2016年7月1日金曜日

参議院選挙(1):改憲3分の2ラインの攻防:「熱狂なき国民投票の可能性」

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産経新聞 7月5日(火)7時55分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160705-00000057-san-pol

参院選・終盤情勢 改憲勢力「3分の2」勢い 自民は単独過半数


●改憲3分の2ラインの攻防(写真:産経新聞)

 産経新聞社は4日、FNN(フジニュースネットワーク)と合同で実施した電話による情勢調査(1~3日)に全国総支局の取材を加味し、10日投開票の参院選の終盤情勢を探った。
 自民、公明両党などの「改憲勢力」が憲法改正の国会発議に必要な3分の2(非改選と合わせて162議席)を確保する勢い。
 ただ、全国32の改選1人区の結果が大きく影響するため、予断を許さない状況だ。

 自公の与党で3分の2議席を確保するには、改選121議席のうち86議席の確保が必要だ。
 ただ、改憲に前向きなおおさか維新や日本のこころを大切にする党を加えれば78議席となる。
 選挙戦は、改選1人区のうち、青森や福島、三重など8選挙区で民進、共産両党など野党の統一候補と自民党候補が接戦を展開しており、3分の2をめぐる攻防は激しくなっている。

 自民党は27年ぶりの悲願となる単独過半数(非改選と合わせて122議席)も視野に入る。
 単独過半数には57議席が必要だが、選挙区で40議席、比例代表で19議席前後を獲得しそうな情勢だ。
 公明党も改選9議席を上回る12議席前後を獲得する勢いだ。
 おおさか維新の会は最大で選挙区3議席を獲得し、比例代表でも5議席前後を得る見通し。
 日本のこころを大切にする党は1議席獲得を目指す。

 一方、民進党は改選43議席を割り込み、30議席に達しない可能性がある。
 共産党は躍進した前回の平成25年参院選(8議席)からさらに議席を伸ばしそうだ。
 社民党と生活の党と山本太郎となかまたちはそれぞれ1議席獲得できるかどうかが焦点。
 比例代表で諸派が1議席を得る可能性もある。

 ただ、選挙区によっては態度未定の有権者が3割を超えているため、流動的な要素もある。

 ■世論調査の方法 サンプル数は1万6121。
 平成27年3月末の選挙人名簿を基に、選挙区ごとに満18歳以上の有権者から男女別・年代別の構成割合に応じて調査対象を抽出。
 電話番号を無作為発生させるRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)方式で算出した回答数が得られるまで電話調査を行った。



ニューズウイーク 2016年7月6日(水)20時13分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/07/post-5434.php

金融関係者が警戒する改憲勢力圧勝、
首相のアベノミクス後回しを懸念

 市場関係者の間では、10日に行われる参院選で安倍晋三首相の目指す憲法改正に賛同する勢力が圧勝した場合、首相の関心が「改憲」にシフトし、経済対策の優先順位が下がってしまうのではないかとの懸念が広がっている。

 国内報道各社の世論調査によると、自民党は、1989年以来27年ぶりに参議院で単独過半数を確保する可能性がある。
 公明党と合わせれば、安倍首相が目標としていた改選過半数の61議席を超えることはほぼ確実とみられている。

 安倍首相は、今回の参院選をアベノミクスに対する国民の支持を問う選挙と位置付けている。
 金融緩和、財政支出、構造改革というアベノミクスの三本の矢は、すでに効果が薄れてきているとの見方もある。

 参院選で圧勝すれば、
 安倍首相は政策が国民に承認されたと主張するだろうが、
 英国の欧州連合(EU)離脱や、
 7人の日本人が亡くなったバングラデシュの襲撃事件
などのニュースによって、もともと薄かった選挙に対する関心がさらに薄くなり、投票率が低水準にとどまる可能性がある。

 その場合、自公の連立与党が圧勝しても、必ずしもアベノミクスが国民に評価されているわけではないとの解釈も成り立つ。

 大和証券・チーフ為替ストラテジスト、今泉光雄氏は、自民党が大勝して、改憲派が3分の2議席を占めるケースの方が、市場は嫌気しそうだとみている。
 「経済第一戦略から憲法改正に政策の軸足が移るのではないかと、警戒感が強まりやすいため」
だという。

 さらに同氏は
 「自民党が大勝しても、アベノミクス政策には手詰まり感が強く、
 選挙で評価されたとポジティブに受け止める向きは少ないだろう」
との見方だ。

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 ウィズダムツリー・ジャパンの最高経営責任者(CEO)、イェスパー・コール氏も
 「市場は、安倍首相が強い政権を維持することを望んでいるが、
 その勢力を、憲法改正ではなく、経済を第一に発揮してほしいと考えている」
と言う。

 有権者の多くも、改憲派が圧勝することを歓迎しているわけではないようだ。
 時事通信が今月1─3日に行った世論調査によると、憲法改正に前向きな自民党など4党が、改憲発議に必要な3分の2の議席を確保することに「反対」と答えた人は49.6%で、「賛成」の31.5%を上回った。

 安倍首相は、憲法改正を選挙の争点にすることを避けている
という批判がある。

 民進党など野党は、与党など改憲勢力による3分の2議席確保を阻止することを目標の1つに掲げている。
 岡田克也民進党代表は1日の会見で
 「安倍首相は、選挙期間中、全く憲法改正を語っていない。
 争点を隠して静かに選挙を終えたいのだと思う」
と批判した。

 民進党、および選挙協力している野党連合は、苦戦を強いられている。
 有権者の間には、2009年─2012年の民主党(当時)政権時の党内の内部抗争と、政策の急変ぶりが、まだ記憶に強く残っているからだ。

★.憲法改正の発議には、衆参両院でそれぞれ3分の2を超える賛成が必要。
 そのうえで、
★.憲法を改正するには、国民投票で過半数の賛成を得ることが必要
となる。

 (リンダ・シーグ 取材協力:伊賀大記 翻訳編集:宮崎亜巳 編集:田巻一彦)



現代ビジネス 2016年07月06日(水) 佐藤卓己京都大学教授)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49086

 「アベ政治に反対」と野党が叫ぶほど、
安倍首相が指導力を発揮しているイメージは強化されるという“逆説
”知っておきたい政治の「シンボル作用」

■イギリス「EU離脱」から学ぶべき教訓

 イギリスの「EU離脱」を決めた国民投票が6月23日に行われた。
 事前の世論調査などで接戦が報じられていたものの、最後はイギリスの保守的伝統が大衆感情を抑えるものと予想していた。
 しかし、EU離脱が決まって世界中に激震が走った。

 その投票結果は世論(ポピュラー・センチメント)が輿論(パブリック・オピニオン)を圧する現代政治を象徴しているようにも見える。
 投票分析によれば、未来のある若年層では「残留」派が少なくなかったが、
 過去に囚われた高齢者を中心に「離脱」派が多数を占めた。

 年齢を重ねることが必ずしも成熟を意味しないこと、
 シルバーデモクラシーも暴走すること、
 この国民投票から学ぶべき教訓は少なくない。

 それにしても、「離脱」決定後のイギリスで「EUって何?(What is the EU?)」とのGoogle検索が急増したことは興味深い。
 とはいえ、投票が争点に関する十分な知識を前提とせず行われるのは珍しいことではない。
 敢えて言えば、自分がよく知らないことを合理的に選択していると確信できる領域は、選挙か信仰ぐらいではなかろうか。
 少なくとも投機や恋愛なら、人はもっと熱心に情報を集め、慎重に選択するはずだ。

 メディアがどれほど集中的に争点を報道しても、有権者がそのニュースを十分に理解していると考えるべきではない。
 これもメディア研究の常識である。
 多くの場合、
 政治的観客はニュースを明か暗か、正か邪かの二元的パターンで認識し、
 それ以上に掘り下げて考えようとはしない。

 もちろん、それは権力によるメディア操作という陰謀論(これも典型的な二元論のパターン思考)で解釈されるべきことでもない。
 人々は複雑な社会情報が判りやすく提示されることを望んでおり、
 その単純化の極致がいなかる問題も「YES/NO」に集約する世論調査なのである。

 だからこそ、内閣支持率の結果はいつも新聞の第一面を飾る「ニュース」となる。
 こうした世論はメディアによって製造されるニュースなのだ。

■選挙では「勝利のイメージ」が大切

 イギリス国民投票の翌日、6月24日に新聞各紙は7月10日投開票の参議院選挙における各党獲得議席予想を伝えていた。
 各紙で数字にばらつきはあるものの、自民党が単独で過半数となる57議席を得る可能性が高い。
 「改憲勢力 3分の2うかがう」という見出しも各紙で一致している。

 もちろん、その翌日からイギリスEU離脱ショックによる株価急落、円高更新のニュースが続くわけだが、これがアベノミクスへの打撃となったとしても、はたして選挙で与党に不利に働くだろうか。
 むしろ、危機的状況は与党優勢の流れに拍車をかける可能性さえあるだろう。
 アベノミクスの継続を訴え続ける安倍首相の演説姿をテレビで眺めつつ、「科学的世論調査の父」ジョージ・ギャラップが米大統領の人気について語った言葉を思い出した。

 「人気が急落するのは、たぶん、大事件に直面しているのに
 大統領が何もしないときだ
と言ってよいでしょう。
 何もしないというのが一番いけないんです。
 何をしたっていいんです。
 間違っていたとしてもね。
 それで人気がなくなることはありません。

 ……人々が評価するのは、大統領が何をしようとしているか、つまり目標です。
 何を成し遂げたか、どれほど成功したかが問われることは必ずしもないのです。

 かつて、誰もが私たちにローズヴェルトの誤りをあれこれくり返し並べたてたものでした。
 それでも、こう続けるのです。
 『でも、私は彼を全面的に支持します。
 だって心意気は買えますよ。
 前向きですから。』」(Opinion Polls, 1962.)

 この「心意気」こそ、アベノミクスの売りなのである。
 景気を良くする「前向き」なイメージを多くの有権者が評価するのであり、具体的な数字や政策の詳細を聞きたいと思う者などテレビの前にはいない。
 だとすれば、これを争点にした段階で選挙の勝敗は見えていたということになる。
 結局、選挙戦で大切なのは「勝利のイメージ」である。
 そして、今回の参議院選挙で野党の宣伝ポスターに欠けているのがまさにこのイメージだ。
 その典型が民進党の「まず、2/3をとらせないこと。」である。

 「2/3をとらせない」というスローガンで人々の脳裏に浮かぶのは、55年体制下の社会党である。
 かの1/3政党が戦後政治の「ブレーキ」として果たした歴史的な役割は別に評価できるとしても、そのイメージはいかにも後ろ向きというべきだろう。

■政治のシンボル作用

 さらに、同じく社会党の後継政党、社民党の「アベ政治の暴走を止める」という標語も、「一強多弱」の現状を裏書きするものだ。
 安倍首相が「アベノミクス」と自分の名前を冠して使うのは、自らの強力なリーダーシップを打ち出したいからである。
 実際、複雑な政治プロセスを「アベ」と人格化するわかりやすい表現は、それだけで有権者に安心感を与える。
 大衆社会における指導者の機能は、個人では理解も制御もできない政治の複雑性を指導者という人格に縮減することで人々の不安を解消することにある。

 つまり、野党が「アベ政治に反対」を連呼すればするほど、安倍首相が指導力を発揮している躍動的なイメージは強化されるわけだ。
 政治のシンボル作用について、野党はもう少し慎重に考えてもよいのではないだろうか。

 シンボル政治学の古典、マーレー・エーデルマン『政治の象徴作用』から次の一文を引用しておこう。

 「政治的要職の現職者は攻撃を受けたからといって、力量ある指導者という印象が損なわれるわけではない。
 むしろ、攻撃が加えられた結果として、彼の行動が支持されたり称賛された場合以上に、そうした印象は強められるはずである。

 攻撃をしかける側は事実上、現職者の目下の行動力や実行力を関係者すべてに保証しているのである。
 とりわけ、攻撃する側が現職者自身や彼が行っていることに対して好意をもっていないと分かっていれば、
 なおさら、現職者が事態に強い影響力を発揮していることを確証する十分なよすがとなる」

 だとすれば、今回の日本の参議院選挙も事前の情勢調査どおり与党圧勝となりそうだ。
 ちなみに、エーデルマンは「曖昧なるもの」を単純化する世論調査については、その体制維持的な影響力を批判している。
 世論調査は投票がもつ正統性の認証機能を適用拡大し、
 社会システムを安定させているというのだ。

■輿論政治のスタート地点

 舛添要一・東京都知事の辞職問題はその典型例だろうか。

 舛添都知事を辞任に追い込んだのが世論であったことは間違いないが、その世論は舛添個人に対する好き嫌いの反映であり、その政策の是非を問うものではなかった。
 それゆえ、政治資金疑惑も知事の汚濁、政治家の不誠実として人格問題となり、政治システムの変革を求める動きには至らない。

 もちろん、舛添辞任を求める世論がまちがっていたと言いたいわけではない。
 「辞任すべきか」と問われれば、私自身も不愉快な口調でイエスと答えたはずだ。
 だが一方で、過去の都知事、全国の首長と時間的、空間的な比較考量を冷静に行い、その政策と能力を十分に討議する時間を取ってもよかったように思う。
 そうであれば、熱しやすく冷めやすい世論とちがって、時間的耐性を持つ輿論が生まれたかもしれない。
 こうした公議輿論の公論形成はいつまでも理想型にとどまるかもしれない。

 しかし、国民感情の分布を計量する世論調査の結果だけが世論ならば、それは現状を追認し政治的能動性を抑制する権力装置になりかねない。
 世論調査で示される民意とは、そこから輿論政治が始まるスタート地点にすぎないのだ。

 その意味では近々報道される参議院選挙の終盤情勢も、ここから思考を始めるスタート地点とみなして投票所に向かうべきなのである。


●佐藤卓己(さとう・たくみ)
京都大学大学院教育学研究科教授。1960年生まれ。広島市出身。専門はメディア史、大衆文化論。同志社大学文学部助教授、国際日本文化研究センター助教授などを経て、現職。主な著書に『輿論と世論』(新潮社)、『メディア社会―現代を読み解く視点』(岩波書店)、『大衆宣伝の神話』(筑摩書房)など。


ニューズウイーク BLOGOS編集部 2016年7月8日(金)16時06分
※当記事は「BLOGOS」からの転載記事です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/07/post-5443.php

「参院選後には熱狂なき国民投票の可能性も...」
西田亮介氏に聞く参院選と改憲の行方

 いよいよ参議院議員選挙が公示される。現時点でのいわゆる"改憲勢力"は85議席。
 今回の改選で77議席を確保できれば、すでに与党が3分の2を押さえる衆議院とあわせ、両院で総議員の3分の2以上、つまり憲法改正の発議が可能な状況となる。

 民進党は参院選のポスターに「まず、2/3をとらせないこと」というキャッチフレーズを打ち出し、メディアでも、にわかにこの数字がクローズアップされ始めているが、改憲は今度どのような形で進むことが予想されるのだろうか。
 東京工業大学准教授の西田亮介氏に、今後予想される改憲への流れと、その先に予想される「国民投票」について話を聞いた。

――民進党のポスターの意味するところは「憲法改正の発議に必要な数字をとらせない」ということでしょう。
 19日にニコニコ生放送などで配信された「ネット党首討論」でも、憲法が論点として取り上げられ、首相は参院選後に憲法改正について議論していくと発言しました。

西田:
 自民党は結党当初から「自主憲法制定」を党是に掲げてきたものの、様々な派閥を抱えていたことから、憲法改正には着手できない状況が続いていました。
 しかし、安倍総裁のもとで自民党内の体制が強化され、改憲への態度をより強固なものにしてきているように見えます。

 また、これまで改憲勢力が衆参両院で3分の2の議席を獲得したことはほとんどありませんでした。
 しかし、今回の参院選では自民・公明両党に加え、おおさか維新、日本のこころを大切にする党などで77議席が確保できれば、発議が可能になるわけですから、当然、憲法改正論議が現実味を帯びてくるわけです。

 選挙戦において、自民党が「あくまでも経済政策が争点だ」と主張することに対して、野党やメディアは、「もっと前面に憲法改正を押し出して正々堂々とやるべきだ」と批判しますが、世論調査の結果を踏まえると、
 憲法改正を争点にしても、有権者があまり関心を持たないという状況もあるでしょう。

【参考記事】参院選の争点がハッキリしないのはなぜか

 もちろん自民党としても避けている部分があるはずです。
 ただ、本当にやりたいことはさておき、経済政策や待機児童、給付型奨学金などの社会保障政策といった、有権者が敏感にかつ肯定的に反応しやすいものを主張の前面に押し出すというのは、ここ最近の自民党の"勝ちパターン"となっています。

――もし参院選で改憲勢力が3分の2を確保した場合、自民党が改正に着手するのは、憲法のどの部分だと思いますか?

西田:
 まず、憲法の根幹に関わる部分や前文については触らないと思います、
 日本国憲法の本質部分は変更しないという公明党との合意も困難になりますし、なにより9条などはさすがにその象徴性を国民もよく知っているはずです。
 日本国憲法の改正は一度失敗すると次いつ改正の条件が整うかまったく予想できません。
 このような認識を前提にすると、憲法改正に相当の意欲を見せてきた安倍自民党をはじめとする改憲を主張する人たちが最初に取り掛かるのは、一時トーンダウンしてはいましたが、やはり96条の内容、すなわち下記の条文だと考えられます。

第九十六条 
 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。
 この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 この変更を訴えるのではないかと思います。

 現行の条文では、改正の発議には両院の総議員の3分の2が必要ですが、これを過半数にしようというもので、自民党が示している憲法改正草案にも盛り込まれています。
 むしろそれ以外の条文の改正は、現時点では難しいと思います。

 今年は日本国憲法公布から70年、来年は施行から70年です。
 さらに2018年は明治維新から150年、2019年は大日本帝国憲法公布から130年という節目の年にあたります。
 安倍総理の自民党総裁の任期は2019年までであることを考えると、この間に最初の憲法改正を行いたいと考えていると推測されます。
 それによって憲法改正を訴え続けた祖父・岸信介元総理の意志を継承するとともに、彼を名実ともに超えたいと考えているのではないでしょうか。

――連立を組む公明党は、「加憲」を主張していますが、山口代表は現時点の改正には慎重な姿勢を示しています
 議席数を考えれば、公明党抜きでの発議は難しい状況ですが。

西田:
 両党は選挙の際にお互いの力を必要としていますし、公明党は政権与党内でのブレーキ役と言われてはいますが、現在では押し切られたようにみえる状況も増えています。
 9条改正はさすがに難しいでしょうが、96条のような、あまりイデオロギッシュではないようにみえる条文の改正でないものについては協力の可能性は十分にあるでしょう。

【参考記事】憲法96条改正の問題点を考える

■「否定形」のメッセージは有権者には響かない?

―― 一方、民進党など、野党の側の批判を聞いていると、あくまで憲法改正=9条、安保法制関連ばかりですね。
 「平和主義の日本を壊してはならない」といったような。

西田:
 そうですね。
 それでは「9条の問題は最初からやりません」とかわされてしまう可能性もあります。

 また、学生たちに聞いてみても
 「現実にそぐわない部分があるのなら、ちょっと変えてみてもいいのではないか」
という感想もよく聞きます。
 戦後70年経った、多くの生活者の感覚も、これに近いものがあるのではないでしょうか。

 つまり、
 「◯◯はいけない」というような否定形のメッセージでは、
 有権者にはあまり響かず、
 リアリティを持った改憲勢力に押し切られる可能性があるということです。

――自民党の改憲案には、多くの批判が集まっていますが、一方で野党側には対案がありません。
 もちろん「改憲すること自体に反対だ」もひとつの意見だとは言えますが、自民党以外からも改憲案が出てきてもよいと思います。

西田:
 自民党の改憲草案には、これまでも様々な批判が出ているように、多くの問題点を孕んでいます。
 しかし、あれはモーターショーのたとえで言えば"コンセプトカー"であって、実際の改憲にあたっては議論に耐えられるよう、現実的なものに今後ブラッシュアップされて行くと考えられます。

 また、日本には良かれ悪しかれ、憲法や解釈、改正に関する具体的な議論を一部の憲法学の世界の方々に預け、高度で複雑な、そして生活世界から切り離された世界に閉じ込めてきてしまったというところがあるのでしょうか。
 その結果、護憲派だけでなく、改憲派も70年間、具体的な憲法の議論を棚上げすることになってしまいました。

 議論が人口に膾炙するよう、戦後民主主義的な考えのみならず、より現実的な、現在の政治の世界に合わせた具体的で、それでいて抑制的な議論をしていかなければならない時代になっているのではないでしょうか。
 難しいことだとは思いますが。

■安倍首相が第一次政権から打っていた憲法改正への"布石"

――今回の参院選では18歳選挙権が注目を集めていますが、
 憲法改正が発議された場合の国民投票について定めた「国民投票法」でも、投票年齢は18歳となっています。

西田:
 「国民投票法」についての議論は、あまりメディアで見かけないのですが、著書などでも書いてきたように以前から注目しています。
 「国民投票法」が規定する「国民投票運動」と、「公職選挙法」が規定する「選挙運動」は大きく異なっており、通常の選挙と比較すると、国民投票の規定は非常に少ない。
 具体的には費用の上限、期間、ビラの枚数、ポスターの大きさ、選挙カーの台数などについての規定がありません。
 これは、国民投票は憲法改正という極めて重要なテーマについての投票であるため、広く周知することが必要だと考えられているからということになっています。

 これは昨年の大阪市特別区設置住民投票、すなわち橋下徹氏が訴えた「大阪都構想の是非を問う」住民投票とよく似ています。
 当時、維新の地方議員が全国から集結して街を練り歩いたり、テレビCMがたくさん放映されていました。
 反対派も同様です。
 このことを思い出すと、憲法改正が発議されたら、護憲と改憲の双方の立場で、あのような運動が全国津々浦々で繰り広げられると予想できます。

 戦後長い間、憲法改正の是非が、保守派と革新派の主要な対立軸となってきたことを考慮しても、多数の意見広告が新聞に掲載され、テレビやYouTube上で様々なプロモーションが実施されると考えられます。

――そうした状況では、資金がある方が有利になりますね。

西田:
 そうもいえると思いますね。
 選挙運動の手法についての規制が少ないアメリカ大統領選におけるキャンペーンのようなPR合戦が行われると考えれば、イメージしやすいと思います。

 そもそも、国民投票法が成立するときは、通過させるかどうかが焦点になっていて、法案の内容について、とくにこの国民投票運動のあり方などについてはそれほど議論の盛り上がりはなかったと記憶しています。
 国民投票法が成立したのは、まさに第一次安倍政権の時でしたから、当時から憲法改正に向けて戦略的・長期的にシナリオが考えられていたのではないかと推論できると思います。

――先ほどの憲法論議の問題とも重なりますが、このままでは、実際に国民投票を行う段階になっても、多くの有権者にとってはどこかピンとこないままに投票日を迎えてしまう気がします。

西田:
 ここまでの予想通り、憲法改正が発議され、それが96条に関わる部分だった場合、「3分の2が2分の1になる」ということの意味を、正確に理解できている人はそれほど多くはないと考えられます。
 こうした状況下で、初めての投票行動が憲法改正にまつわる国民投票という18歳、19歳の人たちが出てくる。
 そうした現状を考えると、仮に憲法改正が発議され、国民投票になっても投票率は極めて低い結果に終わるかもしれません。
 そうした"熱狂なき国民投票"であっても、投票した人の過半数で改正の是非が決定してしまうのです。

【参考記事】投票率が低い若者の意見は、日本の政治に反映されない

 現在、18歳選挙権の実現にあわせて、行政が主体となった"中立的"な主権者教育が行われています。
 こうした活動によって投票に対する意識向上はできるかもしれませんが、憲法問題のような価値判断を行うためには、やはり政治観を身につけるための土台づくり、判断のための素材・知識や分析の枠組みを生活者に浸透させる仕組みを整えていくことが必要でしょう。
 それがネットも含めたメディアにも求められていると思います。

nishida_profile2.jpg西田亮介(にしだ・りょうすけ)
東京工業大学大学リベラルアーツ研究センター准教授。博士(政策・メディア)。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。(独)中小機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学特別招聘准教授などを経て現職。専門は情報社会論と公共政策。 著書に「ネット選挙とデジタル・デモクラシー」(NHK出版)、「ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容」(NHKブックス)、「無業社会 働くことができない若者たちの未来」(朝日新書)、「若年無業者白書2014-2015」(共著、バリューブックス)、「メディアと自民党」 (角川新書)など。



東京新聞 2016年7月9日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201607/CK2016070902000143.html?ref=rank

「前向き4党」3分の2なら改憲 衆参両院で発議可能に

  

 十日投開票の参院選で、自民、公明の与党、改憲に前向きなおおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の「改憲四党」と、同調する無所属議員らが、非改選も含め三分の二以上の議席を占めた場合、野党第一党の民進党の賛同を得なくても衆参両院の改憲発議が可能になる。
  自民党が改憲を掲げ一九五五年に立党して以来、こうした状況が実現したことはない。

 衆参両院はこの十年余、自民、民進(旧民主)両党が合意すれば、改憲を発議できる状況にある。
 二〇〇一年の参院選以降、両党の議席は両院で三分の二以上を占め続けているからだ。
 旧民主党は改憲案のたたき台となる「憲法提言」を〇五年にまとめ、民進党として臨む今回の参院選でも将来の改憲を「構想する」と公約に明記している。

 現在、衆院は自公両党だけで三分の二を超える。
 参院では改憲四党に、同調する数人の無所属議員を足しても三分の二に届かず、民進党の賛同を得なければ発議はできない。
 だが、安倍政権下の改憲を巡っては、民進党は平和主義を守れないと反対し、両党合意による改憲発議は現状では現実味が薄い。

 歴代首相の下で、在任中の改憲が現実の政治課題になった例もない。
 自民党結党時の鳩山一郎首相は改憲を目指したものの、改憲勢力は衆参とも三分の二に届かなかった。
 安倍首相の祖父・岸信介、長く政権を維持した中曽根康弘、小泉純一郎の各首相は、改憲が持論だったが、在任中の課題に挙げる状況にはならなかった。


読売新聞 7月11日(月)7時15分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160711-00050054-yom-pol

参院選の全議席が確定…自民が55、民進は32

 第24回参院選は11日、改選定数121の全議席数が確定した。
 各党の獲得議席は、自民党55、民進党32、公明党14、共産党6、おおさか維新の会7、社民党1、生活の党1、日本のこころを大切にする党0、新党改革0、無所属5。


時事通信 7月11日(月)7時6分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160711-00000035-jij-pol

 自公70、改憲勢力3分の2
=民進敗北32
―参院選全議席確定
【16参院選】

 10日に投開票された第24回参院選は11日朝、全議席が確定した。
 自民、公明両党は、安倍晋三首相が勝敗ラインとした改選過半数の61を上回る計70議席を獲得。
 おおさか維新の会は7議席で、これら3党と日本のこころを大切にする党、諸派・無所属の非改選議員を合わせ、憲法改正に前向きな勢力が改憲発議に必要な参院の3分の2超の165議席を占めた。
 改選45議席の民進党は32議席に後退した。

 首相は改憲を発議する項目の絞り込みに向け、衆参両院の憲法審査会で議論を具体化し、慎重に与野党の合意形成を図る考えだ。
 一方、争点となった経済政策「アベノミクス」が信任されたと捉え、従来の政策を加速。
 当面の経済対策として、2016年度第2次補正予算案の編成を急ぐ。 

 自民党は追加公認の無所属1人を含め56に、公明党は14に改選議席をそれぞれ上積みした。
 おおさか維新も改選議席を2から7に増やした。
 これら3党で計77議席となり、こころも含めた4党の非改選計84議席と改憲に賛成する無所属議員ら4人で3分の2を超えた。
 衆院は自公だけで既に3分の2を占めている。

 自民党と野党統一候補の事実上の一騎打ちとなった全国32の「1人区」は、自民党21勝、野党11勝となった。
 ただ、福島で岩城光英法相、沖縄で島尻安伊子沖縄担当相がそれぞれ落選した。
 12年12月の第2次安倍政権発足以降、国政選挙で現職閣僚の落選は初めて。
 民進党は1人区で7議席を獲得。
 全体で前回の17議席は上回った。
 改選3議席の共産党は6議席に倍増。
 社民党は吉田忠智党首が落選、改選議席を2から1に減らした。
 無所属の野党統一候補は4議席で、このうち岩手と新潟の計2人は生活の党に入る見通し。
 生活は比例で1議席を得た。
 こころと新党改革は議席を確保できなかった。





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