2016年8月21日日曜日

日本憲法は誰が書いたのか?:答えの出ている素朴な疑問を巡って


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Record china配信日時:2016年8月20日(土) 17時0分
http://www.recordchina.co.jp/a147953.html

「日本は一夜で核兵器製造可能」発言のバイデン米副大統領、
今度は「日本の憲法は私たちが書いた」、改憲論議に影響も

  2016年8月19日、中国の習近平国家主席に「日本は一夜で核兵器製造が可能」と語ったことを自ら明かし波紋を呼んだ米国のバイデン副大統領が、今度は「日本の憲法は私たちが書いた」と発言した。
 米政府高官が日本国憲法の制定過程に言及するのは極めて異例。
 今後の改憲論議にも少なからず影響しそうだ。

 米メディアによると、バイデン副大統領の発言は、15日にペンシルベニア州スクラントンで民主党大統領候補のヒラリー・クリントン前国務長官の応援演説をした際に飛び出した。

 バイデン氏は共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏を攻撃する中で、
 「米国の歴史上、トランプ氏ほど安全保障に関して準備ができていない候補者はいない。
 完全に大統領に不適格だ」
と指摘。
 その上で
 「トランプ氏は、核戦争がささいなことであるかのように、ほかの国々に核兵器の開発を促している。
 核保有国にはなれないという日本の憲法は、
 私たちが書いたものだということを理解していないのか
と述べた。

 「核保有国にはなれないという日本の憲法」は、「戦争放棄」などをうたった第9条を指すとみられる。
 9条をめぐり連合国軍最高司令官だったマッカーサー元帥は米上院軍事外交合同委員会の証言や回想録などで当時の幣原喜重郎首相の発案によるもの、と語っている。
 グレゴリー・ペック主演の映画「マッカーサー」(1977年)にも幣原首相の説明にマッカーサー元帥がうなずくシーンが登場する。

 バイデン氏の「私たちが書いた」とは、やや異なるが、当時の日本政府は連合国軍総司令部(GHQ)の承認なしには何もできなかったのは事実。
 日本政府がいったんまとめた憲法改正案をGHQが作り直した経緯もある。
 それに当時は連合国側の一部に根強かった昭和天皇の戦争責任追及や天皇制の廃止をどう回避するかが最優先課題だった事情もある。

 自民党の憲法改正草案は、改正の理由として
 「現行憲法は連合国軍の占領下においてGHQが指示した草案を基に、その了解の範囲内において制定されたもので、
 日本国の主権が制限された中で制定された憲法には、国民の自由な意思が反映されていない
 と明記。
 占領軍による“押し付け”を強調している。
 はからずもバイデン発言は、これを認めた形でもある。

 これに対し、民進党などは現行憲法が国民に間に広く定着していることを評価。
 憲法論議の必要性は認めながらも、“押しつけ”の認識を撤回することが前提との立場だ。

 NHKによると、今回のバイデン発言について、在米日本大使館は
 「大統領選挙における発言の逐一に見解を述べるのは適切でなく、差し控えたい」と
しながらも、
 「現行憲法は帝国議会で最終的には十分に審議され、有効に議決されたものだが、
 占領軍当局の強い影響のもと制定されたものだと考えている」
とコメントした。
 “押し付け”を肯定したとも受け取られかねず、これも論議を呼びそうだ。



現代ビジネス 2016年08月20日(土) 歳川 隆雄
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49485

日本国憲法は「私たち(米国)が書いた」!? 
米副大統領の仰天発言に安倍自民党がダンマリを決め込むワケ

■憲法は誰が書いたのか

 なぜなのか、その理由が分からない。
 ジョセフ・バイデン米副大統領が8月15日、ペンシルベニア州スクラントンで開かれた民主党大統領候補のヒラリー・クリントン氏の集会に初めて参加し、そこで行った演説の中にあった重大発言に対する反応が日本国内で殆どないことである。

 共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏はかつてインタビューの中で
 「日本が在日米軍駐留経費を全額負担しないと言うのであれば、日本は自力で国を守るべきだ。
 そのために核兵器を保有するというのであれば、それはそれで結構だ」
といった趣旨のこと語った。

 もちろん、それを念頭に置いてのことだが、バイデン副大統領は次のように述べた。
 「トランプ氏は、私たちが書いた日本の憲法で(日本は)核兵器保有国になれないことを理解していない」

 正確を期するために原文に当たってみる。「Does he not understand we wrote Japan’s constitution to say they couldn’t be a nuclear power?」――確かに、「私たち(米国)が書いた」と述べている。

 たとえ政治集会での発言だとしても、現職の米国大統領が「私たちが日本国憲法を書いた」と表現するのは極めて異例のことだ。
 困惑する外務省の幹部も
 「せめてwroteではなくdrafted(下書きした)と言ってくれていれば」
と嘆息する。

 本来ならば日本国憲法の制定を巡る大論議に再び火を付けかねない重大発言である。
 事実、米紙ウォールストリート・ジャーナルのピーター・ランダーズ東京特派員は17日付の同紙で、(同発言が)日本国内に戦争放棄を謳った現行憲法改正論を惹起しつつあると報じている。

■安倍首相が継承した「考え」

 ところが不思議なことに、どの国内メディアをチェックしても、
 護憲派からバイデン発言に対して強い反発があったとは聞かないし、
 改憲派から「やはり占領軍の押し付け憲法だった」といった類のコメントも見当たらない。

 改めて指摘するまでもなく、安倍晋三首相は憲法改正論者である。
 その根底には、日本の戦争放棄を謳った憲法9条の成立過程について、連合軍最高司令部(GHQ)から押し付けられたものであるとの認識がある。
 そこには、とりわけ安倍首相の敬愛する祖父・岸信介元首相の強い影響が見られる。
 その経緯は、今夏刊行の『吉田茂と岸信介―自民党・保守二代潮流の系譜』(安井浩一郎・NHKスペシャル取材班著。岩波書店)に詳しい。

 安井ディレクターは、岸信介氏が1948年12月に巣鴨プリズンから釈放されてから53年4月に政界復帰するまでの期間、故郷・山口県田布施町に隠遁していた当時の後援会小冊子に岸発言が収録されていることを発掘、単行本化するに当たって同書にこう紹介している。
 「憲法は云ふまでもなく独立国の拠つて以て立つ根本法である。
 現行の憲法が占領下に於て時の占領軍の最高司令官から押し付けられたものであり、原文が英語で書かれた翻訳憲法であることは今日では公知の事実である。
 斯くの如き憲法を持つて居る独立国は古今東西に其の例を見ざるところである。」(原文ママ)

 まさに岸信介氏は議席を得た後の54年3月、当時の自由党内に発足した憲法調査意会の初代会長に就任するはるか前から「現行憲法はマッカーサー=GHQの押し付け」という認識を抱いていたのだ。
 そして、安倍首相はそれを継承している。

 ところが、「安倍1強」の自民党内の保守派・改憲派から今回のバイデン発言に関してのコメントがまったく聞えてこない。
 繰り返すが、一体全体なぜなのか。

 その理由は一つしか考えられない。
 先の天皇陛下の「お気持ち」表明に込められた生前退位の問題が、事実上の政治イシューとなったからだ。

 首相官邸サイドは、9月下旬召集の臨時国会での改憲論議と皇室典範改正・生前退位問題の議論を分離して臨む腹積もりである。
 当面、日本国憲法の成立を巡る「神学論争」を避けたいというのが、安倍官邸の本音なのだろう。