2016年9月13日火曜日

中国のG20(2):中国は国際常識を わきまえた社会の一員になれるのか?

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ダイヤモンドオンライン  2016年9月13日  真壁昭夫 [信州大学教授]
http://diamond.jp/articles/-/101685

中国がG20でオバマ大統領に働いた「非礼」の裏側

■中国がホストを務めたG20
習近平国家主席は大成功と自画自賛

 9月5日、中国がホストを務めたG20の会合が閉幕した。
 首脳宣言の内容を見ると、保護主義への反対などが中心で目新しさは全く感じられない。

 一方、中国の習近平国家主席は、会合は大きな成功だったと自画自賛している。
 同主席にとって、今回のG20は、中国が国際社会の重要な一員であり、主要国をまとめるリーダーであると誇示する絶好の機会だった。
 その背景には、来年秋の中国共産党第19回全国代表大会(共産党大会)に向け、習近平が権力基盤の強化を狙っていることがある。
 2017年秋の共産党大会では、政治局常務委員(共産党の最高意思決定機関)のメンバー入れ替えが見込まれる。
 この大会は5年間の国家方針を決める場だ。
 それだけに、習近平が求心力を高めるための実績作りに勤しむのは当然だろう。

 リーダーぶりを誇示するためには、対中批判は抑えなければならない。
 そこで、中国はG20の議論を経済問題に集中した。
 わが国からは海洋進出への懸念が示されたが、それが他国に共有されることはなかった。
 確かに、中国にとっては、事前の想定通りにG20会合は進んだかもしれない。
 それによって、共産党指導部の実力を国内に喧伝することもできただろう。
 当面、習近平は自らの権力基盤を強化することができただろう。
 しかし、それは、習近平主席が自身の基盤強化を目的に行ったことで、国際社会のことを考えてのことではない。
 つまり、中国は今でも、「自国の事情」を優先せざるを得ないということだ。

 それでは、中国は、すぐに主要先進国の仲間に入ることはできない。
 今回のG20会議は、そうした中国の内情を世界に示す結果となった。
 「中国は意外にわかりやすい国だった」という印象を持った人は多かっただろう。

■「中国の威信」を内外に発信しようとの思惑

 浙江省杭州市で開催された20ヵ国・地域(G20)首脳会合に関して、
 中国はホスト国として国際社会を仕切り、成功を演出することに大きな意義を見出していた。
 習近平の指導力のもとで国際会議を成功させ、中国の威信を内外に発信しようとの思惑があったからだ。

 世界の首脳が集まる機会としては、主に二つの会議がある。
 G7とG20だ。
 G7は米英独仏日伊加の先進7ヵ国が参加し、約40年の伝統を誇る。
 一方、1999年から始まったG20には先進国に加えて中国やインドなどの新興国も参加する。
 特にリーマンショック後はG20の開催頻度も増えており、新興国各国から米国の経済政策やIMFの運営体制などに対する批判が繰り出されることも多い。

 G7に参加できない中国は、今回のG20で世界経済の今後を議論し、G7以上に重要な会合に仕立てたかったはずだ。
 それは、習近平の任期5年間で中国が米国と並ぶ世界のリーダーになったことを国内に示し、国内の権力基盤を強化するために必要と見たのだろう。
 そこで、重要なのがG20の議題だ。
 もし、会合の議論が政治や外交に向かえば、中国が進める南シナ海などでの海洋進出に対する批判が及ぶ。
 すでにハーグの仲裁裁判所が中国の南シナ海に対する歴史的領有権を否定したことからも中国は劣勢だ。
 中国は、事前にG20は経済問題を議論する場だと主張し、議題が南シナ海問題に向かわないよう細心の注意を払った。
 そして、想定通りに保護主義への反対、過剰生産能力の解消を首脳宣言に盛り込むことでG20の成功を演出した。

 そこには、中国が世界経済の中心の一つであり、世界経済の問題を解決できる存在であることを世界に示す考えがある。
 そうすることで、習近平は国民の支持を高め、権力基盤を固めようと考えた。

■G20で確認できたこと
米国に国際的な非礼を示した中国

 G20会合の一連の流れを見ていると、中国が「国際社会の常識」について、相反する二つの対応を行い、大きく揺れ動いていることがわかる。
★.一つは、「国際社会の常識」を受け入れざるを得なくなっている面だ。
★.そしてもう一つは、国内事情を優先して、「国際社会の常識」を無視している面
である。

 国際社会の常識を受け入れざるを得ない面は、5日の北朝鮮のミサイル発射に関する行動だ。
 これを受けて国連安全保障理事会(国連安保理)は緊急会合を開き、北朝鮮を非難し、自制を求める報道声明を出した。
 中国は国連安保理の常任理事国だ。
 そして、報道声明には全理事国の承認が不可欠である。
 今回、中国は表向きではあるにせよ、政治的なイデオロギーや軍事的な関係の強い北朝鮮に対して国際的な常識に則った、毅然とした対応を取った。

中国が国際社会での存在感を高めようとするほど、
 ある意味で中国は国際社会の常識を尊重せざるを得なくなる。
 中国が身勝手な言動を続ければ、世界各国からの批判は必至だ。
 そうした批判は中国の世論に影響し、共産党指導部の威信低下につながる可能性もある

一方、中国は、依然として常識を無視する国であることも分かった。
 それは、米オバマ大統領に対する非礼だ。
 各国首脳の訪問に際し、受け入れる国は赤じゅうたんを敷いたタラップを使い歓迎する。
 それが国際社会の常識だ。
 しか
 意図的な米国軽視である。
 しかも、その対応は米国からの要請に基づくものと中国政府の関係者は説明しているようだ。
 それを受け、多くの国が中国に対する認識を新たにしたのではないか。

 恐らく中国は米国を意図的に歓待しないことで、中国が米国よりも強い存在であると演出したかったのかもしれない。
 見方を変えれば、そうした稚拙かつ非礼な振る舞いによって威信を保たねばならないほど、中国共産党を取り巻く状況は不安定なのかもしれない。
 そうだとすると、中国の政治情勢は外から見ているほど盤石ではないのだろう。
 中国の本当の姿を推測できる材料を与えてくれた、今回のG20会議の意味はかなり大きかった。

■中国は「真の意味」での国際常識を
わきまえた国際社会の一員になれるか

 今後の焦点は、経済規模で世界第2位にまで上り詰めた中国が、真の意味での国際常識をわきまえた社会の一員になれるか否かだ
 国際司法判断の尊重、国際政治の常識を持つだけでなく、通貨安定、過剰な生産能力の削減を粛々と進められるかが問われる。
 それは口で言うほど簡単なことではない。
 過剰生産能力のリストラは、多くの失業者を生み社会不安につながる。
 その中で習近平は、来年の共産党大会を自身の権力基盤増強の足掛かりにしなければならない。

 どうしても、共産党指導部の視線は“中華思想”(漢民族の繁栄のために中国を中心に世界秩序が整備されるべきとの発想)を強調し、国威発揚を進めることに向かいやすい。

 中国が身勝手な行動を続ける以上、中国から距離を置く国は増えるだろう。
 実際、6月の訪中の折、中国と蜜月外交を展開してきたドイツのメルケル首相は、海洋進出や鉄鋼製品のダンピングに懸念を示した。
 親中政策を重視してきたドイツの方針は変化しつつある。

 中国の経済成長の恩恵を得ようとしてきた英国にも変化が表れている。
 メイ首相は中国企業が参加する原発建設計画には、安全保障上の懸念があるとして最終決定を延期した。
 この判断の背景には国家主権さえも無視し、自らの領土拡張を進める中国への不安があることは言うまでもない。

 当面、中国経済は不安定に推移するだろう。
 景気減速に直面する国内の不満を解消するため、これからも中国が身勝手な行動を続ければ、各国からの批判は強まる。
 その結果、中国は国際社会から孤立し、南シナ海での暴挙など誤った政策の限界に直面するはずだ。

中国経済の減速が続き、中国政府が国際常識を無視するほど、国際社会は中国への冷めた見方を強めるだろう。
 そうした行動様式がマイナス、いわば“損”であることに中国共産党は早く気づいたほうが得策だ。
 ただ、中国の国内事情が安定し、国際社会の常識を尊重するまでにはまだ時間がかかりそうだ。
 その間、中国の構造改革は進みづらく、南シナ海を取り巻く状況も不安定に推移しやすいだろう。

 今回のG20会議は、われわれに中国の生の姿を見せてくれた。
 わが国は主張すべきことは明確に国際世論に訴える、これまで以上に大人の対応が必要になる。



ダイヤモンドオンライン 2016年9月13日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/101682

中国がG20で見せた、世界で孤立したくないという本音

■杭州市民は1週間の有給休暇
念入りに準備された杭州サミット

  「杭州サミット期間は西湖の畔にもほとんど市民が見えなかったでしょう。
 杭州市民は約1週間の有給休暇をもらっていたの。
 杭州の戸籍を持っていれば、全国どこの観光スポットに行っても入場券が無料になるというサービス付きだった。
 ただ、ルックスが比較的良い市民、特に党や政府関係の職場で働いている人間は半ば強制的に西湖の畔を散歩するように命じられたわ。
 私もその一人」
 杭州市人民政府で働く女性幹部が私にこう語った。

 先週閉幕したG20杭州サミット。

 当局、もっと言えば、以前に浙江省杭州市で働いたことのある習近平国家主席は、古巣での国際会議を"成功"させるために、手段を選ばなかった。
 サミット開催の約1ヵ月前からあらゆる規制が展開された。

 杭州に向かうフライトの乗客には空港で特別なセキュリティチェックが課された。
 杭州に向かう高速鉄道の乗客には、出発地と現地双方でセキュリティチェックが課された。
 もちろん、サミット開催前後に観光客が入ることなど許されない。
 冒頭にあるように、杭州市民はサミット開催中、"不在"を奨励された。
 有給休暇、しかも全国どこのスポットに行っても無料という条件。
 多くの市民は喜んで故郷を出た。

 すべてはサミットの成功のためであった。
 セキュリティを強化しなければ、市民に地元から出てもらわなければ、あらゆる不確定要素が起こりうる。
 普段の杭州は渋滞が激しく、西湖の畔は地元住民や観光客だらけで、一種のカオスと化す傾向にあった。
 中国当局は特にテロリズムを警戒していたように見える。
 昨今、とりわけ“イスラム国”にまつわるテロリズムが中国国内に"侵入"することを、過去に例を見ないほどに恐れているのだ。

 本稿では、中国が杭州サミットを主催する過程と光景を眺めながら、
 私が感じた「中国共産党がいま目論んでいる世界、これから作ろうとしている秩序」を綴ってみたい。

 本連載の核心的テーマは中国民主化研究であるが、それを掘り起こしていく上で、中国共産党がいま何を考えていて、自らが望み、作ろうとする世界と、そのために開催する杭州サミットのような国際会議での出来事をレビューすることは、有益であると考える。

■世界経済の問題だけに絞り
政治的課題は会議から排除

私が感じたことは3つある。
 一つずつ見ていきたい。

★.一つは、中国共産党は、今回の杭州サミットを主催する過程で、あくまでも世界経済をどのように再建し、持続可能な発展を実現するかという1点を強調し、自らが望まないイシューを会議のアジェンダから排除しようとした点である。

 習近平国家主席は9月4日に行われた開会式で、次のように主張した。

  「現在、世界経済は総体的に復興の態勢にあるが、成長の動力は不足し、需給は不振であり、金融市場は繰り返し混乱し、国際貿易と投資は持続的に低迷するなど、多くのリスクとチャレンジが重なっている。
 国際社会は二十国集団に期待し、今回のサミットに厚い願望を抱いている。
 杭州サミットが世界経済に本質的な部分を治療し、総合的な施策を示せる処方箋を提起し、世界経済が強靭、持続可能で、バランスが取れていて、かつ包容的な成長の路を歩むことに寄与できることを祈っている」

  「G20サミットはそもそも世界経済を議論する場所である」という文言は、この期間中、中国の首脳や官製メディアが繰り返し強調してきたものであるが、良いか悪いかにかかわらず、それは中国当局が望むことであり、G20=世界経済は、必ずしもG20というメカニズムの公式にはなっていないように思える。
 そこにはやはり、主催国の政治的意志が如実に反映される傾向にある。

 中国が杭州サミットを主催するうえで「G20=世界経済」を公式化したかった意図はどこにあるのか。
 私から見て、いまだ未知数であり、復興と成長に陰りが見られる世界経済という分野においてこそ、中国が最も自ら進んで影響力を発揮したいと考えているということである。
 言い換えれば、中国は国際世論が「世界経済の復興とそのための新しい原動力を模索することが急務である。
 そのために、中国は重要な役割を担っている」という空気で覆われることを望んでいるということである。
 中国の南シナ海における拡張的行動・政策や、中国がいまだ政治体制やイデオロギーにおいて異次元にあることなどが、国際社会で議論される主要なアジェンダになることを望まないということである。

■中国が最も警戒していた
日本の安倍晋三首相

 その意味で、中国が杭州サミットを主催する上で最も警戒していた国家の指導者は日本の安倍晋三首相だったと言えるだろう。
 これまで随所において中国の南シナ海における行動や政策に対してクリティカルな主張をしてきた安倍首相が、G20杭州サミットの場においても、南シナ海問題と中国の行動・政策の問題性を会議のアジェンダとして提起することを中国は非常に警戒していた。

 「中日関係に関して言えば、近来、日本の対中政策において消極的な動向が見られる。
 特に南シナ海問題において、日本はこの地域の国家と国際社会の大多数のメンバーの意思を顧みず、意図的に煽ったりしている」
(8月23日、中国外交部定例記者会見における陸慷報道官の発言)

  「杭州サミット、および直後にラオスで行われたASEAN首脳会議において、
 南シナ海問題、特に仲裁判決の結果が主要なアジェンダに上がらず、共同声明にも明記されなかったことは、
 我々がそのために多くの仕事をしてきた成果だと言える」
(中国外交部幹部)

■中国側が避けたかった
「世界経済低迷の原因は中国」という世論

 世界経済を復興・再建させるための処方箋として、中国は何を考え、行おうとしているのだろうか。
 参考までに、習近平国家主席がサミットの開会式と閉会式で掲げた「G20として取り組むべきこと」を列記しておきたい。

 まずは開会式の5点である。

 (1):マクロ経済を巡る政策強調を強化し、力を合わせてグローバル経済の成長を促進し、金融の安定を守ること。
 (2):新たな発展の方法を創新し、成長のインセンティブを掘り起こすこと。
 (3):グローバル経済のガバナンスとそのためのメカニズムの保障を充実させること。
 (4):開放的な世界経済を建設し、貿易・投資の自由化と便利化を不断に充実させること。
 (5):2030年に向けた持続可能な発展アジェンダを実行に移し、包容的な成長を促進すること

 次に閉会式の9点である。

(1):平和で安定した国際環境を守ることは極めて重要である。
 (2):短期的なリスク防止と中長期的な潜在力の模索の両方が必要である。
 (3):世界経済を強靭な軌道に戻すことに自身を持って取り組む。
 (4):成長の方式を創新し、世界経済に新たな動力を注入する決心をする。
 (5):構造改革を促進し、グローバル経済・金融のガバナンスを充実させる。
 (6):脱税を取り締まる強度を高める。
 (7):グローバルエネルギーガバナンスの有効性を向上させる決心をする
 (8):国際貿易・投資をいま一度振興させる。
 (9):危機への対応から長期・有効的なガバナンスへとメカニズムを転換する。

 自らが主催したサミットで「世界経済」をグローバルアジェンダの核心に据え、そのための「中国薬方」(筆者注:"中国による処方箋")を注入しようとした習近平主席であるが、
 一方で、中国当局は「世界経済が低迷している大きな原因は中国にある」という世論が普及することも恐れている。
 今回議論になった過剰生産能力の問題に関して、それを「世界的課題」とした所以もそこにある。
 原因は中国だけにあるのではなく、世界各国、みんなで向き合い、解決していくべきものだという世論を作りたかった。

自らが嫌うトピックはアジェンダに入れない。
 自らが好むアジェンダでも、自らに責任が及ぶことは避けたい。
 でも国際的な影響力と発言権は高めたい。
 都合が良すぎるようにも聴こえるが、
 それが昨今の共産党政権が望む国際社会の動向であり、世論であると言える。

★.二つに、中国がG20という枠組みを国際社会がグローバルイシューを解決していく上で最も有効なプラットフォームに仕立てあげ、特に発展途上国の発言権を高める必要性を訴えようとした点である。

■最も多くの途上国をゲスト国家として招待
途上国・新興国への経済・金融外交を展開

 杭州サミットを通じて、習近平国家主席、政府高官、官製メディアらは、終始今回のサミットは過去で最も多くの途上国をゲスト国家として招待したことを強調していた。
 今回、G20以外のゲスト国家には、チャド、エジプト、カザフスタン、ラオス、セネガル、シンガポール、スペイン、タイの首脳が招かれた。

 習近平政権になって以来、中国が"一帯一路"やアジアインフラ投資銀行、シルクロード基金、BRICS開発銀行といったメカニズムを構築、特に途上国への投資や援助を強化する過程で、途上国の経済・社会的需要を満たし、それらの国家を引き連れる形で国際社会における発言権を強化しようとする傾向が顕著に見られるようになっている。
 今回の杭州サミットはそのための一つの"場"と言えるであろう。

 中国は特に、西側主要国から成るG7ではなくG20こそが真の国際世論であり、グローバルアジェンダを設定してためにふさわしい場所であることを訴えたかった。
 今年のG7会議は日本で行われたが、その外相会議の前夜(2016年4月8日)、中国の王毅外相は北京を訪れたドイツのシュタインマイヤー外相との会談で次のように語っている。

  「G20は世界における主要な先進国と途上国をカバーしている。
 メンバーの経済総量と貿易量は世界の80%以上を占める。
 他のメカニズムと比べて、G20は明らかにより大きな代表性を持っており、国際社会の普遍的な願望やコンセンサスを反映できる。
 G20は昨今のグローバル経済ガバナンス・協力にとって最も重要なプラットフォームとなっている」

 杭州サミットは閉幕したが、中国は引き続き、国内経済の再建や国内政治の矛盾で足踏みする西側諸国を横目に、一貫して経済やインフラ建設に悩む途上国・新興国への経済・金融外交を展開しつつ、それらの国家を引き連れ、政治的・外交的に中国を支持させるべく動いていくに違いない。

★.三つに、二つ目の延長線とも言えるが、今回のサミットを通じて、習近平国家主席、政府高官、官製メディアらは終始「包容」の二文字を強調し、国際社会・世論が中国の在り方ややり方に"包容的態度"を抱いてくれるようにアプローチした点である。

■世界からの孤立化を嫌い"外交努力"で補いたい中国

 本連載でも繰り返し提起・検証してきたポイントであるが、
 中国は、自らが政治体制やイデオロギー的に世界の主流・潮流とは異なる"異端児"であり、それが原因で"孤立化"することを極端に嫌っている。

 中国共産党にとっては、社会主義体制、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想などを堅持することこそが、共産党一党支配体制を死守することにつながるが、この内政的ロジックを外交の舞台で応用するためには、あらゆる施策が不可欠となる。
 私は常々思うが、
 中国という国家・社会が、自らが社会主義体制・共産党一党支配であるために外交的に失っている利益や信任は計り知れない。
中国共産党はそれらの損失を自らの“外交努力”を通じて補いたい。

そのためには、世界は多様的であり、異なる国家から構成されており、異なる政治体制、イデオロギー、成長モデルが尊重される世界であってこそ、グローバル・ガバナンスは最も効果的に機能し、結果的に社会は繁栄し、人々は豊かになり、世界は平和になる。」

そんな世論を作り上げることが、最も中国共産党の利益にかなう。少なくとも、党の上層部はそのような考えを抱いている。そう強く感じさせた杭州サミットであった。