2016年8月4日木曜日

中国の陸と海のシルクロード経済圏の布石:パキスタン・グワダル港湾運営権の戦略的重要性

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ダイヤモンドオンライン 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト] 2016年8月4日
http://diamond.jp/articles/-/97797

中国が確保したパキスタン港湾運営権の戦略的重要性



中国が海外の港湾に基地を作る作戦に力を入れている。
 そのなかの重要なプロジェクトはパキスタンのグワダル港の建設と運営権の確保だ。

 約700キロメートルに及ぶ海岸線をもつパキスタンには、カラチ港とグワダル港という2つの重要な軍港がある。
 カラチは東海岸でインド側にあり、グワダルは西海岸で中東の大国・イラン側にある。
★.グワダルはもともとパキスタン西部のバローチスターン州にある小さな漁村で、
 パキスタンとイランの国境まで約120キロメートル、
 南はインド洋のアラビア海に面し、
 ペルシャ湾の喉元に位置し、
 アフリカやヨーロッパから、紅海・ホルムズ海峡・ペルシャ湾を経て、東アジアや太平洋エリアに向かう海上の重要な航路を押さえる位置
にある。

 世界的に石油供給の主要な交通路であるホルムズ海峡までの距離は約400キロメートルしか離れていない。
 東アジア国家の中継貿易や中央アジアの内陸国家が海に出るための玄関口となることができる。その戦略的な価値は言うまでもないものだ。

 しかし、グワダル港は長年にわたってさまざまな国の手を転々としてきた。
 18世紀はオマーンの飛び地だったが、1958年にパキスタンに売却された。
 その後、もう少しでアメリカに持って行かれそうになったが、2007年にシンガポールの企業が港の管理権を取得、2012年にシンガポールが撤退した後、中国が運営する港となった。

■軌道に乗り始めた中国・パキスタン経済回廊

 グワダル港の委譲は中国・パキスタン経済回廊(CPEC)が「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」戦略のテンプレートとして軌道に乗り始めたことを意味している。

 グワダル港の完成と運営は、立ち後れたバローチスターン州、ひいてはパキスタン全体の経済発展を促すことになるだけでなく、アフガニスタン・ウズベキスタン・タジキスタンといった中央アジア内陸国家に最も近い海の玄関口ともなり、こうした国々とスリランカ・バングラデシュ・オマーン・アラブ首長国連邦・イラン・イラク、さらには中国の新疆など西部地区とを結ぶ海運任務を担い、積み替え・倉庫保管・輸送の海上中継拠点となる。
 さらに将来的には、グワダル港には近代的な海浜都市が誕生し、空港が作られて航空路線で各国とつながる。
 やがてグワダルは首都イスラマバードの半分ほどの規模となるだろうとまで予測されている。

 パキスタン政府の計画によれば、グワダル深水港工事は二期に分かれているという。
 第一期は総投資額2.48億ドルで、中国が1.98億ドルを出資する。
 主に、3つの多機能埠頭や全長4.35キロメートルの入港路など、港のインフラ建設に用いられる。

第二期は第一期よりさらに広範で、船舶の係留施設10ヵ所を建設し、うち3ヵ所はコンテナターミナルである。
 このほかタンカー用係留施設を2ヵ所建設し、うち1ヵ所は地下パイプラインとつながる製油所で、総投資額は5.24億ドルである。

■中国企業がシンガポールから運営権を引き継ぎ

 前述の通り、2013年にグワダル港の運営権はシンガポールから中国企業が引き継いだが、そのことによる影響は地域的なものにとどまらず、世界的なものとなる。

 中国国内のメディアの分析によれば、最も大きな影響を受ける国はインドである。
 パキスタンはこれまでずっとインド軍のアンテナから遠く離れた港の開発を切望してきた。
 中国政府もこれによってインド海軍の様子を観察する重要な拠点を得ることになる。

イランにとっては、自国の主要な港2つがライバルを迎えることとなるため深刻な事態である。
 中央アジアと世界市場とをつなぐ要として、イランはこれまでほぼ独占的な地位を占めていたが、グワダル港はこれに対する挑戦となる。

 アラブ首長国連邦もドバイ港の輸送業務がグワダル港に流れ、ビジネスの収益に影響することを心配している。

 アメリカが中東に配備している第5艦隊にとっても大きな脅威となる。
 グワダル港はホルムズ海峡に近く、中国政府はこの港によって極東やヨーロッパへの戦略石油貿易に脅威を与え、アメリカの戦略とエネルギー安全保障も影響を受けることになる。

■カシュガルが中国西部の世界的な物流センターに

 グワダル港の委譲は中国・パキスタン経済回廊が「一帯一路」戦略のテンプレートとして軌道に乗り始めたことを意味している
 もし中国がグワダル港に海軍基地でも建設すれば、中国のエネルギーや貿易の海上輸送上の安全は大幅にアップし、将来的に中国の遠洋艦隊がインド洋に入って国際水路の安全を守るのに大いに寄与することが可能となる。
 中国・パキスタン両国は中国西部に通じる陸上パイプラインをこの地に建設しようと考えている。
 そうなれば、中国にとっては中東から輸入する石油をマラッカ海峡を避けて運ぶ近道が増えることになり、中国のエネルギーの安全と安定を確保することができる。

 また、中国海軍がスエズ運河・地中海・アデン湾一帯での海賊討伐に加わる際に、グワダル港は大型艦隊に対して補給・修理を行う後方支援基地となる。
 さらに言うまでもなく、これによって中国の遠洋艦隊はインド洋やペルシャ湾を出入りするための拠点を得ることになる。

 その意味で同港は、中国の西に向けた戦略の方向性とその行方とは切っても切り離せない関係にある。
 パキスタンとイランを貫く鉄道大動脈を固めさえすれば、中国内陸部からヨーロッパやアフリカに輸送する貨物も、列車でまず上海に運んでから船で遠回りするのではなく、列車で直接グワダルまで運んで船に積み替えることができ、輸送距離を80%近く縮められる。

 中国・パキスタン経済回廊によって、新疆ウイグル自治区のカシュガルが中国内陸部と中央アジア・中東・ヨーロッパ・アフリカを結ぶ交通の要衝となった暁には、カシュガルは中国西部の世界的な物流センターとなる。
 将来的に中国には、「南部に香港、東部に上海、西部にカシュガル」と三者が鼎立する新たな経済の構図が形成されるだろう、と性急に将来の青写真を描く人も登場している。



ダイヤモンドオンライン 2016年9月1日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/100497

中国が着々と打つ陸と海のシルクロード経済圏の布石

今世紀に入ってから、中国企業は海外進出を「走出去戦略」と名づけ、規模を急速に拡大し始めた。
 その対象は必ずしも先進国だけではなく、市場規模が小さく、所得水準も低い地域や国々にも猛烈な勢いで進出している。

 その海外進出ブームが起こる中で、特に注目されたのがアラブ首長国連邦のドバイだった。

 ドバイは、中東のほぼ真ん中に位置し、フリーポートであることから交易の中心地として昔から栄えている。
 UAEは1980年代から、将来地下資源が枯渇した場合に備え、石油産業依存からの脱却を目指して、香港のように、中東における金融と流通および観光の一大拠点となるべく、ハードとソフト双方のインフラの充実に力を入れている。
 それが世界各国の大手企業から評価され、進出先として注目されるようになった。
 いつしか、ドバイは「中東の香港」とささやかれるまでに評価が高まった。

 このドバイの成功を見て、アメリカにより経済封鎖などを強いられたイランは1991年に、中国の経済特区のようなエリアを国内に作った。
 それはホルムズ海峡の北に位置し、ドバイとはペルシャ湾を隔てて約180kmという近さにあるケシュム島だ。



 ケシュム島は面積が1491平方kmで、イランないしペルシャ湾で最大の島として知られる。
 ケシュム島の他、キシュ島、チャーバハール港を含むエリアが自由貿易地区となっており、「イランの深セン」と呼ばれ始めた。

 走出去戦略が始まって早々の頃だった。
 取材活動を進めているうちに、「イランの深セン」と呼ばれる同島の存在を知った私は、飛行機でケシュム島に向かった。
 当時、すでに中国の大手家電メーカーだった「康佳集団」などの中国企業がUAEを拠点にして、イランなどに進出しており、ケシュム島では「康佳」の広告も見られた。

 島には、ペルシャ湾独特のスタイルの舟が、ドバイから仕入れた多くの商品を運んでくる。
 イラン本土と島は最も近いところで約2kmしか離れていない。
 これらの商品はイラン本土に渡り、やがて長い陸運を経て、首都テヘランの商店の店頭に飾られるのだ。

■15年ぶりに話題になった「イランの深セン」ケシュム島

 あれから15年近くの歳月が経った。
 しばらく前に、このケシュム島という地名がにわかにまた中国のメディアを賑わした。
 中国とイランがペルシャ湾南部の「ケシュム・オイルターミナル」を共同で建設することで新たな契約を結んだからだ。

 イランの国際ラジオ放送「pars today」の中国語サイトが6月12日に報じたところによると、契約金は5.5億ドルで、ケシュム島を湾岸地域の石油生産と石油製品貯蔵の重要な拠点に築く、という。

 イラン国営テレビもその日、このことを取り上げた。
 これによると、このプロジェクトの主な目的は、ケシュム島をイラン最大の石油生産・石油製品貯蔵の要衝とすることであり、全長140mのタンカーが収容でき、少なくとも3000万バレルの原油を貯蔵しておくことができる。
 プロジェクト第一段階が終了すると、1000万バレルの原油を貯蔵できるようになる。

 ケシュム島はバンダレ・アッバース付近の特殊な地域であり、ペルシャ湾を頻繁に往来するオイルタンカーが必ず通るルートにある。
 その意味では、この巨大なオイルターミナルの建設はイラン南部の発展のために重要な戦略的意味を持つ。

 このオイルターミナル建設によってイラン南部に発展するチャンスがもたらされる、とイラン産業界は受け止めている。
 ケシュム島のオイルターミナル建設によって、イランに期間を10年とするリース契約をもたらすことにもなる。

 イランのアラーク機械製作所のアミール・フセイン・リサイ会長は、石油タンクのリースによって、イランは毎年1.2億から1.5億ドル、最高で3億ドルもの収入を得られる、と述べている。

■中国が作り始めるというマレー半島を横断する運河

 先日、このコラムでも「中国が確保したパキスタン港湾運営権の戦略的重要性」と題して、中国は海上シルクロードの構築に合わせてエネルギーの安全保障のための基地を作り始めた、と取り上げている。

 そのパキスタンのグワダル港はイランに近く、インド洋のアラビア海に面し、ペルシャ湾の喉元に位置し、アフリカやヨーロッパから、紅海・ホルムズ海峡・ペルシャ湾を経て、東アジアや太平洋エリアに向かう海上の重要な航路を押さえる位置にある。

 さらに最近、中国がタイでマレー半島を横断する運河を建設しはじめるといったニュースが流れている。
 実際の進捗状況はまだ不明だが、この「クラ地峡運河プロジェクト」が注目を集めていることは事実だ。

 タイランド湾とアンダマン海に挟まれたマレー半島に、比較的細くなっている地域がある。
 人々はその一帯をクラ地峡と呼ぶ。このクラ地峡の最も狭い部分は44kmでしかない。
 海抜の最高地点も75mだ。
 ここに運河を作れば、マラッカ海峡を経由せずにヨーロッパ、中東、インドと太平洋を直接結びつけることができる。

 「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」戦略を展開させている中国にとっては、このクラ地峡運河の戦略的な価値は言うまでもないものだ。

 以上の事例などを見ると、中国がその陸と海のシルクロード経済圏の布石を打っていることは一目瞭然である。



Record china配信日時:2016年9月18日(日) 10時50分
http://www.recordchina.co.jp/a150635.html

中国とタイがマレー半島を横断する大運河建設?
タイ政府は否定―中国メディア



 2016年9月16日、環球網によると、中国メディア著名人代表団と会談したタイ外務省の報道官は、中国とタイが、マレー半島を横断しインド洋と南シナ海を結ぶ「クラ地峡運河」を建設するとの一部報道を否定した。

 同報道官は「両国政府はこの問題で話し合いを行ったことは一度もない」とし、
 「現時点での状況は、この構想に関心を持つ一部の民間企業が実地調査のために人員を派遣したというものだ。
 写真撮影を行ったのは政府関係者ではなく、企業が派遣した人員だ。
 両国政府が今後手掛ける可能性のあるプロジェクトだと誤解を招いたが、事実はそうではない」
と述べた。




● google画像から

【自ら孤立化を選ぶ中国の思惑】



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