2016年9月28日水曜日

香港の抵抗運動に手を焼く中国(3):中国にからめ取られる香港 静かに進む「統合」

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 中国の香港収奪が終われば、香港は姿を消す。
 それまでの命である。
 代わって上海がその任を引き継ぐ。
 中国政府はその方向で香港を収奪している。
 そのことは香港人の誰もが知っている。
 1997年の返還のとき、欲に目がくらんで香港に残った人も多い。
 今回は2回目のチャンスである。
 次はない。
 移住できる人は移住すべきである。


ウオールストリートジャーナル 2016 年 9 月 28 日 16:28 JST
By NED LEVIN AND CHESTER YUNG
 http://jp.wsj.com/articles/SB10327460236075474355904581211572676634428

中国にからめ取られる香港 静かに進む「統合」


●香港の自治は中国への返還後も50年間は守られるはずだった。だが今、それが前倒しで進んでいる ENLARGE

 【香港】香港を中国に統合するという話は1980年代に香港の返還を巡って英国と中国が協議した際に決められたことだった。
 期限は2047年とされた。

 だが今、それが前倒しで進んでいる。
 香港は共産党が統治する中国と異なり、自由貿易と信頼できる司法制度の「前哨地」としての位置づけが長かった。
 しかし現在、中国本土のイメージに合わせるよう求める中国政府と地元の指導者たちからの強まる圧力にさらされている。
 1997年の返還後も半世紀は高度な自治を維持できると中国が約束したにもかかわらずだ。

 香港の議員や出版社、ジャーナリストたちは表現の自由が制限されつつあると指摘する。
 今月行われた香港立法会(議会)の選挙では、中国からの独立を提言したことを理由に出馬が認められなかった候補者も複数いた。
 香港当局は教育機関に対し、独立に関心を向けるような指導を行わないよう警告を発した。

 経済大国・中国に対する香港の依存度はかつてないほど高まっている。
 中国本土の巨大企業や国有企業は香港の資産を買いあさっており、その中には主要英字新聞や高級不動産が含まれる。

 多額の費用を投じて建設される珠江デルタの橋や、香港と本土を結ぶ高速鉄道を含む公共インフラの新プロジェクトは、中国南部と香港との物理的な連結をこれまでにないほど強く約束するものだ。

 立法会の70人の議員のうち半数近くは親中派や企業の利害を代表する選挙区に割り当てられている。
 立法会への出馬が認められなかったヨン・ケチャン氏(35)は「香港の住民の多くは、法規制や言論の自由という点で本土の人たちよりも優れているという感覚を以前はもっていた」としたうえで、「香港の住民たちは今、(中国の)2級市民のようだ」と話す。

 中国共産党で序列3位という立場にある張徳江氏は、香港には中国の他の都市では再現できない独特の優位性があるとし、独立を主張する「ごく一部の少数派」を非難した。

 香港をおとなしくさせておくことは習近平国家主席にとって大きな試練だ。
 習氏はこの数十年間で最大の権力を握る指導者であり、共産党内部からの反発に遭うなかで支配力の強化を図っているところだ。
 中国政府にしてみれば、中国は周辺からの脅威に直面している。中国の西端にある新疆ウイグル自治区の活動家、チベットの独立派、本土による包囲を警戒する台湾人などのことだ。
 独立へ向けて突き進むことを香港に許せば、厄介な前例を作ることになり、各地で自治や政治改革を求める動きが強まる可能性がある。
 ひいては共産党内部の反発勢力を勢いづかせることにもなりかねない。
 共産党は来年、指導部の刷新を控えており、習氏はそこでさらなる権力の強化を目論んでいる。

 中国は香港への圧力を強めていることを否定している。
 本土の政府関係者は香港返還後のいわば憲法である「基本法」と、本土とは異なる香港の暮らしを保証する「一国二制度」の原則を厳格に順守するよう繰り返し訴えている。

 中国政府の介入に対する懸念は、香港が世界の金融・商業・貿易の中心地のひとつとして存続可能かどうかが疑問視されているのと同じタイミングで浮上してきた。
 香港のコンテナ港はほんの10年前には世界で最も取扱貨物量の多い港湾だったが、昨年は世界5位に沈んだ。
 上海など中国本土の港の取扱量が拡大したためだ。
 HSBCホールディングスは今年、ロンドンの本社を香港に移転しないことを決めた。
 ロンドンのほうが人材が豊富であることと、国際的な名声がその理由だ。

 1980年代に英国と中国は香港の返還について協議し、外交と防衛は中国が実権を握る一方、返還後の50年間は香港が司法制度や独自通貨、社会政策を継続する権利を維持し続けることが決まった。

 ただ、返還50年後の2047年に正確に何が起こるのかは明文化されなかった。
 香港の住民の多くは時の流れとともに中国が民主化し、政治システムが香港のものと一体化していくことを期待した。
 だが、1989年に天安門広場で起こった抗議活動を中国が弾圧し、こうした希望は打ち砕かれた。

 一方、中国は香港を中国経済の軌道に近づけることで人々の賛同を得られると踏んでいた。
 香港企業を本土で優遇し、中国企業には香港への投資を促した。
 国民が大挙して香港へ旅行するのを許したことで香港のホテルや店舗は好景気に沸いた。
 中国は香港を人民元の国際的な取引の中心地にした。

 だが多くの面で、この戦略は裏目に出た。
 香港の中間層は本土から押し寄せる中国人に不満を抱くようになった。
 不動産価格が押し上げられ、香港の住民は自分たちが閉め出されると懸念するようにもなった。
 観光業が活況を呈する中、住民たちの中には本土から来た人々を「バッタ」と呼び始める人も出てきた。
 群れを成して街を歩き、リソースを食い尽くすというわけだ。

 中国の政治学者によると、膨れ上がる反発に直面した中国は経済的な優遇策を小出しにする時期は終わり、より目に見える形で香港に関わりを持たねばならないと決意したという。

 香港科技大学の社会科学者、丁学良氏は
 「(中国は)たくさんのアメとたくさんの砂糖をくれた」
とし、
 「ついに(彼らは)たくさん与えすぎたと気づいたが、ものごとはまだ解決していない。だからさらに強い策を講じなければならない」
と話した。

 中国は2014年に香港の自治権の制限を強調した政策文書を発行した。
 本土の政府幹部が主催した深センの会合に香港の議員を呼びつけて、政治システムに関する話し合いも行った。
 同年に発生した大規模な抗議活動の最中は、深センが司令センターとなった。センターを運営したのは本土の治安当局や政府関係者だ。

 丁氏は、中国政府が香港の住民たちの動きを監視するために、香港で10万人超の手助け要員を雇っているのではないかと推測する。

 香港との事務連絡を担う中国政府の出先機関の関係者はコメントを拒否した。

 香港記者協会によると、中国政府や本土の企業は今や香港の主要報道機関26社のうち8社を直接支配しているか、もしくは株を保有している。
 報道の自由が一貫して衰えているのはそのためだと同協会は指摘する。

 香港で発行されている日刊英字紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(南華早報)」を昨年買収したのは中国の電子商取引大手、阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング)だ。
 同社の蔡崇信(ジョセフ・ツァイ)副会長はポスト紙の編集方針の独立を尊重すると述べている。

 蔡副会長は香港のニュースサイトとのインタビューで、中国に関する報道は「完全でもなければ、健全でもない」と述べ、その理由として新聞が「欧米諸国のアングル」で報道する傾向にあるからだとした。
 ポスト紙は「別のアングル」を示すとも述べた。

 通信大手の中国移動(チャイナモバイル)やインターネットサービス大手の騰訊控股(テンセントホールディングス)といった中国企業が今や、香港株式市場のハンセン指数を支配するようになっている。
 香港返還時に時価総額で上位10位を占めていた企業はほぼ全てがHSBCのような英国系の老舗企業や、地元の大物が所有するコングロマリット(複合企業)だった。

 中国のデベロッパーはその多くが政府の後ろ盾を得ており、香港政府が定期的に売り出す公有地を購入する際には香港の同業者を上回る入札額を提示する。
 一例を挙げると、中国の鉱業企業、中国五鉱集団傘下の1社が九龍地区のウォーターフロントにある1万0530平方メートルの区画を高級物件用に購入した際、40億香港ドル(約518億円)の値を付けた。
 これは市場予想をはるかに上回る金額だ。

 香港の大学に在籍している本土の中国人学生は現在、12%を占めている。
 1996-97年度は1%未満だった。

 香港の教育当局は8月、中等教育機関の教員が香港の独立を提唱すれば、免許はく奪の憂き目に遭う可能性があるとした。
 香港の梁振英行政長官は10代の若者が抱く独立への関心を、不法薬物の使用になぞらえた。

 香港の新議員の多くは反発している。

 立法会議員として新たに選出された游蕙禎氏(25)は
 「われわれ香港の住民は自分自身の将来を決める機会を握っている必要がある」
とし、この緊張状態は目先、解消される公算が小さいことを示唆した。
 「自己決定権はわれわれが本来持っている権利だ」






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