にしてみましたので、よろしければ御子様たちに下記の拙稿を御紹介いただければ幸いです。
■少子高齢化で日本経済が迎える黄金時代
<前掲>
■アリとキリギリスで読み解く日本経済
<参考へ>
』
【参考】
『
アメーバブログ 2016-05-02 15:42:16 塚崎公義
アリとキリギリスで読み解く日本経済
アリの国に、勤勉で倹約家の王様がおりました。
アリたちは王様を見習って勤勉に働き倹約につとめましたから、国の経済は大いに栄えていました。
アリの王様は大いに満足し、国中を走り回ってはアリたちに一層勤勉に働き倹約に努めるように毎日命令していました。
隣はキリギリスの国でした。
キリギリスたちは、それほど勤勉でもなく倹約家でもありませんでしたが、豊かな土地と自由な雰囲気にあふれた国で、キリギリスたちは豊かで気ままな生活をエンジョイしていました。
アリの王様は、キリギリスの王様に言いました。
「国民が勤勉で倹約家でないと、経済が貧しくなりますぞ。
わが国を見習われては如何でしょう?」
キリギリスの王様が言いました。
「大丈夫ですよ。『みんなで使えばこわくない』と言うではないですか。
今までも困っていないし、これからも困ることはないでしょう。」
アリたちは王様の命令に忠実でした。
今まで以上に勤勉に働きましたから、今まで以上のパンが作られましたし、今まで以上に倹約しましたから、今まで以上に少ないパンで生活できるようになりました。
しかし、困ったことがおきました。
作ったパンが大量に売れ残り、腐ってしまうパンが増え始めたのです。
アリの王様は焦りました。
「勤勉と倹約は良いことだ。これを止めろとは言えない。
しかし、国民が勤勉と倹約を続ければ、ますます多くのパンが腐ってしまうだろう」。
そこで王様は、
「皆が勤勉と倹約に努めたため、充分なパンが出来るようになった。
褒美として抽選にあたったアリに長期休暇を与える」
というおふれを出しました。
休暇をもらったアリたちは、喜ぶどころか給料がもらえないことを悲しみ、更に一層倹約に努めました。
働いているアリたちも、「次は自分が給料をもらえなくなるかもしれない」と考えて一層倹約に努めました。
こうしてパンの売上が一層減ったため、作られたパンの量が減ったにもかかわらず、残って腐るパンは減りませんでした。
王様はますます焦り、ますます多くのアリに長期休暇を与えましたが、同じ事でした。アリたちが一層倹約したため、残って腐るパンは減らなかったのです。
こうしてアリの国は貧しくなっていきました。
ケインズという経済学者が
「王様が借金をして休暇中のアリを雇い、穴を掘ったり埋めたりさせればよいのです」
と言うので王様はそのとおりにしました。
すると王様に雇われた大勢のアリたちは給料がもらえたのでパンを買うようになりました。
パンが足りなくなったので、休暇中だったアリたちがふたたびパンを作りはじめ、アリの国はもとのように豊かになりました。
王様はしばらく喜こんでいましたが、やがて自分の借金が巨額に上っていることに気がつくと、穴掘りを止めてしまいました。
すると、穴掘りのために働いていたアリたちが仕事がなくなり、給料がもらえなくなり、再び倹約をはじめ、・・・という具合に、アリの国はまた貧しくなってしまいました。
一方、キリギリスの国では、キリギリスたちが大量にパンをたべる一方で、それほど真剣に働くキリギリスもいなかったので、パンが余って困ることはありませんでした。
したがって、キリギリスたちは自分で働きたいと思った分だけ働き、給料をもらい、それを全部使って楽しく暮らしていました。
だれも貯金などしませんでした。
「生活に困ったら働けばいいんだ」という安心感がありましたから、将来に備えて貯えておく必要を感じなかったからです。
じっさい、いつでも贅沢がしたければ多く働いて給料を稼いで贅沢をすることができましたし、いつでものんびりしたければ働く量を減らして少しだけ贅沢を我慢すればよかったのです。
あるとき、キリギリスたちは、働いた以上に贅沢をするために、アリたちからパンを買うことにしました。
お金はありませんでしたから、アリたちから借金をしてパン代を払うことにしました。
アリたちは、倹約をしていたおかげで貯金をたくさん持っていましたし、栄えているキリギリス国を見て「この国におカネを貸せば、将来大きくなって戻ってくるかもしれない」と考えたため、気前よく貸しました。
アリの王様はこれをみて喜んでいました。
アリたちが働きすぎるとパンが出来すぎて余ってしまうのですが、これをキリギリスが買ってくれるならば、パンが余ることがなくなり、アリたちが全員働くことができるからです。
実際、アリたちには仕事が増えて給料も増え、少しずつ豊かな生活が戻ってきました。
王様がもう一つ喜んだことは、キリギリスにおカネを貸しておけばアリたちが老後の生活に困ることもないということです。
アリたちの老後のためには、倉庫にパンを貯めておくよりもキリギリスたちにおカネを貸しておく方が、腐る心配もないし、ずっと安心だったのです。
そんなある日、アリの王様は夢を見ました。
キリギリスたちが
「俺達はアリ国からたくさん借金をしているが、これほど巨額の借金はとても返済することが出来ない。
返さないことにしよう」
と相談している夢です。
王様はびっくりして飛び起きましたが、キリギリスたちが借金を返さないはずがないと自分に言い聞かせて、安心して再び寝ました。
すると、今度は別の夢を見ました。
キリギリスたちが
「アリ国に借金を返さなくてはならない。
まず、これ以上アリから借金をするのはやめよう。
これからはアリの作ったパンを買うことが出来ないが、我慢しよう。
それから、出来れば大いに倹約して作ったモノが余るようにして、余った分をアリたちに買ってもらおう」
という相談をしているのです。
王様はふたたびびっくりして飛び起きました。
そんなことになったら、アリたちの働き口がなくなって、アリ国はふたたび貧しくなってしまうではありませんか。
すっかり目が覚めた王様は、考え込んでしまいました。
「どちらの夢もアリ国にとっては悪夢だ。
しかし、このままキリギリスたちの借金が膨らんでいけば、どちらかの悪夢が正夢になってしまうだろう。
どうしてアリ国はこれほど困難な事態に陥ってしまったのだろう」。
しばらく考えた後、王様はつぶやきました。
「1匹だけが勤勉で倹約家ならば、そのアリは豊かになれるだろう。
しかし、国中のアリが勤勉で倹約家だと、国中のアリが貧しくなってしまうのだ。
経済の神様は何という悪ふざけをなさるのだろう」
それから王様はどうしたのでしょう?
記録が残っていないので、はっきりしたことは言えませんが、
一説によれば、国中を歩いて「贅沢のすすめ」を説いてまわったということです。
もっとも、キリギリスたちも借金が返せずに大いに苦労したということですから、倹約のしすぎも贅沢のしすぎも困った結果に終わったのでしょう。
「過ぎたるは及ばざるが如し」というわけでしょうか。
【注】
本稿は、15年前に週刊東洋経済に寄稿したものです。
日本の失われた10年が「合成の誤謬」によるものであったとの持論をマンガ形式で表現したものです。
もちろん、マンガの絵はプロに御願いしましたが。
その後も状況に変化がなく、今読んでも違和感が無いのは、チョッと悲しいことですね。
』
アメーバブログ 2016-05-02 15:42:16 塚崎公義
アリとキリギリスで読み解く日本経済
アリの国に、勤勉で倹約家の王様がおりました。
アリたちは王様を見習って勤勉に働き倹約につとめましたから、国の経済は大いに栄えていました。
アリの王様は大いに満足し、国中を走り回ってはアリたちに一層勤勉に働き倹約に努めるように毎日命令していました。
隣はキリギリスの国でした。
キリギリスたちは、それほど勤勉でもなく倹約家でもありませんでしたが、豊かな土地と自由な雰囲気にあふれた国で、キリギリスたちは豊かで気ままな生活をエンジョイしていました。
アリの王様は、キリギリスの王様に言いました。
「国民が勤勉で倹約家でないと、経済が貧しくなりますぞ。
わが国を見習われては如何でしょう?」
キリギリスの王様が言いました。
「大丈夫ですよ。『みんなで使えばこわくない』と言うではないですか。
今までも困っていないし、これからも困ることはないでしょう。」
アリたちは王様の命令に忠実でした。
今まで以上に勤勉に働きましたから、今まで以上のパンが作られましたし、今まで以上に倹約しましたから、今まで以上に少ないパンで生活できるようになりました。
しかし、困ったことがおきました。
作ったパンが大量に売れ残り、腐ってしまうパンが増え始めたのです。
アリの王様は焦りました。
「勤勉と倹約は良いことだ。これを止めろとは言えない。
しかし、国民が勤勉と倹約を続ければ、ますます多くのパンが腐ってしまうだろう」。
そこで王様は、
「皆が勤勉と倹約に努めたため、充分なパンが出来るようになった。
褒美として抽選にあたったアリに長期休暇を与える」
というおふれを出しました。
休暇をもらったアリたちは、喜ぶどころか給料がもらえないことを悲しみ、更に一層倹約に努めました。
働いているアリたちも、「次は自分が給料をもらえなくなるかもしれない」と考えて一層倹約に努めました。
こうしてパンの売上が一層減ったため、作られたパンの量が減ったにもかかわらず、残って腐るパンは減りませんでした。
王様はますます焦り、ますます多くのアリに長期休暇を与えましたが、同じ事でした。アリたちが一層倹約したため、残って腐るパンは減らなかったのです。
こうしてアリの国は貧しくなっていきました。
ケインズという経済学者が
「王様が借金をして休暇中のアリを雇い、穴を掘ったり埋めたりさせればよいのです」
と言うので王様はそのとおりにしました。
すると王様に雇われた大勢のアリたちは給料がもらえたのでパンを買うようになりました。
パンが足りなくなったので、休暇中だったアリたちがふたたびパンを作りはじめ、アリの国はもとのように豊かになりました。
王様はしばらく喜こんでいましたが、やがて自分の借金が巨額に上っていることに気がつくと、穴掘りを止めてしまいました。
すると、穴掘りのために働いていたアリたちが仕事がなくなり、給料がもらえなくなり、再び倹約をはじめ、・・・という具合に、アリの国はまた貧しくなってしまいました。
一方、キリギリスの国では、キリギリスたちが大量にパンをたべる一方で、それほど真剣に働くキリギリスもいなかったので、パンが余って困ることはありませんでした。
したがって、キリギリスたちは自分で働きたいと思った分だけ働き、給料をもらい、それを全部使って楽しく暮らしていました。
だれも貯金などしませんでした。
「生活に困ったら働けばいいんだ」という安心感がありましたから、将来に備えて貯えておく必要を感じなかったからです。
じっさい、いつでも贅沢がしたければ多く働いて給料を稼いで贅沢をすることができましたし、いつでものんびりしたければ働く量を減らして少しだけ贅沢を我慢すればよかったのです。
あるとき、キリギリスたちは、働いた以上に贅沢をするために、アリたちからパンを買うことにしました。
お金はありませんでしたから、アリたちから借金をしてパン代を払うことにしました。
アリたちは、倹約をしていたおかげで貯金をたくさん持っていましたし、栄えているキリギリス国を見て「この国におカネを貸せば、将来大きくなって戻ってくるかもしれない」と考えたため、気前よく貸しました。
アリの王様はこれをみて喜んでいました。
アリたちが働きすぎるとパンが出来すぎて余ってしまうのですが、これをキリギリスが買ってくれるならば、パンが余ることがなくなり、アリたちが全員働くことができるからです。
実際、アリたちには仕事が増えて給料も増え、少しずつ豊かな生活が戻ってきました。
王様がもう一つ喜んだことは、キリギリスにおカネを貸しておけばアリたちが老後の生活に困ることもないということです。
アリたちの老後のためには、倉庫にパンを貯めておくよりもキリギリスたちにおカネを貸しておく方が、腐る心配もないし、ずっと安心だったのです。
そんなある日、アリの王様は夢を見ました。
キリギリスたちが
「俺達はアリ国からたくさん借金をしているが、これほど巨額の借金はとても返済することが出来ない。
返さないことにしよう」
と相談している夢です。
王様はびっくりして飛び起きましたが、キリギリスたちが借金を返さないはずがないと自分に言い聞かせて、安心して再び寝ました。
すると、今度は別の夢を見ました。
キリギリスたちが
「アリ国に借金を返さなくてはならない。
まず、これ以上アリから借金をするのはやめよう。
これからはアリの作ったパンを買うことが出来ないが、我慢しよう。
それから、出来れば大いに倹約して作ったモノが余るようにして、余った分をアリたちに買ってもらおう」
という相談をしているのです。
王様はふたたびびっくりして飛び起きました。
そんなことになったら、アリたちの働き口がなくなって、アリ国はふたたび貧しくなってしまうではありませんか。
すっかり目が覚めた王様は、考え込んでしまいました。
「どちらの夢もアリ国にとっては悪夢だ。
しかし、このままキリギリスたちの借金が膨らんでいけば、どちらかの悪夢が正夢になってしまうだろう。
どうしてアリ国はこれほど困難な事態に陥ってしまったのだろう」。
しばらく考えた後、王様はつぶやきました。
「1匹だけが勤勉で倹約家ならば、そのアリは豊かになれるだろう。
しかし、国中のアリが勤勉で倹約家だと、国中のアリが貧しくなってしまうのだ。
経済の神様は何という悪ふざけをなさるのだろう」
それから王様はどうしたのでしょう?
記録が残っていないので、はっきりしたことは言えませんが、
一説によれば、国中を歩いて「贅沢のすすめ」を説いてまわったということです。
もっとも、キリギリスたちも借金が返せずに大いに苦労したということですから、倹約のしすぎも贅沢のしすぎも困った結果に終わったのでしょう。
「過ぎたるは及ばざるが如し」というわけでしょうか。
【注】
本稿は、15年前に週刊東洋経済に寄稿したものです。
日本の失われた10年が「合成の誤謬」によるものであったとの持論をマンガ形式で表現したものです。
もちろん、マンガの絵はプロに御願いしましたが。
その後も状況に変化がなく、今読んでも違和感が無いのは、チョッと悲しいことですね。
』