今の日本にとっては中国が無法行為をとめどもなくやってくれることが一番利益になる。
これには条件がある。
最後の一線で日本が中国を抑え込めるだけの力があるかどうかである。
その抑え込める力を日本は希求している。
その力は中国の力への反作用として浮かび上がってくる。
中国が無謀化すればするほど、その力への願望は強くなる。
日本は国民がその願望を持って当たり前だと思うほどに中国が無法行為をしてくれることを願っている。
ここからはじめて、日中のバランスが均衡してくる。
仮に今の中国がいささか穏やかになったとしても、それは次回に持ち越されたに過ぎない。
その時は更に大きな力をもって中国は日本に迫ってくるだろう。
ならば、この時期にそれを見越しての力の基盤を作っておくことが求められる。
日本にとって今は、中国がガンガン来てくれたほうがいい、のである。
腹を括れる、のである。
中途半端な恫喝では、またかで終わってしまう。
口先から動くのが中国のプロパガンダである。
しかし、度々聞かされると慣れてくる。
仲裁判決は果たして中国に口先ではなく行動を迫っていくであろうか。
ちなみにロシアは、中国とは正反対でほとんど口を開かない。
でも手が早い。
ガーンと実力行使にくる。
こちらのほうが怖い。
中国の言葉の数量をカウントすれば、それだけ弱いということになる。
『
ダイヤモンドオンライン 2016年7月20日 田中 均 [日本総合研究所国際戦略研究所理事長]
http://diamond.jp/articles/-/96029
各地で蠢く排他的ナショナリズム、世界は歴史的な岐路に
■中国に吹き始めた逆風
THAAD韓国配備と南シナ海仲裁裁判判決
歴史の岐路には変動の引き金となる事件が起きる。
1989年に起こった二つの事件がそうだった。
6月に起こった天安門事件は中国の民主化の芽を摘み、共産党の一党独裁体制の強化につながり、今日の中国をつくる契機となった。
11月のベルリンの壁の崩壊がソ連邦の崩壊と東欧諸国の民主化、そして東西冷戦の終了につながっていったのは周知の通りである。
それから四半世紀あまりの時が経った今日、再び世界の変動の引き金となるような出来事が起こっている。
南シナ海問題での常設仲裁裁判所の審決は、中国の対応次第では、中国と国際社会の関係を本質的に変えていくかもしれない。
国民投票による英国のEUからの離脱は欧州の分解に繋がっていくのか。
そして米国大統領選挙は従来の選挙とは本質的に異なり、米国の世界における立場を大きく変えることになるのかもしれない。
中国にはごく最近まで順風が吹いているように思われた。
WTO(世界貿易機関)への加盟が経済成長を押し上げ、中国の国力は飛躍的に増大した。
中国は、一帯一路という壮大なプロジェクトの下で東南アジア、中央アジア、中東、欧州、アフリカで経済協力を土台に影響力を飛躍的に拡大してきた。
ロシアはウクライナ問題による欧州での孤立から逃れるために中国と連携を求め、北朝鮮への影響力を期待する韓国との蜜月時代が続くかと思われた。
ところが中国に逆風が吹き始めた。
経済成長率の低下は共産党統治の正統性を揺さぶる。
北朝鮮はミサイルの実験を頻繁に続け、韓国は米国と共に地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の導入を決断した。
これは中国が戦略のバランスを変えるとして最も忌み嫌ったものであり、中韓関係は厳しい試練を受けている。
同時に中国の南シナ海における傍若無人な行動に対して、7月12日にハーグの常設仲裁裁判所は、中国の主張する9段線は中国による南シナ海支配の根拠とはならないという明確な法的判断を下した。
当初中国は他の国の反応を見るかのように曖昧な形で9段線の議論を行っていた。
中国経済が飛躍的に拡大し、国力が増大し、影響力が強化されるとともに、中国は強引で傲慢となってきた。
南シナ海で岩礁の埋め立てをはじめ歴史的に中国は南シナ海を支配していたとして、その根拠に9段線を示すようになった。
しかし地域の国々で9段線の議論を信じている国はないといっても過言ではなかろう。
明らかに中国は自国の力を過信した行動にでた。
法的判断が下った今、中国はどう対応していくのだろうか。
来年に人事を扱う党大会を控え、習近平は南シナ海問題で一切妥協はしないだろうという見方が強い。
そればかりか南シナ海の支配を更に進めるために埋め立てを加速させ、上空に防空識別圏を設置するといった強硬策に出る可能性があるとの見方もされている。
■戦略的追い風はもう吹いていない
中国はルールに基づく秩序を尊重するか
しかし、これは米国や日本、ASEAN諸国だけではなく国際社会全体との決定的な対決をもたらす。
中国にはもう戦略的追い風は吹いていない。
中国はルールに基づく秩序へ挑戦する国である
という見方がとられることは間違いがない。
中国と国際社会との関係を決定づける重大な岐路に来ていると言っても過言ではあるまい。
私はASEANのシンクタンクに公開コメントを求められ
「審決を受け中国は南シナ海における行動に慎重な考慮を払う事を心から期待する。
国際社会はこの行動により中国がルールに基づく秩序を尊重する国であるかどうかを判断するであろう。」
と返答した。
刺激的なコメントを出し、中国をいたずらに追い詰める必要はあるまい。
中国が一方的行動を控え対話に進むことが望ましい。
国際社会の法的な判断はある訳なので、中国はこれに従った行動をするのか静かに見守るというのが正しい態度なのではないか。
重大な岐路に来ているのは、欧州も同じである。
何故英国はEU離脱を決めたのだろう。
そもそも英国は1973年に大陸諸国からは遅れて欧州統合に参加して以降、欧州統合につかず離れずのアプローチをとってきた。
単一市場には参加したが単一通貨ユーロに加入したわけではなく、域内のヒトの移動を促進するシェンゲン協定にも参加していない。
英国はEUと一定の距離を保ちつつ、米国との「特別な関係」や日本との緊密な関係、或いは英連邦の盟主としてのグローバルなネットワークを活用し、巧みな外交を行ってきた。
EUを離脱するとEU内からの移民を受け入れなくて済むとか、EUから主権を取り戻すといった面が離脱キャンペーンで強調されてきたが、離脱によって失う利益も圧倒的に大きい。
■EUの深化と拡大を止める英国の離脱
離脱後の英国はメイ新首相の下でも、まず離脱に向けて2年の時計の針が廻り出すのを出来るだけ遅らせようとしている。
時間を稼ぐという事であろうが、この間、英国経済についての不透明感は増し、離脱に反対する労働党等の議会勢力や住民の過半数が残留に票を投じたスコットランドや北アイルランドの不満は高まり、内政の混乱は続くのだろう。
いずれにせよ諸外国の対英投資は大きくスローダウンしていくのだろう。
離脱通告を行ったとして、EUの英国に対する姿勢は極めて厳しいものとなるのだろう。
英国は単一市場へのアクセスは担保したうえで移民制限をする枠組みと主張するが、EU側は他の諸国の追随を防ぐうえでも英国が「いいとこどり」をするのを認めることはない。
英国が繋いできた大西洋同盟関係にも悪影響が及ぼうし、ドイツが中心となる欧州が果たして安定的なものとなるだろうか。
来年は仏で大統領選挙、独で総選挙となる。
反移民・難民、反EUを掲げる極右勢力が大きく台頭する危険もある。
第二次大戦後の欧州の統合、EUの深化と拡大は間違いなく欧州の安定を生み、冷戦後の欧州秩序をつくり、欧州の経済発展に貢献してきた。
しかし今やEUの深化と拡大の流れは止まるのだろう。
後世の人は英国の国民投票が変動の引き金だったという評価をするのかもしれない。
そして本年11月の米国の大統領選挙。トランプ旋風の背景にあるのは所得格差の拡大による「持てる者と持たざる者」への二極分化についての大きな不満の鬱積であり、ワシントンの既成政治家に対する強い不信である。
伝統的には民主党は配分政策を重視する大きな政府やリベラルな価値を信奉し、労働組合の強い支持を受けていると言われてきた。
そして共和党は小さな政府、家族や宗教などの伝統的価値の尊重を旨とする政党と言われてきた。
■米国の大統領選挙
アウトサイダーを求めるポピュリズムの雰囲気
トランプ旋風の共和党は伝統的共和党とは大きく異なる。
従来共和党は米国が軍事的手段をとって世界の警察官として行動することが秩序を守り、米国の長期的利益に適うと信じてきたのだろう。
また、同盟国との関係を重視してきた。
しかし今や共和党にとっても国防予算は聖域ではなくなり、トランプの掲げる強いアメリカは自己の短期的利益に忠実なアメリカであるような気配がある。米国は内向きの度合いを強めていくのだろうか。
今回の大統領選挙は従来の伝統的な二大政党の政策論争ではなく、従来とは異なるもの、ワシントンの伝統的政治家ではないもの、歯切れの良い発言で自己利益に忠実な米国を追い求める、といった雰囲気の中での選挙戦となる危惧がある。
クリントン女史が勝利したにしてもそのようなポピュリズムの根は残るのだろう。
アジア、欧州、米国で起こっている出来事の根っこにあるのは、
国境を超えた協調を嫌うナショナリズムの蠢きである。
中国の南シナ海での攻撃的且つ一方的な行動には、19世紀までの栄華を取り戻そうという動機がある。
習近平の掲げる「中国の夢」の実現ということか。
英国の国民投票で離脱が残留を上回ったのはEUに振り回されるのではなく伝統的な英国らしさを取り戻したいというナショナリズムの発露であったのだろう。
米国のトランプ旋風の背景には、トランプが掲げる「アメリカ第一」主義で偉大な国アメリカの復活を望む国民意識がある。
このようなナショナリズムは中長期的な国際秩序安定化のために何をしたらよいかではなく、利己的な国内利益を追求する。
各国の自己中心的な利害が衝突し、お互いが妥協を拒み、場合によっては物理的な衝突に至ることも考えられないではない。
プーチンのロシアや習近平の中国が強硬な姿勢を貫こうとした時、先進民主主義国にあってもナショナリズムは高まり、対決を辞さない雰囲気が出てくるのだろう。
■排他的ナショナリズムに抗する良識は働くか
健全な批判を受け入れる寛容さを
今生じつつある出来事が引き金となって各地で排他的ナショナリズムの衝突に至ると決め付けているわけではない。
時の推移とともに中国は国際社会との全面的対決になるのは避けたい、これは自国経済の一層の成長率低下に繋がるかもしれないと考え、南シナ海や東シナ海での行動を自制していくかもしれない。
欧州においても英国の離脱投票から時期がたてば、英・EU双方でウィン・ウィンを作ろうという動きとなり、思ったより早く新しい枠組みが合意される可能性がないわけではない。
米国の大統領選挙でも最終的には米国人の良識が働くことを期待したい。
しかし、このような望ましいシナリオを実現させるためには、各国の国民が意識を鮮明にして合理的な議論に耳を傾け、メディアも常に健全な批判勢力としての役割を忘れることなく切磋琢磨し、ポピュリズムに流されないという強い意志を持つことが必要なのではないのだろうか。
日本においても政治の舵取り次第では排他的なナショナリズムが頭をもたげる余地は十分にある。
圧倒的に強いといわれる政権であればこそ、自由闊達な議論と健全な批判を受け入れる寛容さが求められているのだろう。
』
『
CNNニュース 2016.07.20 Wed posted at 12:24 JST
http://www.cnn.co.jp/world/35086126.html?tag=top;subStory
フィリピン、中国提案の二国間協議を拒否
●南シナ海を巡っては各国の領有権主張が対立
フィリピンのヤサイ外相は19日、南シナ海の領有権をめぐって中国が提案した二国間協議を、フィリピン側が拒否したことを明らかにした。
中国からは協議の前提として、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が先週下した判決を無視するよう求められていたという。
仲裁裁の判決はフィリピンの主張を全面的に認める内容だった。
ヤサイ氏が地元テレビ局に語ったところによると、中国当局者らはフィリピン側に対し、この判決に言及しないことが協議の条件だと主張した。
判決を無視したうえで二国間の交渉に応じてほしいとの要請もあったが、同氏は「フィリピンの憲法と国益に沿わない」として退けたという。
ヤサイ氏は15日からモンゴルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)の場で、中国の王毅(ワンイー)外相と会談した。
中国側からは、フィリピンが仲裁裁の判決にこだわるなら両国の間で対立が起きる恐れもある、との警告があった。
ただ同氏は、中国と水面下で交渉する余地はありそうだと述べ、中国側が立場を考え直す可能性に期待を示した。
同氏はまた、フィリピンとしては南シナ海のスカボロー礁周辺の漁場で今後も漁業活動を続けられるとの確証がほしいと強調した。
こうした経緯について中国外務省にコメントを求めたが、回答はまだ得られていない。
中国は海南島の南方から東方にかけて、南シナ海の9割を囲い込む「九段線」という境界線を設定し、資源採掘や人工島造成を行う権利の根拠としてきた。
仲裁裁は12日、この権利を認めない立場を示した。
中国はただちに判決を無視すると表明し、裁判は無効だとする立場を改めて示していた。
ヤサイ氏によると、判決が出てからフィリピンのドゥテルテ大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席は対話していない。
フィリピンではラモス元大統領が南シナ海問題の特使として訪中すると発表されたが、ヤサイ氏は「ラモス氏が受諾したかどうかは知らない」と語った。
中国の国営新華社通信によると、中国は14日に南シナ海で緊急の軍事演習を実施し、空軍によるパトロールを強化した。
英字紙チャイナ・デーリーは18日、人民解放軍が19~21日にも海南島付近の南シナ海で演習を実施すると伝えた。
一方、米海軍のジョン・リチャードソン作戦部長は18日、北京で中国海軍トップの呉勝利司令官と初めて会談。
南シナ海問題や双方の海軍の安全確保について意見を交換した。
』
『
THE PAGE 7月20日(水)17時45分配信 美根慶樹(みね・よしき)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160720-00000006-wordleaf-cn
南シナ「九段線」主張の根拠崩壊
中国の海洋大国化はどうなる
南シナ海での中国の海洋進出をめぐり、オランダのハーグにある国際仲裁裁判所が出した判決が波紋を広げています。
この裁判の結果を、中国はどのように受け止めたか、今後の中国の南シナ海、東シナ海での活動や日米への影響について、元外交官の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。
■1990年代からフィリピン・中国間で対立
7月12日、国際仲裁裁判所は、フィリピンが申し立てていたスカボロー礁(中国名「黄岩島」)やスプラトリー諸島(南沙諸島)などにおける中国との紛争について裁判結果を公表しました。
スカボロー礁では1990年代の終わりころから両国間で紛争があり、2012年には双方が艦船を派遣してにらみ合う状況に陥り、後にフィリピン側は引き上げましたが、中国船は居残ったままの状態になっています。
また、スプラトリー諸島では、やはり1990年代から紛争があり、2015年に入ると中国は埋め立てや建設工事を急ピッチで進めました。
中国は1990年代から海洋大国になることを国家目標とし、領海法の制定、巨額の予算措置など積極的に手を打ってきました。
その中には台湾の中国への統合を実現することも含まれます。
しかし、こうした中国の行動は現状を一方的に変更するものであり、周辺の各国は危機意識を高めました。
米国は艦艇をその付近の海域に航行させ、自由航行の重要性をアピールしました。
フィリピンは中国との話し合いで紛争を解決しようと試みましたが、結果が得られなかったので2013年、国際仲裁裁判所に提訴しました。
中国はこれも拒否したので海洋法条約の規定に従って強制裁判の手続きを進め、2015年末から実質的審議が行われてきました。
●[地図]中国が主張する南シナ海の「九段線」
■ほぼ全面的に退けられた主張、中国に衝撃
今回下された判決は、ほぼ全面的に中国の主張を退けました。
中国の主張の中で根幹となっているのは、「九段線」で囲まれた海域(これは南シナ海のほぼ全域です)について中国は歴史的権利があるということです。「
管轄権」を持つという場合もあります。
この主張について裁判所は「国際法上根拠がない」と断定しました。
この判断によれば、「九段線」の主張は成り立たなくなり、また、この海域での行動の多くは国際法上違法になる可能性があります。
そうなると海洋大国化計画を見直さなければならなくなるでしょう。
さらに判決は、スカボロー礁やスプラトリー諸島について次の趣旨の判断を下しました。
▽:これらの岩礁はいずれも海洋法上の「低潮高地(注:低潮時にだけ海面に姿を現す岩礁)」や「岩」である。
▽:これらの岩礁を基点として排他的経済水域(EEZ)や大陸棚の主張はできない。
▽:一部の岩礁はフィリピンのEEZの範囲内にある。
▽:中国による人工島の建設は、軍事活動ではないが違法である。
▽:中国がフィリピンの漁船などの活動を妨害したのも違法である。
▽:スカボロー礁で、中国の艦船は違法な行動によりフィリピンの艦船を危険にさらした。
中国はこの判決に対し12日、あらためて「仲裁裁判の結果は無効で拘束力はなく、受け入れず認めない」との声明を出しました。
これは従来からの姿勢を繰り返したものですが、実際には強い衝撃を受けたと思われます。
■習政権は行き過ぎた軍の行動抑えたいが……
南シナ海、東シナ海さらには台湾に対して最も強い態度を取っているのは中国の軍でしょう。
習近平政権としては、中国を世界の大国にまで押し上げ、米国との関係強化も必要なので、軍の積極過ぎる行動は抑えたいはずですが、軍は中国国内の安定を維持するための要であり、抑制するのは極めて困難です。
裁判結果は、この困難な状況にさらに強烈なくさびを打ち込んだと思います。
もちろん、中国が国際化し、合理的な対応をできるように変化する契機にするならば、このくさびは建設的な刺激となるでしょうが、早速19日から南シナ海で軍事演習を行うことを発表するなど、 果たしてそうなれるか、疑問をぬぐえません。
今回は南シナ海に関するものですが、中国は東シナ海、さらに台湾に対しても大した根拠を示さないまま歴史的権利を主張しています。
かりにこれらについても裁判が行われれば、今回の裁判結果に見習って、中国の主張はやはり根拠がないと判断される可能性が出てきたと思います。
実際にそうなると中国の行動は制約され、従来のようにふるまうことは困難になるでしょう。
■日本や米国の主張の正当性を強化する判決
一方、今回の判決はフィリピンのこれらの岩礁に対する領有権を認めたのではありませんが、フィリピンの排他的経済水域を認めつつ、
中国の主張と行動が海洋法条約など国際法に違反していると判断したのです。
これらの岩礁の法的地位は複雑です。
日本が先の大戦で敗れた結果、スプラトリー諸島に対する権利を放棄したことも絡んでおり、南シナ海のかなりの部分の法的地位は確定していません。
中国とフィリピンは判決で終わりにするのでなく、今後話し合いを続ける意向を示しています。
どういう形式で、どの範囲の国を含めるかなどについては問題が残っていますが、基本的に話し合いは歓迎すべきでしょう。
今回の判決は、南シナ海の現状を一方的に変えるべきでない、国際法に従って行動すべきだという米国や日本の主張が正当であったことを確認し、さらにその理由を具体的に示すもので、我々の立場が一段と強化されたのは間違いありません。
中国は裁判結果を認めないとの一点張りですが、裁判結果を建設的に受け止め、話し合いによる解決の糸口にする余地が残されています。
中国政府の賢明な対応を期待したいと思います。
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■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹
』
『
現代ビジネス 2016年07月22日(金) 長谷川 幸洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49238
暴発寸前の中国を制するには、この「封じ込め戦略」が最も有効
■「中国の軍事力は、沈黙しない」
中国の挑発が止まらない。
オランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海における中国の主権を否定する判決を出した後、中国はそれに従うどころか軍事演習を再開し、武力行使に訴える可能性さえほのめかしている。
そんな中国に、私たちはどう対応すべきなのか。
中国軍の対外スポークスマン的役割を果たしている孫建国・中国軍事委員会連合参謀部副参謀長は7月16日、国際シンポジウムで
「軍隊は幻想を捨て、国家主権と権益を守るために最後の決定的役割を果たさなければならない」
と演説した。
最後の決定的役割とは何か。
副参謀長は「最後は軍事力を行使するぞ」と言っているのだ。
私が中国の好戦的姿勢を指摘すると、左派勢力からは「また中国の脅威を煽っている」という声が上がる。
だが、彼らは自分たちの幻想こそを捨てなければならない。
脅しだったとしても、まずは相手が言うことを100%あり得ると仮定して対応策を考えるのは戦略の基本である。
それを「煽り」の一言で片付けるのは、まさにお花畑思考だ。
現実を直視しない連中とは、前提になる現状認識が違うので政策の議論にはならない。
武力行使を唱えたのは軍幹部だけでもない。
中国共産党の機関紙、人民日報系の「環球時報」は7月13日付社説で
「中国の軍事力は、立ち上がる必要があるときは沈黙しない。
南沙諸島はわれわれの手中にある」
と自慢気に恫喝した。
それを裏打ちするように、中国軍は19日から21日まで南シナ海で軍事演習を再開した。
判決前も10日間にわたって実弾演習をしたが、今回も島嶼上陸作戦などを展開した。
「いざとなったら戦うぞ」というデモンストレーションである。
■新たな「封じ込め戦略」を考える
東シナ海でも活発に動いている。
7月18日には中国海警局の海警3隻が尖閣諸島沖の日本領海に侵入した。
これは公船だったが、6月9日には軍艦が尖閣沖の接続水域に、同15日には口永良部島周辺の領海に侵入しているので、いずれ尖閣沖でも軍艦が領海侵入を試みるのは時間の問題だろう。
こうした中国にどう対応するのか。
私は先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49175)で日米豪などの対中包囲網を指摘したが、今週は話を一歩進めて、どんな対中包囲網が可能か、あるいは不可能なのかを考えてみよう。
米国の戦略家として著名なエドワード・ルトワック氏は著書『中国4.0 暴発する中華帝国』(文春新書)で「封じ込め戦略」を提案している。
この本はよく売れているようだ。
好戦的な中国のおかげだろう。
具体的には中国が尖閣諸島を占拠したら、欧州連合(EU)などに輸出入の入管手続きを強化してもらって「実質的に貿易取引禁止状態にする」という提案である。
そうなれば、たしかに中国は「深刻な状況に追い込まれるはずだ」(同書171ページ)。
これは尖閣占拠のケースを想定しているが、南シナ海問題でも同じ対応が考えられる。
封じ込めは、かつて冷戦期に米国が旧ソ連圏に実行した戦略でもある。
発案したのは最強の戦略家として知られたジョージ・ケナンだ。
ルトワック氏が唱える封じ込めがケナンのそれと同じかどうか知らないが、貿易取引を禁止するアイデアは冷戦期と同じである。
冷戦期には西側の対共産圏輸出統制委員会(COCOM)がソ連を中心とする共産圏への輸出を禁止した。
核兵器を保有しているソ連を相手に熱い戦争をしたら、双方が破滅してしまうので、西側からの技術と資源の流出を防ぎ、経済戦争で相手を追い詰めようとしたのだ。
■対ソ戦略を振り返る
貿易禁止だけではなかった。
冷戦研究の大家である米国の歴史学者、ジョン・ルイス・ギャディスの古典的名著『Strategies of Containment』によれば、封じ込めはソ連との戦いを戦争によって決着をつけるのを目指した戦略では「ない」(英語版同書51ページ)。
そうではなく経済戦、思想戦あるいは宣伝戦による勝利を目指した。
経済封鎖と自由と民主主義の理念的求心力によって共産主義に対抗しようとしたのだ。
ケナンは軍人相手の講演でも軍事力だけに頼らず、米国政治システムの優位による戦いを強調している。
私がギャディスの本を初めて読んだのは、いまから28年も前の留学中だったが、まさか中国問題を考えるのに、再び本を手にとる日が来るとは夢にも思わなかった。
あらためてページをめくってみると、ケナンのリアリズムに基づく見識に思いを深くする。
たとえば、国際連合についてケナンはどう考えていたか。
ケナンは「国際連合が紛争を解決できるわけもない」と見抜いていた。
国連は「議会のシャドーボクシング」にすぎず
「真の問題から米国人の目を逸らさせてしまう。
まったくバカげている」
と一刀両断に切って捨てている(29ページ)。
そうではなく
「私たちの安全保障は敵対勢力との間に均衡を保つ能力にかかっている」。
そのために封じ込め戦略を唱えたのだ。
これは現下の情勢にも、そっくりそのままあてはまる。
中国やロシアが拒否権を持っている国連は、もはや実質的に機能していない。
それはクリミア侵攻を批判する国連安全保障理事会決議に対するプーチン大統領の拒否権発動で証明された。
中国が尖閣諸島に侵攻し国連が取り上げたとしても、中国はロシア同様、非難には必ず拒否権を発動する。
ただ、ケナンの対ソ封じ込め戦略を現代の対中封じ込めに適用できるかといえば、少なくとも当時のままでは適用できない。
それには、いくつか理由がある。
まず、いま日米欧の対中貿易はあまりに規模が大きい。
各国とも対中輸出で潤っているだけでなく、対中輸入でも利益を受けている。
たとえば、iPhoneの部品の一部は中国製であり、組み立てもカリフォルニアではなく中国である。
冷戦前の対ソ貿易はたかが知れていたが、いま対中貿易を禁止すれば日米欧は大きな返り血を浴びてしまう。
しかし逆に言えば、それだけ中国側の打撃が大きいという話でもある。
輸出だけでなく輸入面でも何をどれだけ、どのように規制するか、日米欧の結束が試される展開になる。
対ソ封じ込めは思想戦でもあったが、いまの中国はソ連のようにオリジナルの共産主義を丸ごと信奉しているわけではない。
一部は市場経済も取り入れている。
ソ連は世界革命を目指したが、中国は影響力を高めようとはしていても、世界共産主義革命を目指してはいない。
■「中国の改心」を夢想しても仕方がない
封じ込め実行には、こちら側にも問題がある。
環太平洋連携協定(TPP)が象徴的だ。
もともとTPPは対中包囲網の形成が隠れた狙いだったのに、いまや米国の大統領候補が2人とも脱退ないし再交渉を言い始めている。
それは中国に塩を贈るようなものだ。
いまは対ソ冷戦期のように、日米欧が一枚岩でもない。
欧州は中国が創設したアジアインフラ投資銀行(AIIB)にこぞって参加した。
欧州はソ連を恐れていたが、いま中国を恐れてはいない。
彼らは中国が欧州にまで攻めてこないと分かっているから、ビジネスで利益が得られればそれでいいのだ。
一方、当時のソ連といまの中国が似ているところもある。
まず、その好戦的態度だ。
ソ連もいまの中国のように盛んに西側を挑発した。
ケナンが研究したスターリンと習近平も指導者としてよく似ている。
習近平は近年、スターリンのような強権的独裁者への道を歩み、政敵をばんばん追放している。
軍事に傾斜して自国の縄張り拡大を目指すところも同じである。
ソ連は経済が崩壊して、最終的に国がつぶれた。
中国は表向き高成長を装っているが、とっくにバブル経済が破裂し不良債権は巨額に上っている。
ソ連はバルト3国の独立宣言がきっかけになって崩壊したが、中国も韓国、北朝鮮、台湾、香港の周辺国・地域が離反している(1月22日公開コラム参照、http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/47495)。
ソ連では国の崩壊が迫ると共産党や軍幹部の亡命や逃亡が相次いだが、中国でも共産党幹部の子息や愛人の国外脱出と外貨持ち出しが相次いでいる。
封じ込め戦略は対中国でも有効と思われる。
ただし、かつての対ソ版からは相当、バージョンアップしなければならない。
先の孫・副参謀長は
「日米が共同して南シナ海を共同パトロールすれば、中国は黙っていない」
と日本に警告したという。
中国はまさにそれを恐れているのだ。
だからこそ、日米(+あまり頼りにはならないが欧州も)は共同で軍事面に限らず経済も含めて全面的に対中戦略をブラッシュアップし、いまから有事に備える必要がある。
いまは「中国の改心」を夢想しているような局面ではない。
』
『
Yahooニュース 2016年7月22日 13時43分配信 富坂聰 | 拓殖大学海外事情研究所教授
http://bylines.news.yahoo.co.jp/tomisakasatoshi/20160722-00060212/
南シナ海 仲裁裁判所裁定の本当の勝者
オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)は7月12日、中国が南シナ海を支配する根拠としてきた「九段線」の歴史的権利を否定。国連海洋法条約(以下、条約)をもとに提訴したフィリピンの主張をほぼ全面的に認める裁定を下した。
裁定から一週間が過ぎたが、中国の激しい反発は続いている。
裁定に対し中国は当初予想された通り「(裁定は)無効」であり、「従わない」としているが、
その根拠は、条約第298条に基づく「領土や海の境界、歴史的な権限、軍事活動などを紛争解決手続きから除外する」宣言である。
これはフィリピンが中国を提訴する前(2006年)に行われていて、同様の宣言を行っている国は中国以外にも多い。
国連常任理事国では中国を含め4ヵ国。
条約そのものを批准していないアメリカを含めれば5ヵ国すべてが同様の立場をとっている。
一方で中国は、フィリピンのPCAへの提訴は「(紛争を)2ヵ国間の話し合いで解決する」とした2011年の中国とフィリピンの共同声明に違反し、また南シナ海問題の解決を当事者間の話し合いで行うとした「ASEAN行動宣言」にも反すると主張している。
★.中国は端から裁定を無視する姿勢を示してきたが、
はたしてそれが戦術上正しかったのか、
ネット上でも多くの疑問符が投げかけられている。
本来、国家間の紛争は大別して①.外交的な解決と ②.裁判による解決に分けられるが、主流は外交による解決だ。
当事国間での話し合いが行き詰まった場合には裁判に委ねられることもあり、その場合、裁判は司法裁判と仲裁裁判に分かれる。
一般的に仲裁裁判は司法裁判に比べて、秘密の保持が可能であることと、また比較的衡平な判断が期待できるという利点があるとされてきた。
裁定を公開するか否かは当事国が選択でき、かつ裁判ではそれぞれが同数の裁判官を選び、選ばれた裁判官の合意により上級裁判官一人が指名されるという手続きが採られるため、双方の意見が反映されやすいと考えられてきた。
だが、今回のように一方の国が提訴にかかわろうとしなければ、公開非公開の選択から裁判官を選定する過程まで、そのすべてに一方の国の意向が反映されることはない。
中国が「衡平な裁定を求める前提は崩れていた」と不満を述べているのはこのためだ。
こうした経緯を含め中国はPCAの裁定を「紙くず」と断じたのだが、中国への風当たりが強まることはなく、現状では国際社会に理解されているとは言い難いようだ。
ただ、だからといって中国を直ちに「法律を守らない国」とレッテル貼りすることには慎重さ
――かつて日本自身もミナミマグロの調査漁獲をめぐる裁判ではPCAに対し今回の中国と同じように「仲裁裁判所にはこの件を審理する管轄権がない」と主張したこともあれば、南極海での調査捕鯨をめぐり国際司法裁判所(ICJ)が違法との判断を下したのに従っていない――
が必要だ。
今回の提訴は、そもそも中国とフィリピンとの話し合いが進められてきた最中にも、中国が強引な開発の手を緩めなかったことが直接の原因であった。
中国には「条約を無視して先に開発を進めていたのは中国以外の国」――事実、空港建設は中国が4番目であり石油の試掘も遅れていた――との不満があるのだろうが、やはりそこには大国としての自覚が足りなかったといわざるを得ない。
膨張する中国が国際社会のルールを尊重するのかに対する地域の警戒心は中国が予想する以上に強く、
それを軽視した中国外交の拙劣さがあったからだ。
では、なぜ中国は国際社会の非難が高まるなかでも強引な開発を進め、PCAの判断を無視し続けるのだろうか。
この疑問に対する解の一つに
★.「中国国内には政権に対する強い圧力が存在し
軟弱な姿勢を見せれば政権が持たない」
というものがある。
もちろん中国にも政治家が領土問題で譲歩するリスクは存在している。
しかしそれは、どの国にもある平均的な圧力に過ぎず、とくに国民的な人気を誇る習近平指導部にとって致命的な意味は持たない。
事実、中国は国内世論に背中を押されて南シナ海での開発を進めてきたわけではない。
では、何が理由なのだろうか。そこにあるのは、
★.中国がいま「世界は海の境界画定の競争の時代を迎えている」と位置付けていることだ。
今年1月、習近平指導部は大規模な軍事改革を公表―実際はその前から進行していた―したが、その目玉の一つは海軍の強化であった。
この陸から海へのシフトを、党の立場を代弁する立場の専門家たちは口をそろえて
「陸地の脅威はなくなった。今後の脅威は海からくる」、
「海の境界はまだ未確定で不安定」
と解説してきた。
これは大げさに言えば、第二次世界大戦までは世界は陸地の境界を巡って戦いであり、いまは海の境界を確定するための競争と中国が受け止めていることを意味する。
中国は当然、今回のPCAの裁定もこの視点から見ていたことになる。つ
まり中国にとってこの裁定は単に提訴国フィリピンとの争いという枠では語ることのできない問題であったのだ。
いま、海の境界画定競争という視点で改めてPCAの裁定を見てみると興味深いのは、今回の裁定のなかで中国が最も気にしているのは日本のメディアが注目した「『九段線』の法的な判断」や「人工島の埋め立ての合法性」ではなく、
「南沙諸島に『島』はない」とした部分ではないかと思われる点だ。
裁定の通りであれば南沙のある海域に「中国はEEZを設定することはできない」のだが、それは同時に中国以外の5ヵ国地域(南沙に領有権を主張している)も「EEZは設定できない」ことになる。
つまり乱暴な表現をすれば南沙の海域に突如「巨大な空き地」が出現したことになるのだ。
これにより最も利益を得たのはだれか。
それは間違いなくアメリカである。
実は、中国は早くから「フィリピンの裏側にいる域外国の企み」という表現でこれを警戒してきた。
そして「空き地」の出現は中国にとって最悪の結果であり、それが中国の予想以上に激しい反発を引き出したとみられるのだ。
裁定後、国内メディアは対外的に激しい主張を繰り出し続けているが、その矛先は意外にもフィリピンだけに向けられているわけではない。
中国は当初からPCAへの提訴は「フィリピンの選択」ではなく「アキノ政権の選択」と位置付け、ドゥテルテ政権が誕生した現在、過去の問題とする見方を強めている。
またアキノ政権の裏側には「域外国の意図」が働いていて、その「域外国」が暗にアメリカを指す言葉であることも隠していない。
問題はこの「域外国」の手先となって南シナ海問題に介入した国として日本へも攻撃を強めていることだ。
国内メディアの表現を借りれば、日本は「アメリカの手先となって茶番劇を演出した国」ということになる。
この世論形成がなされれば、今後、日本が中国からの有形無形のプレッシャーにさらされることは避けられない。
日本にとって南シナ海問題で中国と本格的に対峙することがやっかいなのは、対アメリカ、対フィリピンと違い南シナ海に明確な利害を持たないという特徴があることだ。
利害が存在すれば歩み寄りの道は描きやすい。
しかし利害が不在であれば残るのは感情的なしこりだけということになる。
これは外交的には最悪な状況と言わざるを得ない。
しかもフィリピンでは新政権がすでに動き出し、アメリカでも11月には新大統領が誕生するというタイミングを考えれば、関係改善のタイミングが最も難しいのは日本ということになりかねないのである。
新政権の誕生に合わせ、それまでの対立関係を嘘のように切り替えてくるのが、中国がこれまで繰り返してきた関係改善のパターンである。
日本として警戒しなければならないのは、PCAをめぐる対立のなかで、いつのまにか日本だけが突出した中国の攻撃対象となってしまうことであり、それが自ら抱える東シナ海問題をさらに複雑化させてしまうことである。
』
【自ら孤立化を選ぶ中国の思惑】
CNNニュース 2016.07.20 Wed posted at 12:24 JST
http://www.cnn.co.jp/world/35086126.html?tag=top;subStory
フィリピン、中国提案の二国間協議を拒否
●南シナ海を巡っては各国の領有権主張が対立
フィリピンのヤサイ外相は19日、南シナ海の領有権をめぐって中国が提案した二国間協議を、フィリピン側が拒否したことを明らかにした。
中国からは協議の前提として、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が先週下した判決を無視するよう求められていたという。
仲裁裁の判決はフィリピンの主張を全面的に認める内容だった。
ヤサイ氏が地元テレビ局に語ったところによると、中国当局者らはフィリピン側に対し、この判決に言及しないことが協議の条件だと主張した。
判決を無視したうえで二国間の交渉に応じてほしいとの要請もあったが、同氏は「フィリピンの憲法と国益に沿わない」として退けたという。
ヤサイ氏は15日からモンゴルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)の場で、中国の王毅(ワンイー)外相と会談した。
中国側からは、フィリピンが仲裁裁の判決にこだわるなら両国の間で対立が起きる恐れもある、との警告があった。
ただ同氏は、中国と水面下で交渉する余地はありそうだと述べ、中国側が立場を考え直す可能性に期待を示した。
同氏はまた、フィリピンとしては南シナ海のスカボロー礁周辺の漁場で今後も漁業活動を続けられるとの確証がほしいと強調した。
こうした経緯について中国外務省にコメントを求めたが、回答はまだ得られていない。
中国は海南島の南方から東方にかけて、南シナ海の9割を囲い込む「九段線」という境界線を設定し、資源採掘や人工島造成を行う権利の根拠としてきた。
仲裁裁は12日、この権利を認めない立場を示した。
中国はただちに判決を無視すると表明し、裁判は無効だとする立場を改めて示していた。
ヤサイ氏によると、判決が出てからフィリピンのドゥテルテ大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席は対話していない。
フィリピンではラモス元大統領が南シナ海問題の特使として訪中すると発表されたが、ヤサイ氏は「ラモス氏が受諾したかどうかは知らない」と語った。
中国の国営新華社通信によると、中国は14日に南シナ海で緊急の軍事演習を実施し、空軍によるパトロールを強化した。
英字紙チャイナ・デーリーは18日、人民解放軍が19~21日にも海南島付近の南シナ海で演習を実施すると伝えた。
一方、米海軍のジョン・リチャードソン作戦部長は18日、北京で中国海軍トップの呉勝利司令官と初めて会談。
南シナ海問題や双方の海軍の安全確保について意見を交換した。
』
『
THE PAGE 7月20日(水)17時45分配信 美根慶樹(みね・よしき)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160720-00000006-wordleaf-cn
南シナ「九段線」主張の根拠崩壊
中国の海洋大国化はどうなる
南シナ海での中国の海洋進出をめぐり、オランダのハーグにある国際仲裁裁判所が出した判決が波紋を広げています。
この裁判の結果を、中国はどのように受け止めたか、今後の中国の南シナ海、東シナ海での活動や日米への影響について、元外交官の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。
■1990年代からフィリピン・中国間で対立
7月12日、国際仲裁裁判所は、フィリピンが申し立てていたスカボロー礁(中国名「黄岩島」)やスプラトリー諸島(南沙諸島)などにおける中国との紛争について裁判結果を公表しました。
スカボロー礁では1990年代の終わりころから両国間で紛争があり、2012年には双方が艦船を派遣してにらみ合う状況に陥り、後にフィリピン側は引き上げましたが、中国船は居残ったままの状態になっています。
また、スプラトリー諸島では、やはり1990年代から紛争があり、2015年に入ると中国は埋め立てや建設工事を急ピッチで進めました。
中国は1990年代から海洋大国になることを国家目標とし、領海法の制定、巨額の予算措置など積極的に手を打ってきました。
その中には台湾の中国への統合を実現することも含まれます。
しかし、こうした中国の行動は現状を一方的に変更するものであり、周辺の各国は危機意識を高めました。
米国は艦艇をその付近の海域に航行させ、自由航行の重要性をアピールしました。
フィリピンは中国との話し合いで紛争を解決しようと試みましたが、結果が得られなかったので2013年、国際仲裁裁判所に提訴しました。
中国はこれも拒否したので海洋法条約の規定に従って強制裁判の手続きを進め、2015年末から実質的審議が行われてきました。
●[地図]中国が主張する南シナ海の「九段線」
■ほぼ全面的に退けられた主張、中国に衝撃
今回下された判決は、ほぼ全面的に中国の主張を退けました。
中国の主張の中で根幹となっているのは、「九段線」で囲まれた海域(これは南シナ海のほぼ全域です)について中国は歴史的権利があるということです。「
管轄権」を持つという場合もあります。
この主張について裁判所は「国際法上根拠がない」と断定しました。
この判断によれば、「九段線」の主張は成り立たなくなり、また、この海域での行動の多くは国際法上違法になる可能性があります。
そうなると海洋大国化計画を見直さなければならなくなるでしょう。
さらに判決は、スカボロー礁やスプラトリー諸島について次の趣旨の判断を下しました。
▽:これらの岩礁はいずれも海洋法上の「低潮高地(注:低潮時にだけ海面に姿を現す岩礁)」や「岩」である。
▽:これらの岩礁を基点として排他的経済水域(EEZ)や大陸棚の主張はできない。
▽:一部の岩礁はフィリピンのEEZの範囲内にある。
▽:中国による人工島の建設は、軍事活動ではないが違法である。
▽:中国がフィリピンの漁船などの活動を妨害したのも違法である。
▽:スカボロー礁で、中国の艦船は違法な行動によりフィリピンの艦船を危険にさらした。
中国はこの判決に対し12日、あらためて「仲裁裁判の結果は無効で拘束力はなく、受け入れず認めない」との声明を出しました。
これは従来からの姿勢を繰り返したものですが、実際には強い衝撃を受けたと思われます。
■習政権は行き過ぎた軍の行動抑えたいが……
南シナ海、東シナ海さらには台湾に対して最も強い態度を取っているのは中国の軍でしょう。
習近平政権としては、中国を世界の大国にまで押し上げ、米国との関係強化も必要なので、軍の積極過ぎる行動は抑えたいはずですが、軍は中国国内の安定を維持するための要であり、抑制するのは極めて困難です。
裁判結果は、この困難な状況にさらに強烈なくさびを打ち込んだと思います。
もちろん、中国が国際化し、合理的な対応をできるように変化する契機にするならば、このくさびは建設的な刺激となるでしょうが、早速19日から南シナ海で軍事演習を行うことを発表するなど、 果たしてそうなれるか、疑問をぬぐえません。
今回は南シナ海に関するものですが、中国は東シナ海、さらに台湾に対しても大した根拠を示さないまま歴史的権利を主張しています。
かりにこれらについても裁判が行われれば、今回の裁判結果に見習って、中国の主張はやはり根拠がないと判断される可能性が出てきたと思います。
実際にそうなると中国の行動は制約され、従来のようにふるまうことは困難になるでしょう。
■日本や米国の主張の正当性を強化する判決
一方、今回の判決はフィリピンのこれらの岩礁に対する領有権を認めたのではありませんが、フィリピンの排他的経済水域を認めつつ、
中国の主張と行動が海洋法条約など国際法に違反していると判断したのです。
これらの岩礁の法的地位は複雑です。
日本が先の大戦で敗れた結果、スプラトリー諸島に対する権利を放棄したことも絡んでおり、南シナ海のかなりの部分の法的地位は確定していません。
中国とフィリピンは判決で終わりにするのでなく、今後話し合いを続ける意向を示しています。
どういう形式で、どの範囲の国を含めるかなどについては問題が残っていますが、基本的に話し合いは歓迎すべきでしょう。
今回の判決は、南シナ海の現状を一方的に変えるべきでない、国際法に従って行動すべきだという米国や日本の主張が正当であったことを確認し、さらにその理由を具体的に示すもので、我々の立場が一段と強化されたのは間違いありません。
中国は裁判結果を認めないとの一点張りですが、裁判結果を建設的に受け止め、話し合いによる解決の糸口にする余地が残されています。
中国政府の賢明な対応を期待したいと思います。
----------------------------
■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹
』
『
現代ビジネス 2016年07月22日(金) 長谷川 幸洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49238
暴発寸前の中国を制するには、この「封じ込め戦略」が最も有効
■「中国の軍事力は、沈黙しない」
中国の挑発が止まらない。
オランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海における中国の主権を否定する判決を出した後、中国はそれに従うどころか軍事演習を再開し、武力行使に訴える可能性さえほのめかしている。
そんな中国に、私たちはどう対応すべきなのか。
中国軍の対外スポークスマン的役割を果たしている孫建国・中国軍事委員会連合参謀部副参謀長は7月16日、国際シンポジウムで
「軍隊は幻想を捨て、国家主権と権益を守るために最後の決定的役割を果たさなければならない」
と演説した。
最後の決定的役割とは何か。
副参謀長は「最後は軍事力を行使するぞ」と言っているのだ。
私が中国の好戦的姿勢を指摘すると、左派勢力からは「また中国の脅威を煽っている」という声が上がる。
だが、彼らは自分たちの幻想こそを捨てなければならない。
脅しだったとしても、まずは相手が言うことを100%あり得ると仮定して対応策を考えるのは戦略の基本である。
それを「煽り」の一言で片付けるのは、まさにお花畑思考だ。
現実を直視しない連中とは、前提になる現状認識が違うので政策の議論にはならない。
武力行使を唱えたのは軍幹部だけでもない。
中国共産党の機関紙、人民日報系の「環球時報」は7月13日付社説で
「中国の軍事力は、立ち上がる必要があるときは沈黙しない。
南沙諸島はわれわれの手中にある」
と自慢気に恫喝した。
それを裏打ちするように、中国軍は19日から21日まで南シナ海で軍事演習を再開した。
判決前も10日間にわたって実弾演習をしたが、今回も島嶼上陸作戦などを展開した。
「いざとなったら戦うぞ」というデモンストレーションである。
■新たな「封じ込め戦略」を考える
東シナ海でも活発に動いている。
7月18日には中国海警局の海警3隻が尖閣諸島沖の日本領海に侵入した。
これは公船だったが、6月9日には軍艦が尖閣沖の接続水域に、同15日には口永良部島周辺の領海に侵入しているので、いずれ尖閣沖でも軍艦が領海侵入を試みるのは時間の問題だろう。
こうした中国にどう対応するのか。
私は先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49175)で日米豪などの対中包囲網を指摘したが、今週は話を一歩進めて、どんな対中包囲網が可能か、あるいは不可能なのかを考えてみよう。
米国の戦略家として著名なエドワード・ルトワック氏は著書『中国4.0 暴発する中華帝国』(文春新書)で「封じ込め戦略」を提案している。
この本はよく売れているようだ。
好戦的な中国のおかげだろう。
具体的には中国が尖閣諸島を占拠したら、欧州連合(EU)などに輸出入の入管手続きを強化してもらって「実質的に貿易取引禁止状態にする」という提案である。
そうなれば、たしかに中国は「深刻な状況に追い込まれるはずだ」(同書171ページ)。
これは尖閣占拠のケースを想定しているが、南シナ海問題でも同じ対応が考えられる。
封じ込めは、かつて冷戦期に米国が旧ソ連圏に実行した戦略でもある。
発案したのは最強の戦略家として知られたジョージ・ケナンだ。
ルトワック氏が唱える封じ込めがケナンのそれと同じかどうか知らないが、貿易取引を禁止するアイデアは冷戦期と同じである。
冷戦期には西側の対共産圏輸出統制委員会(COCOM)がソ連を中心とする共産圏への輸出を禁止した。
核兵器を保有しているソ連を相手に熱い戦争をしたら、双方が破滅してしまうので、西側からの技術と資源の流出を防ぎ、経済戦争で相手を追い詰めようとしたのだ。
■対ソ戦略を振り返る
貿易禁止だけではなかった。
冷戦研究の大家である米国の歴史学者、ジョン・ルイス・ギャディスの古典的名著『Strategies of Containment』によれば、封じ込めはソ連との戦いを戦争によって決着をつけるのを目指した戦略では「ない」(英語版同書51ページ)。
そうではなく経済戦、思想戦あるいは宣伝戦による勝利を目指した。
経済封鎖と自由と民主主義の理念的求心力によって共産主義に対抗しようとしたのだ。
ケナンは軍人相手の講演でも軍事力だけに頼らず、米国政治システムの優位による戦いを強調している。
私がギャディスの本を初めて読んだのは、いまから28年も前の留学中だったが、まさか中国問題を考えるのに、再び本を手にとる日が来るとは夢にも思わなかった。
あらためてページをめくってみると、ケナンのリアリズムに基づく見識に思いを深くする。
たとえば、国際連合についてケナンはどう考えていたか。
ケナンは「国際連合が紛争を解決できるわけもない」と見抜いていた。
国連は「議会のシャドーボクシング」にすぎず
「真の問題から米国人の目を逸らさせてしまう。
まったくバカげている」
と一刀両断に切って捨てている(29ページ)。
そうではなく
「私たちの安全保障は敵対勢力との間に均衡を保つ能力にかかっている」。
そのために封じ込め戦略を唱えたのだ。
これは現下の情勢にも、そっくりそのままあてはまる。
中国やロシアが拒否権を持っている国連は、もはや実質的に機能していない。
それはクリミア侵攻を批判する国連安全保障理事会決議に対するプーチン大統領の拒否権発動で証明された。
中国が尖閣諸島に侵攻し国連が取り上げたとしても、中国はロシア同様、非難には必ず拒否権を発動する。
ただ、ケナンの対ソ封じ込め戦略を現代の対中封じ込めに適用できるかといえば、少なくとも当時のままでは適用できない。
それには、いくつか理由がある。
まず、いま日米欧の対中貿易はあまりに規模が大きい。
各国とも対中輸出で潤っているだけでなく、対中輸入でも利益を受けている。
たとえば、iPhoneの部品の一部は中国製であり、組み立てもカリフォルニアではなく中国である。
冷戦前の対ソ貿易はたかが知れていたが、いま対中貿易を禁止すれば日米欧は大きな返り血を浴びてしまう。
しかし逆に言えば、それだけ中国側の打撃が大きいという話でもある。
輸出だけでなく輸入面でも何をどれだけ、どのように規制するか、日米欧の結束が試される展開になる。
対ソ封じ込めは思想戦でもあったが、いまの中国はソ連のようにオリジナルの共産主義を丸ごと信奉しているわけではない。
一部は市場経済も取り入れている。
ソ連は世界革命を目指したが、中国は影響力を高めようとはしていても、世界共産主義革命を目指してはいない。
■「中国の改心」を夢想しても仕方がない
封じ込め実行には、こちら側にも問題がある。
環太平洋連携協定(TPP)が象徴的だ。
もともとTPPは対中包囲網の形成が隠れた狙いだったのに、いまや米国の大統領候補が2人とも脱退ないし再交渉を言い始めている。
それは中国に塩を贈るようなものだ。
いまは対ソ冷戦期のように、日米欧が一枚岩でもない。
欧州は中国が創設したアジアインフラ投資銀行(AIIB)にこぞって参加した。
欧州はソ連を恐れていたが、いま中国を恐れてはいない。
彼らは中国が欧州にまで攻めてこないと分かっているから、ビジネスで利益が得られればそれでいいのだ。
一方、当時のソ連といまの中国が似ているところもある。
まず、その好戦的態度だ。
ソ連もいまの中国のように盛んに西側を挑発した。
ケナンが研究したスターリンと習近平も指導者としてよく似ている。
習近平は近年、スターリンのような強権的独裁者への道を歩み、政敵をばんばん追放している。
軍事に傾斜して自国の縄張り拡大を目指すところも同じである。
ソ連は経済が崩壊して、最終的に国がつぶれた。
中国は表向き高成長を装っているが、とっくにバブル経済が破裂し不良債権は巨額に上っている。
ソ連はバルト3国の独立宣言がきっかけになって崩壊したが、中国も韓国、北朝鮮、台湾、香港の周辺国・地域が離反している(1月22日公開コラム参照、http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/47495)。
ソ連では国の崩壊が迫ると共産党や軍幹部の亡命や逃亡が相次いだが、中国でも共産党幹部の子息や愛人の国外脱出と外貨持ち出しが相次いでいる。
封じ込め戦略は対中国でも有効と思われる。
ただし、かつての対ソ版からは相当、バージョンアップしなければならない。
先の孫・副参謀長は
「日米が共同して南シナ海を共同パトロールすれば、中国は黙っていない」
と日本に警告したという。
中国はまさにそれを恐れているのだ。
だからこそ、日米(+あまり頼りにはならないが欧州も)は共同で軍事面に限らず経済も含めて全面的に対中戦略をブラッシュアップし、いまから有事に備える必要がある。
いまは「中国の改心」を夢想しているような局面ではない。
』
『
Yahooニュース 2016年7月22日 13時43分配信 富坂聰 | 拓殖大学海外事情研究所教授
http://bylines.news.yahoo.co.jp/tomisakasatoshi/20160722-00060212/
南シナ海 仲裁裁判所裁定の本当の勝者
オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)は7月12日、中国が南シナ海を支配する根拠としてきた「九段線」の歴史的権利を否定。国連海洋法条約(以下、条約)をもとに提訴したフィリピンの主張をほぼ全面的に認める裁定を下した。
裁定から一週間が過ぎたが、中国の激しい反発は続いている。
裁定に対し中国は当初予想された通り「(裁定は)無効」であり、「従わない」としているが、
その根拠は、条約第298条に基づく「領土や海の境界、歴史的な権限、軍事活動などを紛争解決手続きから除外する」宣言である。
これはフィリピンが中国を提訴する前(2006年)に行われていて、同様の宣言を行っている国は中国以外にも多い。
国連常任理事国では中国を含め4ヵ国。
条約そのものを批准していないアメリカを含めれば5ヵ国すべてが同様の立場をとっている。
一方で中国は、フィリピンのPCAへの提訴は「(紛争を)2ヵ国間の話し合いで解決する」とした2011年の中国とフィリピンの共同声明に違反し、また南シナ海問題の解決を当事者間の話し合いで行うとした「ASEAN行動宣言」にも反すると主張している。
★.中国は端から裁定を無視する姿勢を示してきたが、
はたしてそれが戦術上正しかったのか、
ネット上でも多くの疑問符が投げかけられている。
本来、国家間の紛争は大別して①.外交的な解決と ②.裁判による解決に分けられるが、主流は外交による解決だ。
当事国間での話し合いが行き詰まった場合には裁判に委ねられることもあり、その場合、裁判は司法裁判と仲裁裁判に分かれる。
一般的に仲裁裁判は司法裁判に比べて、秘密の保持が可能であることと、また比較的衡平な判断が期待できるという利点があるとされてきた。
裁定を公開するか否かは当事国が選択でき、かつ裁判ではそれぞれが同数の裁判官を選び、選ばれた裁判官の合意により上級裁判官一人が指名されるという手続きが採られるため、双方の意見が反映されやすいと考えられてきた。
だが、今回のように一方の国が提訴にかかわろうとしなければ、公開非公開の選択から裁判官を選定する過程まで、そのすべてに一方の国の意向が反映されることはない。
中国が「衡平な裁定を求める前提は崩れていた」と不満を述べているのはこのためだ。
こうした経緯を含め中国はPCAの裁定を「紙くず」と断じたのだが、中国への風当たりが強まることはなく、現状では国際社会に理解されているとは言い難いようだ。
ただ、だからといって中国を直ちに「法律を守らない国」とレッテル貼りすることには慎重さ
――かつて日本自身もミナミマグロの調査漁獲をめぐる裁判ではPCAに対し今回の中国と同じように「仲裁裁判所にはこの件を審理する管轄権がない」と主張したこともあれば、南極海での調査捕鯨をめぐり国際司法裁判所(ICJ)が違法との判断を下したのに従っていない――
が必要だ。
今回の提訴は、そもそも中国とフィリピンとの話し合いが進められてきた最中にも、中国が強引な開発の手を緩めなかったことが直接の原因であった。
中国には「条約を無視して先に開発を進めていたのは中国以外の国」――事実、空港建設は中国が4番目であり石油の試掘も遅れていた――との不満があるのだろうが、やはりそこには大国としての自覚が足りなかったといわざるを得ない。
膨張する中国が国際社会のルールを尊重するのかに対する地域の警戒心は中国が予想する以上に強く、
それを軽視した中国外交の拙劣さがあったからだ。
では、なぜ中国は国際社会の非難が高まるなかでも強引な開発を進め、PCAの判断を無視し続けるのだろうか。
この疑問に対する解の一つに
★.「中国国内には政権に対する強い圧力が存在し
軟弱な姿勢を見せれば政権が持たない」
というものがある。
もちろん中国にも政治家が領土問題で譲歩するリスクは存在している。
しかしそれは、どの国にもある平均的な圧力に過ぎず、とくに国民的な人気を誇る習近平指導部にとって致命的な意味は持たない。
事実、中国は国内世論に背中を押されて南シナ海での開発を進めてきたわけではない。
では、何が理由なのだろうか。そこにあるのは、
★.中国がいま「世界は海の境界画定の競争の時代を迎えている」と位置付けていることだ。
今年1月、習近平指導部は大規模な軍事改革を公表―実際はその前から進行していた―したが、その目玉の一つは海軍の強化であった。
この陸から海へのシフトを、党の立場を代弁する立場の専門家たちは口をそろえて
「陸地の脅威はなくなった。今後の脅威は海からくる」、
「海の境界はまだ未確定で不安定」
と解説してきた。
これは大げさに言えば、第二次世界大戦までは世界は陸地の境界を巡って戦いであり、いまは海の境界を確定するための競争と中国が受け止めていることを意味する。
中国は当然、今回のPCAの裁定もこの視点から見ていたことになる。つ
まり中国にとってこの裁定は単に提訴国フィリピンとの争いという枠では語ることのできない問題であったのだ。
いま、海の境界画定競争という視点で改めてPCAの裁定を見てみると興味深いのは、今回の裁定のなかで中国が最も気にしているのは日本のメディアが注目した「『九段線』の法的な判断」や「人工島の埋め立ての合法性」ではなく、
「南沙諸島に『島』はない」とした部分ではないかと思われる点だ。
裁定の通りであれば南沙のある海域に「中国はEEZを設定することはできない」のだが、それは同時に中国以外の5ヵ国地域(南沙に領有権を主張している)も「EEZは設定できない」ことになる。
つまり乱暴な表現をすれば南沙の海域に突如「巨大な空き地」が出現したことになるのだ。
これにより最も利益を得たのはだれか。
それは間違いなくアメリカである。
実は、中国は早くから「フィリピンの裏側にいる域外国の企み」という表現でこれを警戒してきた。
そして「空き地」の出現は中国にとって最悪の結果であり、それが中国の予想以上に激しい反発を引き出したとみられるのだ。
裁定後、国内メディアは対外的に激しい主張を繰り出し続けているが、その矛先は意外にもフィリピンだけに向けられているわけではない。
中国は当初からPCAへの提訴は「フィリピンの選択」ではなく「アキノ政権の選択」と位置付け、ドゥテルテ政権が誕生した現在、過去の問題とする見方を強めている。
またアキノ政権の裏側には「域外国の意図」が働いていて、その「域外国」が暗にアメリカを指す言葉であることも隠していない。
問題はこの「域外国」の手先となって南シナ海問題に介入した国として日本へも攻撃を強めていることだ。
国内メディアの表現を借りれば、日本は「アメリカの手先となって茶番劇を演出した国」ということになる。
この世論形成がなされれば、今後、日本が中国からの有形無形のプレッシャーにさらされることは避けられない。
日本にとって南シナ海問題で中国と本格的に対峙することがやっかいなのは、対アメリカ、対フィリピンと違い南シナ海に明確な利害を持たないという特徴があることだ。
利害が存在すれば歩み寄りの道は描きやすい。
しかし利害が不在であれば残るのは感情的なしこりだけということになる。
これは外交的には最悪な状況と言わざるを得ない。
しかもフィリピンでは新政権がすでに動き出し、アメリカでも11月には新大統領が誕生するというタイミングを考えれば、関係改善のタイミングが最も難しいのは日本ということになりかねないのである。
新政権の誕生に合わせ、それまでの対立関係を嘘のように切り替えてくるのが、中国がこれまで繰り返してきた関係改善のパターンである。
日本として警戒しなければならないのは、PCAをめぐる対立のなかで、いつのまにか日本だけが突出した中国の攻撃対象となってしまうことであり、それが自ら抱える東シナ海問題をさらに複雑化させてしまうことである。
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