2016年9月24日土曜日

北朝鮮というキッカケ(3):ほころびる中国の影響力、北朝鮮核ミサイルが北京に向けられる

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ニューズウイーク 2016年9月23日(金)09時00分 [北京/国連 16日 ロイター]
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/09/post-5875_2.php

北朝鮮対応に悩む中国、
「影響力は過大評価」の声も

 北朝鮮に対する新たな制裁決議について、他の国連安全保障理事会メンバーと協議を始めたものの、中国は同盟国の核・ミサイル実験強化にどう対処すべきか、頭を悩ませている。

 北朝鮮と長い陸続きの国境を分かち合う中国は、好戦的で孤立する北朝鮮に変化をもたらすことのできる実力を持つ唯一の国と見られている。
 だが中国政府は、制裁強化が北朝鮮内部の崩壊につながりかねないことを危惧している。
 また、地域の緊張を高めている責任は、米国とその同盟国である韓国にあるとも考えている。

 北朝鮮が5回目となる核実験を実施した後で、中国の北朝鮮に対する姿勢は変わったかとのロイターの質問に対し、
 中国指導部に近い関係筋は、中国は窮地に立たされている
と話す。

 「中国は、地域の核軍拡競争の引き金になりかねない核兵器開発を北朝鮮が行うことに断固反対している。
 その一方で、北朝鮮は大きな頭痛の種だが、政権交代は選択肢ではない。
 政権の崩壊は(中国)北東部に混乱をもたらすからだ」
と、この関係筋は匿名で語った。

 韓国政府の下で南北朝鮮が統一され、中国との国境沿いに米軍が足を踏み入れることは、中国政府にとってはまさに悪夢である。

 北朝鮮が崩壊し、大量の難民が比較的侵入しやすい国境を越えて、中国北東部の工業地帯に流入すれば、多大な経済的損失を被るだけでなく、中国政府の支配を大いに揺るがすことにもなる。

 このような懸念は今に始まったことではないが、中国は現在、米国が最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を韓国に配備する決定を下したことにひどく腹を立てており、自国の安全保障が危ぶまれていると主張している。
 また、北朝鮮の最近の好戦的な態度も、THAAD配備が原因だとしている。

 中国は、THAAD配備と北朝鮮に対する制裁を支持するかどうかの問題をはっきりと結び付けてはいない。
 北朝鮮が最近実施したミサイル・核実験を非難はするが、制裁だけで問題は解決できないとし、同国との協議再開を訴えている。

 中国はまた、北朝鮮による5回目の核実験に対する必要な反応は、国連の枠組みのなかで示すとしている。
 「国連安保理決議において交渉中だ」
と、パワー米国連大使は15日述べた。
 外交官らによれば、協議はまだ始まったばかりであり、交渉は長く、厳しいものになりそうだという。

■いら立ちと合意

 オバマ米大統領をはじめ世界各国の指導者が中国東部・杭州で開催された20カ国・地域(G20)首脳会議に集結している最中に、北朝鮮が中距離弾道ミサイル3発の発射実験を行っている。
 ある国連上級外交官によると、この実験後に召集された安保理会合で、中国は北朝鮮への不満をあらわにしたという。

 制裁についての見方は分かれているものの、
 「議論全体のトーンはまとまっていて、2つの陣営が互いに議論を闘わせているような感じではなかった」
と、この外交官は語った。

 米国は中国に対し、北朝鮮に核開発をやめるよう自国の影響力を行使し、制裁の「抜け穴」を封じるよう求めている。
 これまでの制裁はほとんど効果がなかった。

 中国社会科学院の研究員、Shen Wenhui氏は中国国営メディア「環球時報」に対し、壊滅的打撃を与えるような制裁は北朝鮮に「人道的危機」をもたらすと指摘。
 「北朝鮮への制裁において、国際社会は最大限可能な限り、一般市民に及ぶ影響を減らさなければならない」
と、同氏は記している。

 また中国当局者は、北朝鮮に対する中国の影響力を西側が過大評価していると言う。

 「北朝鮮に核兵器を放棄するよう求めても失敗するだろうし、
 韓国にTHAADを拒否するよう求めても失敗すると思う」
と、上海にある復旦大学で軍縮・地域安全保障プログラムのディレクターを務める沈丁立教授は語る。

 同教授は北朝鮮が中国にとって有益だとし、「米国に対抗するうえで、中国は北朝鮮を必要としている」と指摘する。

 一方、韓国では、北朝鮮に制裁を加えるのに中国はこれ以上何もしないだろうとの見方が一部で広がっている。

 「北朝鮮が耐えられないような制裁は、中国によって阻止されるだろう。
 北朝鮮からそうするよう頼まれなくてもだ」

 こう語るのは、かつて6カ国協議で韓国の首席代表を務めた千英宇・元大統領府外交安保首席秘書官だ。
 「故に北朝鮮はその陰に隠れ、核プログラムを気楽に推進しているのだ」

(Benjamin Kang Lim記者、Michelle Nichols記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)



JB Press 2016.9.23(金)  阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47948

北朝鮮は制御不能、米中のどちらが罪深いのか?
北朝鮮を「放置した」米国と「甘やかした」中国

 中国・杭州でG20首脳会議が開催されているさなかの9月5日、北朝鮮は「ノドン」と見られる中距離弾道ミサイル3発を日本海に向けて発射し、日本の排他的経済水域に着弾させた。

  そして4日後、建国68周年にあたる9月9日に北朝鮮は5回目となる核実験を実施した。

■米中が互いの“無策”を批判

 この北朝鮮による核実験が、米中の「責任のなすりつけ合い」という不毛なやり取りをひきおこした。
 9月10日、ノルウェーのオスロを訪問中のアシュトン・カーター米国防長官は記者会見で、
 「中国について特に指摘したい。これは中国の責任だ」
と述べた。

 「ウォール・ストリート・ジャーナル」(日本語版)は、カーター氏が
 「中国はこうした展開への重要な責任の一端を担っており、状況を転換させる重要な責任を負う。
 中国は地理的条件や歴史の裏打ちと影響力を、これまでのような方向ではなく、朝鮮半島の非核化を進めるために利用することが重要だ」
と述べたと伝えている。
 いわゆる「中国責任論」である。

 この発言に対する中国の反応は素早かった。
 中国外交部の華春瑩報道官は9月12日、
 北朝鮮の核問題を制裁だけで解決することは不可能だ
と述べ、一方的な措置では行き詰まりを迎えるだけとの見方を示した。
 同報道官は同じ日に北京で行った定例会見で、
 北朝鮮問題における最大の課題は中国ではなく米国の側にあると述べ、
 中国としては朝鮮半島における平和と安定を維持するため多大な努力を払っている
と言明した(「ロイター通信」日本語版)。

■経済制裁に効果はない?

 これまで国際社会は、国連安保理決議に従って、北朝鮮の核・ミサイル開発にストップをかけるべく経済制裁を課してきた。
 それをあざ笑うかのような北朝鮮の所業は、経済制裁が北朝鮮に対して有効な圧力になっていないことを露呈したことになる。
 そうだとすれば、現在進行形で議論されている国連決議に依拠した制裁も、また、日本や米国が独自の判断で課す制裁も、その効果はあったとしても限定的だろう。

 すでに北朝鮮が核弾頭の小型化の技術を手に入れ、ミサイルの弾頭に装填可能なレベルに達しているという可能性もある。
 だとすれば、事態はすでに経済制裁の有効性を議論することが虚しい状況に立ち至っていることになる。

 もし現状がもはや手遅れであり、北朝鮮の核ミサイルの脅威に対して、米国や日本が連携して進めている弾道ミサイル防衛で対処するのが、唯一現実的な対応であるとするなら、なんでこうなってしまったのかについて総括しておく必要があるだろう。

■何としても北朝鮮の崩壊を食い止めたい中国

 北朝鮮の核開発を阻止し、「朝鮮半島の非核化」を実現させることは、米中両国の共有する利益であったはずだ。
 しかし両国とも、実効性のある手は打ってこなかった。
  国家が核保有の意思を持ち、それに向けて邁進した場合、有効にストップをかけることは難しい。
 今回、北朝鮮の核実験によって、そのことが改めて確認された。

 振り返れば1998年には、核拡散防止条約に基づく国際的な取り決めの枠組みを無視して、インドとパキスタンが核実験を行った。
 今回も、国際社会の働きかけ、すなわち6カ国協議のような説得枠組みや、その後の経済制裁をもってしても、北朝鮮に核開発を踏みとどまらせることはできなかった。

 一方で米国は、1970年代の韓国や台湾における核武装の企てに対しては、未然にそれを防ぐことに成功している。
 また、核保有の放棄を行った国としてリビア、南アフリカのケースがある。
 だが、これらは北朝鮮に当てはめることはできないだろう。

 つまり、米国が核兵器拡散防止に成功してきたのは、「公然の秘密」とされるイスラエルの核保有を米国が事実上黙認してきたのを例外とすれば、同盟国の核武装を阻止するケースだけである。
 そうでない国の場合、その国の核保有の意志が堅固であれば、国際社会の反対を押し切ってでも核保有にたどり着けるのだ。
 その延長線上に今の北朝鮮がある。

■最終的な責任を取るのは米国か

 米国は北朝鮮との直接交渉を嫌い、結果として北朝鮮を放置してきた。
 一方、中国は北朝鮮の内部崩壊を防ぐために国際的な制裁を骨抜きにしてきた。
 その結果として北朝鮮の核開発の進展、弾道ミサイル技術の向上という現実に直面するに至った。

  中国は極論すれば、北朝鮮を甘やかしてきたのである。
 その結果が在韓米軍基地への終末高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の展開であり、それを構成するXバンドレーダーで北京を含む中国東部の軍事活動が筒抜けになる状況を生んでしまった。
 日米韓の軍事協力関係の強化も想定外であろう。

  だからといって、中国が北朝鮮への圧力を強めることはありえないだろう。
 北朝鮮の核ミサイルが北京に向けられるからである。
 もはや中国に打つ手はない。
 いまさら「6者協議」が有効とも思えない。

 では、米国はどうするか。
 これまで通り、軍事圧力で威圧し続けるのか。
 しかし近い将来、北朝鮮が米国本土を射程に収める弾道ミサイルを実現する可能性が高いことは否定できない。
 そうなってから北朝鮮が望む米国との直接交渉に応じるのではあまりにも情けない。
 日本や韓国など東アジアの同盟国に米国が提供する「拡大抑止」に疑念が生じる前に、たとえ大いに不本意ではあっても、米国としては北朝鮮との直接交渉の可能性を探るべきだろう。

  打つ手がある分、米国は中国よりましなのかもしれない。
 これを言い換えると、
 「最終的な責任は米国が取らざるをえないことになる」
ということなのだろう。




●ビートたけしのTVタックル 10月16日
2016/10/15 に公開

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