2016年7月5日火曜日

南シナ海波高し(1):中国による「アメリカの南シナ海引き込み策」は意図したものなのか

_

  中国に理があろうとなかろうと、
 大きなミスは南シナ海にアメリカを引き込んだことにある。
 政治あるいは外交というものに正義はない。
 立場が違えば正義は無限にある。
 構えて軍事力で勝てるなら、おのれの正義を貫きと通してもいい。
 しかし、その代償は大きい。
 そこで外交という手段がある。
 現今において中国にとってもっとも大事なことは、アメリカをアジアに近づけないことだ。
 しかし見ている限り、中国が意図的にアメリカを南シナ海に引きずりこんでいるような雰囲気がある。
 アメリカ相手に一戦交えたい、というのが中国にとっての本当の目的なのであろうか。
 中国に長期的展望があるなら、じっくり待ったところで問題はないだろうに。
 中国は歴史的に長期的に考える、と言われているが、どうも性急に事を進め過ぎてはいないだろうか。

 見方を変えればこれは中国共産党の思惑という判断もできる。
 もはや、経済の零落を共産党は止めることができない。
 とすれば、これまで維持してきた共産党の正当性は失われる。
 そこで、目の先の海で事を起こして、陸の状況を海の状況にすり替えようということである。
 「偉大なる中国は今、超大国アメリカと正面から対峙している」
というラッパを高らかに鳴らすことができる。
 経済の不振をj民族的高揚感で補ぎなおうというわけである。
 それによって、社会不満を大きくそらすことができる。
 共産党延命策であるが、そうでもしないとヤバイほどに経済が落ち込んでいる、ということでもあるのかもしれない。
 また、状況をギリギリのところにおいて、誰も火中の栗を拾わないようにして政権の延命を計る、という手もある。
 
 中国によるアメリカの南シナ海引き込み策
は、意図したことか、それrとも計算違いによるものか、判断はつきかねる。
 実際にドンパチやれば、中国はアメリカの敵ではないし、場所が場所だけに、海ではなく本土にも被害が及ぶ。
 中国は瀬戸際で勝負しているのか。
 そういう負荷を国民に背負わすことによって、民意をコントロールしようとしているのか。
 戦争戦略としてみると、中国の出方は注視に値するものといえる。
 だが、このような戦術は麻薬みたいなもので、時に連れてエスカレートしていく。
 そして、あるとき閾値を超えことがある。
 それをどのように回避して錦地状態を保ち続けることができきるかである。


WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年07月05日(Tue)  小谷哲男 (日本国際問題研究所 主任研究員)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7170?page=1

南シナ海に迫る「キューバ危機」、試される安保法制

●(出所)各種資料を基にウェッジ作成 拡大画像表示

 南シナ海でキューバ危機の再来か─。
 中国が今夏にも戦略的要衝のスカボロー礁の埋め立てに着手する可能性が出てきた。
 米中軍事バランスを変えかねないこの動きに、米国は海上封鎖も検討せざるを得ない。
 日本は安保法制をどう適用するのか。

 今年3月、南シナ海に浮かぶスカボロー礁周辺で中国船が測量を行っており、新たな人工島を造成するための埋め立ての兆候が見られることを、米海軍が明らかにした。
 スカボロー礁は、フィリピン・ルソン島のスービック湾から西へ約200キロに位置し、2012年に中国がフィリピンから実効支配を奪って以降、2隻の中国政府公船が常駐している。
 4月には5隻の政府公船が確認され、米比など関係国はいつ埋め立て作業が開始されるのかと警戒している。

 中国の南シナ海での領有権主張が国際法に違反するとして、フィリピンが提訴した国際仲裁裁判所の判決がこの夏前にも出ると見込まれており、ハリス米太平洋軍司令官はその前後に埋め立てを始める可能性を指摘している。
 オバマ政権は人工島の建設が始まってもこれを実力で阻止することはなかったため、中国はオバマ政権の弱腰につけ込み、次期米政権が軌道に乗る前に埋め立てをする可能性が高い。
 米軍は、おそらく中国による埋め立てを牽制するため、スカボロー礁周辺でA-10攻撃機を飛行させたことを公表した。
 だが、このような牽制は中国に自衛措置として南シナ海のさらなる軍事化の口実を与えるだけであろう。

■スカボロー礁を奪取した中国の姑息なやりくち

 12年4月、フィリピン海軍がスカボロー礁で違法操業している中国漁船を拿捕したところ、これに対抗して中国が政府公船を派遣した。
 フィリピン側も海軍に代わって沿岸警備隊を派遣し、中比の政府公船が対峙する状況が続いた。
 両国は非難の応酬を繰り広げたが、台風シーズンの到来を控え、6月に中国が緊張緩和のために両国の政府公船と漁船の撤収を提案した。
 フィリピンは自国船を撤収させたが、中国は船を撤収せず、むしろ礁の入り口を塞(ふさ)ぎ、そのまま実効支配を完成させた。

 振り返ってみれば、中国が漁船をスカボロー礁に送り込んだ時から、この環礁に人工島を建設し、軍事利用するという壮大な計画がすでにあったと考えるべきである。
 スカボロー礁は、米軍がすでに利用している旧米海軍基地のスービック湾や、クラーク旧米空軍基地などに近い。

 4月下旬に、カーター米国防長官は、中国によるスカボロー礁の埋め立てに強い懸念を示し、「軍事衝突を引き起こし得る」と発言した。
 スカボロー礁に軍事基地ができれば、スービック湾を含めルソン島の軍事施設を監視し、直接ミサイル攻撃できるようになるからである。

 また、中国が九段線に基づいて南シナ海上空における航空優勢を確立するためには、西沙諸島と南沙諸島に加え、スカボロー礁を埋め立てなければならない。
 西沙諸島、南沙諸島、そしてスカボロー礁の3カ所に空軍基地を持つことで、九段線内全域の上空監視が可能となり、戦闘機による事実上の防空識別圏の運用も可能となるのである。
 西沙諸島は3000メートルの滑走路を備え、レーダー施設、対空ミサイル、戦闘機の配備によって事実上の空軍基地となっている。
 南沙諸島の人工島でも、3000メートルの滑走路が完成し、レーダーの配備も確認され、戦闘機が配備されるのも時間の問題であろう。
 スカボロー礁が空軍基地となれば、現在は九段線内の盲点となっている北東部をカバーすることができるようになる。

 中国は海南島に新型の晋級戦略ミサイル原子力潜水艦を配備しており、長距離ミサイルJL-2が搭載されるのも時間の問題と考えられている。
 中国は九段線内をこの戦略ミサイル原潜のための「聖域」とする必要があり、スカボロー礁を埋め立てるのは対米核抑止を強化するという戦略的観点からも急務である。
 南シナ海問題の中核は、中国が陸上配備の移動式大陸間弾道ミサイルの開発に加え、海中配備の核抑止力の保持を目指している点にある。
 中国が対米核報復(第二撃)能力を向上させるためには、米海軍が常時行っている中国沿岸部での情報収集・偵察・監視活動を阻止しなくてはならない。
 このため、南シナ海とその上空における優勢を確立するために人工島を建設しているのである。

 スカボロー礁の埋め立ては、すぐに米中間の軍事バランスや戦略核バランスを劇的に中国に有利なものにすることはない。
 有事になれば、米軍は南シナ海の人工島を容易に破壊または奪取できる。
 また、中国の戦略ミサイル原潜が米本土を攻撃するためには、南シナ海から太平洋の真ん中まで捕捉されずに出ていかなくてはならないし、指揮命令システムも十分に構築されていない。
 ただ、少なくとも平時において、中国は米軍の監視活動の妨害をしやすくなる。
 平時の監視活動、特に潜水艦の位置の捕捉は、有事の際に極めて重要である。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)のクーパー研究員とポリング研究員は、中国がスカボロー礁の埋め立てを強行する場合は、フィリピンが行う「隔離」、つまり海上封鎖を支援するべきであると主張している。
 「隔離」は、1962年のキューバ危機で、ソ連船がミサイル部品をキューバに海上輸送するのを阻止するために、米海軍がカリブ海で実施した。キューバ危機で米ソは核戦争の一歩手前までいったが、米海軍が「隔離」を実施する中、米ソは威嚇と誤解、対話と譲歩、そして幸運によって危機を回避した。
 中国がスカボロー礁の埋め立てに着手するなら、フィリピン海軍と沿岸警備隊が中国作業船の領海内への進入を阻止し、米国を中心とする有志連合の政府公船および軍艦が領海外で支援し、埋め立てをあきらめさせるのである。

 もちろん、岩礁の埋め立ての阻止のために、中国との軍事衝突を引き起こしかねない海上封鎖など論外というのが一般的な見方であろう。
 世界を消滅させる可能性があったキューバ危機はわずか13日間であったが、中国が「中国のカリブ海」で行っていることはより長期的な問題で、切迫感はないかもしれない。

 だが、国際社会が現状変更を実力で止める覚悟がないことを中国は見抜き、既成事実を作り上げてきた。
 埋め立てが始まってもこれを看過すれば、南シナ海はいずれ中国の「湖」になる。
 そうなってからでは手遅れである。
 国際社会はスカボロー礁の埋め立てが「レッドライン」であることを中国に伝え、それを越えた場合、「隔離」を実施する覚悟を持たなければ、いずれ深刻な危機が訪れるであろう。

■ホムルズ海峡の答弁踏まえ安保法制をどう適用するか

 仮に米軍が「隔離」を行う場合、日本は、平和安全保障法制の下で、日本の平和と安全に重要な影響を与える重要影響事態に認定するかどうかの判断を迫られる。
 南シナ海情勢は重要影響事態の対象となり得ることは、安倍首相が国会答弁で言及している。
 事態認定ができれば、自衛隊による補給、輸送、捜索救難、医療など多岐にわたる後方支援が可能となる。

 ただ、キューバ危機では、米海軍の「隔離」に対して、ソ連海軍は潜水艦を派遣し、米海軍がこれを強制浮上させることがあったし、キューバ上空で偵察機U-2が撃墜されることもあった。
 南シナ海の「隔離」でも、中国が同様の挑発行為をしてくることが想定されるため、自衛隊には米軍の「アセット(装備品等)防護」が求められる。
 ただ、そのためには米軍が日本の防衛に資する活動をしているという認定が必要である。

 さらに、中国が「隔離」を妨害するために機雷を敷設した場合、米海軍は世界一の掃海能力を誇る海上自衛隊に支援を要請するであろう。
 だが、機雷掃海は武力行使に当たるため、これに応えるためには集団的自衛権を行使が許される存立危機事態の認定が必要となる。
 また、重要影響事態における船舶検査では、船長の承諾が必要なため、中国船に検査を拒否されれば、実効性は薄まってしまう。
 強制的な検査実施のためには、やはり存立危機事態の認定が必要である。

 南シナ海の「隔離」で日本が役割を果たすためには、存立危機事態の認定が必要である。
 そのためには、事態が日本の存立を脅かすだけでなく、武力行使以外に方法がない、武力行使は必要最小限という新三要件を満たさなくてはならない。
 集団的自衛権の行使に関して、政府はホルムズ海峡の封鎖を例にこれまで説明してきた。
 だが、他に代替ルートのないホルムズ海峡とは違い、南シナ海には代替ルートが存在するため、新三要件に当てはまるかどうか議論が分かれるであろう。
 政府は平和安全保障法制の目的をどのような事態にも「切れ目なく」対応するためと説明してきたが、南シナ海情勢がその試金石となる可能性がある。

●重要影響事態とは
  そのまま放置すれば日本に対する直接の武力攻撃に至る恐れのある事態など、日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態

●存立危機事態とは
  日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

●集団的自衛権による武力行使の「新三要件」
  ① 存立危機事態であること
  ② 日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
  ③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと



産経新聞 7月6日(水)7時55分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160706-00000056-san-cn

中国、艦隊主力を集結 南シナ海演習、最大級 「米軍と衝突視野」



  【北京=矢板明夫】中国人民解放軍は5日、南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島周辺で大規模な軍事演習を始めたもようだ。
 海軍の三大艦隊から複数の艦船が参加し、演習規模としてはこれまでで最大級だという。
 12日にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海をめぐる問題で裁定を示すのを前に、この海域で海軍力を誇示し、主権問題で妥協しない強硬姿勢を内外に示す狙いがあるとみられる。

 軍事に詳しい中国人ジャーナリストによると、今回の演習には南シナ海の防衛を担当する南海艦隊以外からも多くの艦船が参加。
 北海艦隊からは瀋陽、東海艦隊からは寧波などのミサイル駆逐艦も加わる。
 これらの艦船は7月初め以降に、海南島の三亜港周辺に結集したという。
 三大艦隊の主力艦を参加させ、南シナ海問題で譲らない姿勢を強調する狙いがうかがえる。

 演習について、中国国防省は「年度計画に基づいた定例の演習だ」と中国メディアに説明している。
 しかし、演習期間は5日から仲裁裁の裁定発表前日の11日までの約1週間で、裁定が念頭にあるのは明らかだ。

 中国海事局が「船舶の進入禁止」に指定した広い海域の上空は、米国の偵察機などがよく活動する場所でもある。
 2001年4月、米中の軍用機が衝突した海南島事件の発生地も含まれている。

 中国の軍事評論家は、
 「中国に不利な裁定が下されれば、米軍がこの海域で中国に対する軍事的圧力を強化するとみられる。
 このため、今回の演習は、米軍との軍事衝突という事態も視野に入れて行うものだ」
と指摘した。
 中国紙、環球時報は5日付の社説で、仲裁裁が下す結論は「受け入れられない」と強調した上で米国が深く介入しており公平ではないと断じた。

 また、
 「南シナ海問題で私たちはこれまで忍耐を重ねてきたが、もうこれ以上引くことはできなくなった」
とし、
 「私たちはいかなる軍事的圧力にも、対抗できる準備をしなければならない」
と主張した。


ロイター 2016年 07月 6日 16:52 JST
http://jp.reuters.com/article/southchinasea-ruling-idJPKCN0ZM0J2?sp=true

焦点:南シナ海の仲裁裁定を控え、
中国のプロパガンダが過熱

[香港/ロンドン 3日 ロイター] -
 南シナ海の領有権をめぐりフィリピンが中国を訴えた国際的な仲裁裁判の判断が迫るなか、日本や米国、東南アジアの当局者が神経を尖らせている一方で、中国高官は「気にしていない」と明言する。

 南シナ海での領有権を主張する中国と、極めて重要な国際貿易ルートでもある同海域における同国の行動に反発したフィリピンの提訴を受け、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は今月12日、裁定を下す。

──関連記事:南シナ海問題で来月仲裁判断、中国拒否なら「無法国家」の声も

 南シナ海の9割に主権が及ぶと中国は主張しており、フィリピンは国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき、異議を申し立てている。
 「実際いつ裁定が下されるのか、知らないし、関心もない。
 どのような裁定が下るにせよ、全面的に間違っていると考えるからだ」。
 中国の劉暁明駐英大使は、ロンドンでの昼食会でロイターに語った。

 「(裁定は)中国や、それらの岩礁や島嶼(とうしょ)についての中国の主権に何らの影響を与えるものではない。
 それは重大で不当な、悪しき前例となるだろう。
 この件について法廷で争うつもりはないが、自らの主権のために、もちろん戦うことになる」

 仲裁裁判所の裁定を無視しようとする中国政府の方針は、国際法に基づく秩序の拒絶と同時に、米国に対する直接的な挑戦を意味する。
 米国は、中国が軍事及び民生用目的で同海域の島々と岩礁を開発しており、地域の安定を脅かしていると考えている。

──関連記事:南シナ海仲裁手続き、中国が直面する「国際的代償」

 また、それは領有権紛争リスクをさらに高めることになると、弁護士や外交官、安全保障の専門家らは指摘する。
 裁定結果が下された後で、米政府がどう対処するかによって、この地域における同国の信頼性が試されると広く受け止められている。
 米国は第2次大戦以降、自己主張を強める中国に対抗して、この地域において圧倒的な安全保障のプレセンスを維持してきた。

 中国は、米国に対して自国の領土と政治的な主権を守るための問題として認識している。
 また、南シナ海で領有権を主張する他の国々は、米国を味方に付けていると感じることで勇気づけられ、中国に挑んでいると劉大使は語る。

 「これらの国々は、米国が(味方に)いることで、中国との状況を好転できると感じている。
 私は米国の動機について非常に疑わしく思う」

 差し迫る裁定を一蹴する中国だが、自らの主張を広めるための国際的なプロモーション活動も怠らない。
 外交官やジャーナリストと会合を持ち、世界各地での論説や学術論文において、自国の主張を説いている。

 「フィリピン政府の主張には正当な根拠がない」。
 チャイナデイリーのニュージーランド創刊号に掲載された記事にはそう書かれていた。
 中国の外交官は常に、そして、あらゆるレベルでこの問題を提起しているとアジアと西側諸国の外交官は指摘する。
 「それは執拗なものだ。
 こんなことは何年も目にしたことがない」
とアジアに拠点を置く西側の公使は語る。
 中国は、このような領有権問題は国際仲裁ではなく、二国間協議によって解決されるべきとの同国の主張を40カ国以上が支持していると述べているが、公の場で中国への支持を表明した国はほんの一握りだ。

 今回の裁定は、単に南シナ海の領有権にとどまらず、中国の台頭がもたらす、より広範な米中の緊張関係を物語ることになる、と中国と西側双方のアナリストは指摘する。

 「これは、米国の優位性の衰退を露呈するものだ」
 と香港にある嶺南大学で中国安全保障問題を専門とする張宝輝氏は語る。
 「中国の行動に指図はできないと米国に示すことで、中国は自らの評判を高めることができる」

──関連記事:「南シナ海での軍事衝突に備えよ」、中国政府系有力紙が論説

■<中国とフィリピンの主張>

 フィリピンが自らの主張の拠り所にしているUNCLOSは、島や岩礁などのさまざまな地理的な特徴から、どのような領有権を主張できるかを規定している。
 中国はこの条約の調印国であり、これは同国が国連に加盟後、最初に合意した国際条約のうちの1つだ。
 とはいえ、中国は、南シナ海の大半において同国が議論の余地のない、歴史的権利と主権を有しているため、今回の問題はUNCLOSやハーグ裁判所の権限を超えていると主張している。

 中国は、いわゆる「九段線」を基準に自国の領有権を主張する。
 それは、第2次世界大戦で日本が敗戦した後で、地図上に引かれた、境界があいまいなU字型の破線だ。

 フィリピンが訴えた15項目では、中国の主張する領有権と、豊かな漁場であり、エネルギー資源の宝庫でもある7つの岩礁における同国の埋め立て工事の正当性に異議を唱えている。
 また、フィリピンは、UNCLOSで認められた200カイリの排他的経済水域(EEZ)で開発を行う自国の権利保障を求めている。
 フィリピン政府の弁護士チームに近い関係者は、海上における中国の今後の行動に大きな圧力をかけるに足る、十分な項目において有利な裁定を得ることができるだろうと自信をのぞかせる。

 昨年11月にフィリピンが法廷で展開した主張の多くは、難解な法律用語で表現されていたが、中国が建築を進める工事の規模を強調するため、弁護士チームは1つのスライドショーを用いた。
 それには、オランダ首都アムステルダムにある広大なスキポール空港が、中国が南沙(英語名スプラトリー)諸島のスビ礁に設置した新たな滑走路にぴったり重ね合せられていた。

 「裁判官が全員スキポールを利用していたことを知っていた」
とフィリピン政府の弁護士チームに近い関係者は話す。
 「彼らには真意が伝わったと思う」

■<統一行動はできるか>

 裁定を控え、英国やオーストラリア、日本などの国々は、米政府ともに、航行の自由や法の秩序を尊重することの重要性を強調している。
 米国は東南アジア諸国にも、この問題で統一戦線を張るよう働きかけているが、まだ成果は上がっていない。

 仲裁裁判所に自国の主張を伝え、独自提訴の可能性も排除しないベトナムは1日、仲裁裁判所が「公平で客観的」な裁定を下すことを求めた。

 主要7カ国(G7)と欧州連合(EU)は、中国の反対があったとしても、裁定は拘束力を持つべきだと述べている。
 ベトナムは、裁定を支持するとの見解を裁判所に提出した。

 法律の専門家は、裁定は技術的に拘束力があるとはいえ、UNCLOSの裁定を執行する機関が存在しないと指摘する。

 また、アジアの軍や政府当局者の間では、いかなる裁定が下されたとしても、中国は新たな軍事行動や工事増強によって自身の主張を強調しようとするのではないかとの懸念が強まっている。
 中国は、南沙諸島の新たな施設で戦闘機やミサイルを配備したり、防空識別圏の設定、あるいはフィリピンとともに実効支配する浅瀬で新たな埋め立て工事を開始したりする可能性があると米国やアジア域内の軍事当局者は指摘する。

 岩礁は中国の領土であり、米国の挑発に対抗するため自国領土に「自己防衛」設備を設ける権利があると中国は主張している。

 中国がフィリピンに近いスカボロー礁付近でも、岩礁の上に建造物を設置して恒久的な海上プレゼンスを確保するのではないかと、米当局者は神経を尖らせている。

 中国の劉大使は、南シナ海ではさまざまな民間設備が完成もしくは建造中だと述べた。
 同大使は、軍事施設も建造中だと認めている。

 「中国はなぜ軍事施設を建造してるのかとの質問を受けたが、それは米国に問うべきだ。
 彼らがわれわれを脅かしてきた。
 われわれが脅かしているのではない。
 彼らはすぐ近くにいるのだ」

 マレーシアとベトナム、ブルネイ、台湾が領有権を主張する海域で、米国は自らの軍事プレゼンスを高めてきた。フ
 ランスは欧州諸国も南シナ海における共同パトロールに参加するよう提案している。

 米国の取り得る対応としては、軍艦による航行の自由作戦の強化や、軍用機による領空通過、もしくは東南アジア諸国に対する防衛協力の強化などが含まれる、と米当局者は匿名を条件に語った。

 中国は領有権問題を二国間協議で解決することを望んでいると劉大使は語る。
 「これらの国と戦争はしないし、戦いを望んでいない。
 それでも、われわれは、島々の主権を主張する」

(Greg Torode記者, Mike Collett-White記者、翻訳:高橋浩祐 編集:下郡美紀)



Record china 配信日時:2016年7月10日(日) 5時30分
http://www.recordchina.co.jp/a144180.html

<南シナ海問題>予想は「不利」、
中国の出方が最大の焦点、
常設仲裁裁判所、12日に初の司法判断

 2016年7月8日、南シナ海の領有権をめぐる常設仲裁裁判所(PCA、オランダ・ハーグ)の判断が12日に下される。
 中国と対立するフィリピンの申し立てを受けたもので、南シナ海に関する国際的な司法判断は初めてだ。
 PCAの関与に反発する中国は審理に不参加。中国に不利な判断が予想され、中国の出方が最大の焦点だ。

 比がPCAに国連海洋法条約に基づく仲裁を申し立てたのは13年1月。
 南シナ海の「スカボロー礁(中国名・黄岩島)が中国の実効支配下に入った直後だった。

 欧米メディアなどによると、比側はPCAに5000ページにも上る書面を提出。
 主張は多岐にわたるが、争点は
(1):中国が領有の根拠とする「九段線」の違法性の有無
(2):南沙(英語名・スプラトリー)諸島で中国が造成する人工島の法的地位
―に絞られる。

 このうち、「九段線」に関してPCAは判断するかどうかを明らかにしていない。
 日本メディアの中には、明確な判断を留保する可能性もあるとの見方もある。

 一方の人工島についてPCAは昨年10月、「審理の対象になる」と明示。
 人工島の基盤となる岩礁は満潮時に海面に沈む「低潮高地」か「岩」で、領海のなどの権利は生じないとする比側の主張が認められる公算が大きくなっている。

 これに対し、南シナ海問題の「関係国の協議による解決」と唱える中国は仲裁裁判の申し立て当初から、「受け入れも参加もしない」との立場を繰り返し表明。
 中国外交部は6月29日の談話でも、
 「PCAには管轄権がなく、審理を進行すべきでなく、判決を出すべきではない」
と非難し、
 「中国は領土問題と海域境界の紛争において、第三者による解決方式を受け入れない」
として、どのような判決が出ても拒否する方針を改めて示した。

 中国共産党の習近平(シー・ジンピン)国家主席は1日、北京・人民大会堂で開かれた党創立95周年の祝賀大会で演説し、
 「中国はわれわれの正当な権益を決して放棄しない。
 どの国もわれわれが核心的利益を差し出すと期待してはならない」
と強調。
 PCAの判決を念頭に、国際社会に対し一歩も引かない強硬姿勢を鮮明にした。

 さらに、中国共産党系の環球時報は5日、中国政府は南シナ海での「軍事衝突」に備えなければならないとする社説を掲載。
 「短期的には米軍の軍事力に後れを取るかもしれないが、
 米国が南シナ海での争いに武力で介入してきたら、耐え難いほどの代償を払わせることはできるはずだ」
と力説した。

 中国の出方に関してNHKは6月末、
 「中国の海洋政策を管轄する国家海洋局や外交部の幹部らが、自国に不利な判断が出る場合に備えて具体的な対応策を検討していた」
と報道。
 この中で
 「南シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定る」
 「南沙諸島で比側が実効支配しているセカンド・トーマス礁を奪い取る」
などの強硬論も飛び出したと伝えた。

 こうした中、中国軍はベトナムなどと領有権を争う南シナ海の西沙(英語名・パラセル)諸島の周辺海域で軍事演習を繰り広げている。
 武力によって実効支配を誇示する狙いとみられ、演習はPCAの判決が出る前日の11日まで続く予定という。




【自ら孤立化を選ぶ中国の思惑】


_