2016年9月6日火曜日

中国アジア大侵攻(1):行き当たりばったりに迷走する中国外交の行方

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日本テレビ系(NNN) 9月6日(火)11時5分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20160906-00000026-nnn-int

中国“海洋進出”の実態…真の狙いは?



違法中国漁船の内部に潜入すると、辺境の島に軍人が…。
中国行動激化、違法漁船取り締まりを妨害、真の狙いは?
(詳しくは動画で)



デイリー新潮 9月2日(金)12時30分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160902-00512028-shincho-cn


●参考資料:[出典]防衛省のレポート「南シナ海における中国の活動」(2015年5月29日)

「尖閣諸島を手放せ」という人が知らない現代中国の「侵略の歴史」

■「尖閣は要らない」と言った元参議院議員

  尖閣諸島周辺や南シナ海での乱暴狼藉を見て、日本国内において中国への危機感を強める人が増えているが、一方で、不思議なほど中国への警戒心がない人もいる。
 8月29日に放送された『橋下×羽鳥の番組』(テレビ朝日系)では、元参議院議員の田嶋陽子氏が「尖閣諸島は一度手放して中国に渡すべき」という大胆な持論を述べた。

 この発言に対して放送直後からネットでは議論が沸き起こったが、こうした意見は田島氏の専売特許ではない。
 「友好の妨げになるくらいならば、あげてしまえばいい」
という類のアイデアは、主に左派とされる人の口から出てくることが多い。
 こうした人たちは「それで揉め事がなくなって、友好関係が保てるのならばいいじゃないか」と考えているのだろうが、果たして中国に対してそのような善意は通用するのだろうか。そのように心を許しても大丈夫なのだろうか。

 それを考えるうえで重要なのは、過去の歴史を学ぶことだろう。
 公文書研究の第一人者である有馬哲夫早稲田大学教授は、新刊『歴史問題の正解』の中で、「現代中国の歴史は侵略の歴史である」と題した章を設け、戦後間もない頃の中国の「侵略」の姿をわかりやすくまとめている。
 以下、同書から引用してみよう。

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●自虐にも自賛にも陥らず、中国、韓国、ロシアのプロパガンダや、アメリカの洗脳教育を排し、冷静に歴史を見つめ直す、日本国民必読の書。『歴史問題の正解』有馬哲夫[著]

■中国のアジア大侵攻

 意外なことに、中国のアジア各地での拡張主義的動きは、朝鮮戦争と時期が重なる。
 筆者は朝鮮半島に約30万の軍隊を送った中国は、この戦争にかかりっきりだったと思い込んでいたが、実際はまったく違っていた。
 中国は朝鮮戦争とほぼ同時進行で、ヴェトナム北部に大軍を送り、ミャンマー(当時はビルマ、以下同)北部・タイ・ラオス・中国南部の国境地帯で領土拡張の浸透作戦を行い、台湾に侵攻するための艦船の供与をソ連に求めていた。
 しかも、前年の1949年にはすでにチベット東部を侵略していて、朝鮮戦争のさなかにも中央チベットまで侵攻し、チベット征服を完成させているのだ。

 まさしく貪欲そのものだ。

 こういった中国の侵略的動きの全体を眺めてみると、朝鮮戦争への中国の参戦がこれまでとは違ったものに見えてくる。
 つまり、この参戦は、自衛というよりは、中国が周辺諸国に対して起こしていた一連の拡張主義的動きの一部だったと見ることができるということだ。

 事実この戦争のあと、中国はソ連に代わって北朝鮮の宗主国となる。
 その後、中国はさらにヴェトナム、ラオス、ミャンマー、タイ、インドへとターゲットを変えつつ、侵略的動きを継続させていく。
 近年の西沙諸島や南沙諸島の島々の強奪、そして尖閣諸島への攻勢は、この延長線上にあるのだ。

 まず、中国の拡張主義的動きがどのような背景から起こったのかを知る必要がある。
 以下の本国(アメリカ)の国務省―アメリカ極東軍司令部(東京)間の1950年1月24日の電報はこれを明らかにしてくれる。

「(前略)中国の勢力圏のなかにおいては、ソ連はチベットを含む戦争において(中国に)特別な権利を認めることになっている。
熱烈な親ソ派は、共産主義拡大のためには国境線など忘れるべきだとする。
共産主義のために中国が提供すべきとされる兵力は500万に引き上げられた。
30万人の中国人労働者がすでに満州からシベリアに送られており、さらに70万人が6ヶ月のうちに華北から送られることになっている。
中国のあらゆる施設と炭鉱にソ連の技術者が受け入れられることになっている。
ソ連式の集団的・機械的農業を夢見る熱烈な親ソ派は、農民がいなくなった耕作地と残された人々の飢餓を平然と眺めている。(後略)」

■自国民を「シベリア送り」に! 

 ここでは中国とソ連の間の密約が明らかにされている。
 つまり、中国は共産圏拡大のために500万人までの兵力を提供することを約束し、満州と華北から100万人の労働者をシベリアに送ることにしている。
 それと引き換えに、中国の鉱山や施設にソ連の技術者を送ってもらい、領土を拡張することをソ連に認めてもらっている。

 満州と華北の人民といえば、軍閥同士の覇権争い、日中戦争、ソ連軍の侵攻、国共内戦によって多大の被害を被った人々だ。
 新生中国は、よりによって、もっとも戦禍に苦しんだ同胞をシベリア送りにし、その代わりとして、ソ連の技術者を派遣してもらい、隣国を侵略する権利をソ連から得たのだ。

 しかも、特に熱烈な親ソ派は、大動員の結果として広大な耕作放棄地が生じても、あとに残された人々が飢餓に苦しんでも、平然としているという。
 ソ連式の集団的・機械的農業が導入できるというので、このような事態を歓迎しているようだ。
 朝鮮戦争に駆り出されたのもこの地域の住民だったのではないだろうか。
 「中華人民共和国」といいながら、中国共産党幹部は人民の生活と生命をないがしろにしている。

***

 「歴史に学べ」といった主張は、左派、右派双方から唱えられているが、冷静に事実を見れば、大日本帝国の「侵略」によって平和が侵され、甚大な被害を受けたはずの中国が、その戦争からほんの数年で、アジア各地を侵略していただけではなく、100万人もの自国民をシベリア送りにしていたということになる。

 「尖閣諸島なんか手放せ」という人たちは、この中国と現在の中国はまったく別の性質を持つ国家だと思っているのかもしれない。
 しかし、その根拠はどこにあるのだろうか。



ニューズウイーク 2016年9月6日(火)17時00分 楊海英(本誌コラムニスト)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/09/post-5785_1.php

中国経済圏構想を脅かすモンゴルとバチカンの関係

<モンゴル遊牧民へのカトリック浸透が民族運動に火を付ける? 
アジアとヨーロッパを結ぶ習政権の野心的な経済圏構想「一帯一路」を脅かす、「大モンゴル国再建」の思想とは>

 「一帯一路」で世界をつなぐ、と中国の習近平(シー・チンピン)政権は標榜している。
 陸路と海路とでアジアとヨーロッパとを結ぶという野心的な経済圏構想のことだ。
 一方、国内のモンゴル人とヨーロッパとの東西交流は阻止。
 内モンゴル自治区西南部のオルドスに住む約3000人のモンゴル人カトリック教徒はバチカンによる後継司教の任命を待ち望んでいるが、果たせないままでいる。

 モンゴルとキリスト教世界との交流の歴史は古い。
 13世紀にモンゴル帝国軍が西進したとき、西洋は「東方から伝説のキリスト教王がイスラム教徒を征服に現れた」と期待した。
 この勘違いには根拠がある。
 チンギス・ハンが征服した草原の遊牧民の中には古代キリスト教の一派を奉じる王と配下の者たちがいた。

 やがてモンゴル帝国により、ユーラシア全体が「一帯一路」を凌駕する巨大な海と陸の交易網で結び付けられた。
 ローマ教皇(法王)は伝道者を元朝に派遣し、帝国内の古代キリスト教徒をカトリックに改宗させた。

 帝国崩壊で交流は断絶したが、転機は19世紀後半に訪れる。
 ベルギーのカトリック修道会、聖母聖心会の宣教師らが清朝支配下のオルドスで「忘れられた信徒」に遭遇。宣教師らは見事にこの地で信仰を復活させた。

■「大モンゴル国」への恐れ

 ところが、中国共産党が1949年にオルドスを占領すると、信教の自由を奪い、やがて宣教師を国外に追放した。
 宗教は「人民に害毒を与えるアヘン」で、宣教師は「西洋列強による侵略の先兵」と断じられた。

 現在、オルドスに住むテグスビリクは聖母聖心会が任命した最初のモンゴル人司教で、今年97歳。
 中華民国時代に北京で創立されたカトリック系の名門・輔仁大学を卒業。
 ラテン語とギリシャ語などヨーロッパ系の諸言語に精通し、日本語も操る。

 中国共産党によって10年間投獄された後、1980年代から宗教活動を再開したが、中国政府による弾圧に直面してきた。
 彼が再建した教会は何回も政府によって破壊され、その都度、信者らの手で建て直されてきた。

 対照的なのはモンゴル国だ。
 バチカンはこのほど若いモンゴル人、エンヘバータルを同国の司教に任命した。
 冷戦崩壊後に社会主義を放棄して自由主義陣営に加わったばかりのモンゴルは、1992年にバチカンと国交を樹立。
 以来、各派の宣教師たちは草原の遊牧民の国に殺到。
 今では300万人の国民のうち、クリスチャンは5%を占めるとの説もある。

 同国の布教活動の先頭にあるのも聖母聖心会だ。
 エンヘバータル司教は各国から集まった宣教師20人と修道女50数人を統率して布教に携わることになる。
 首都ウランバートルは現在、「同国初のモンゴル人司教誕生」の歓喜に包まれている。

 聖母聖心会は民族の枠を超えて布教している。
 オルドスから万里の長城を隔てて南にある、陝西省と山西省に住む中国人(漢民族)社会にもクリスチャンのコミュニティーが誕生した。
 ベルギーからの聖母聖心会関係者は両省の中国人クリスチャン地域訪問が許可されているが、オルドスには一歩も踏み入れることができない。
 オルドスの信徒たちはテグスビリクに続くバチカンからの司教任命を待っているが、中国政府によって福音は遮断されたままだ。

【参考記事】中国を捨てて、いざ「イスラム国」へ

 世界に信者の網を広げるバチカン同様、モンゴルも遊牧民特有の広大なネットワークを持つ。
 独立国家モンゴルと中国支配下の内モンゴル自治区だけでなく、ロシア国内にもカスピ海北西岸とシベリア東部にモンゴル人の自治共和国がある。

 モンゴル人と西洋との交流を容認すれば、北京のコントロールを超えて人的、物的交流が進み、ユーラシアを横断した「大モンゴル国再建の思想」がよみがえる恐れがある、と習政権は危惧する。
 少数民族の分離活動は一党独裁体制を脅かし、中国の崩壊を引き起こしかねない。

 中国がこうした東西のつながりを断ち切ろうとしている限り、「一帯一路」は掛け声倒れに終わるのではないだろうか。

[2016年9月 6日号掲載]



朝日新聞デジタル 9月7日(水)15時27分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160907-00010003-asahit-cn

牙をむいた巨竜 
中国に日本はどう向き合うべきか

■「ひるむことなく、南シナ海の計画を続行せよ」

 残暑厳しい今の時節に、冬の話から始めて恐縮だが、話の流れがそこから始まるので、ご容赦願いたい。
 昨年末の北京は、ひときわ寒い冬で、しかも大気汚染がピークに達し、PM2・5の数値は2000を突破した(日本の環境省は「35以上で危険」と定めている)。
 そんな昨年末のある日、習近平主席は、1980年代の福建省時代からの「盟友」である呉勝利海軍司令員らから、南シナ海の「開発」に関する報告を受けて、ご満悦の様子で述べたという。
 「来年(2016年)もひるむことなく、南シナ海の計画を続行するのだ。
 21世紀の戦争は、『陸海空電天』5軍の総合戦だ。
 陸海空でアメリカ軍と対等に立ち、『電』(サイバー戦)と『天』(ロケット戦)では、アメリカ軍を超えるよう努力奮闘せよ」

 南シナ海における中国の主張は、一般に「九段線」と言われている。
 南シナ海の周囲に9本の線を引いて、全体の約9割を覆う領海で、領有権を主張している。
 だが実際に、中国人民解放軍が南シナ海で欲しているのは、西沙諸島(パラセル諸島)、南沙諸島(スプラトリー諸島)、黄岩島(スカボロー礁)を結ぶ「三角線」である。

 まず西沙諸島は、日本の敗戦後にその大部分を中国が実効支配したが、1974年にベトナムから西部の永楽環礁(クレスセント諸島)を奪い取って、全体を実効支配するに至った。
 すでに軍事用飛行場、軍事レーダー、ミサイル配備という軍事要塞化を終えている。
 次に南沙諸島は、最大の島である太平島こそ台湾(中華民国)の支配下にあるが、1988年にベトナムとの海戦に勝利した中国が、多くの島礁を実効支配している。
 習近平政権になった2013年からは、軍事要塞(ようさい)化を加速させた。
 「2017年1月に『中国の天敵』ヒラリー・クリントン政権が誕生するまでに、南シナ海の事業を完遂させる」
――これが習近平政権の目標だ。

 残りは、中沙諸島の黄岩島(スカボロー礁)である。
 ここは2012年4月にフィリピンから奪還した。
 当時、私は北京に住んでいたが、南方の小島一つを奪い取ったことで、全国民が熱狂していた。
 ちなみにその5カ月後には、日本が尖閣諸島を国有化したことで、今度は小島のことで全国民が激高した。

■二つのやっかいな事態

 黄岩島とその周辺でも、習近平政権になってから、着々と軍事要塞化を進めてきたが、やっかいな事態が二つ起こった。

★.一つは、1991年にフィリピンが追い出したはずのアメリカ軍が、再びフィリピンに戻ってきたことだ。
 黄岩島は、フィリピンのスービック基地から、わずか200キロしか離れていない。

★.もう一つは2013年1月に、フィリピンが「南シナ海における中国の主張は国際法上の根拠がない」として、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴したことだ。
 これによって南シナ海の領有権問題は、中国vsフィリピン、中国vsベトナムといった二国間の争いから、国際問題へと広がった。

 中国軍の目的は、この西沙-南沙-中沙(黄岩島)の「三角線」を確保し、そこに防空識別圏を設定することにある。
 そして、海南島南端にある三亜軍港に控えた4隻の「晋級」核搭載原子力潜水艦を「三角線」の中に潜り込ませるのだ。
 現在、中国大陸に配備しているアメリカ本土へ向けた約40基のICBM(大陸間弾道弾)は、有事の際にはアメリカ軍の先制攻撃を受けることが予想される。
 だが水深3000メートルもある南シナ海から発射される長距離ミサイルは、世界最強のアメリカ軍といえども防ぎようがない。
 つまり米中は初めて、対等の核抑止力を有することになるのだ。

■人民解放軍改革を断行した習近平主席

 2016年2月1日、春節(旧正月)の直前に、習近平主席は、過去半世紀で最大規模の人民解放軍改革を断行した。
 この改革を経て、「軍命」を発するのは、習近平主席ただ一人となった。
 「200万人民解放軍を自分の軍に変える」
――長年抱いてきた夢を、ついにかなえたのだった。

 1979年に習近平が26歳で清華大学を卒業した時、父・習仲勲元副首相は息子に訓示を垂れた。
 「人民解放軍こそが党と国家の支えであり、生涯を軍とともに歩め!」
 そして息子を、国防部長(国防相)の秘書につけた。
 以後、習近平は、軍最高司令官である中央軍事委員会主席を兼職するようになった現在まで、一貫して軍職を兼務してきた。
 現役の中国の政治家で、ここまで軍職にこだわってきたのは、習近平ただ一人だ。

 この2月の軍改革を断行するまで、人民解放軍には、習近平主席に面従腹背の江沢民グループが存在したが、軍改革によって、ほぼ一掃した。
 かつ「最後の残党」とも言えた田修思上将を7月5日に失脚させたことで、習近平主席の軍掌握に拍車がかかった。
 いまや人民解放軍は「習近平の軍隊となった」と見るべきである。

■内なる戦いと外なる戦い

 こうして「自己の軍隊」を造り上げたことで、習近平主席は、内外に攻勢に出ることが可能になった。

★.まず内なる戦いは、2017年秋の第19回中国共産党大会までに、自己の専制体制を確立することだ。
 習近平主席は4月24日から27日まで安徽省を視察し、かつての毛沢東主席を髣髴(ほうふつ)させる自己の偶像崇拝化運動を始めた。
 今年秋に「6中全会」(中国共産党第18期中央委員会第6回全体会議)を開いて、党内の引き締めを図る。
 そして来年の党大会に向けて、一気に全権掌握を図っていく。
 そのために人民解放軍は、最大のバックボーンになるというわけだ。

★.もう一つの外なる戦いとは、アメリカとの「第一列島線」を巡る角逐である。
 「第一列島線」とは、カムチャツカ半島、日本列島、朝鮮半島、台湾、フィリピン、大スンダ列島と続く南北ラインのことだ。
 19世紀にアヘン戦争と日清戦争でこのラインを列強に破られたことから、中国は「屈辱の百年」を強いられた。
 そして20世紀後半から現在までは、このラインをアメリカが支配している。
 だからいまこそ、アメリカ軍を「第一列島線」から押し出す。
 それによって、アジアに「パックス・チャイナ」(中華帝国のもとでの平和)を築くというのが、習近平主席の意志なのである。

■「アジアのルールはオレが決める」

 2016年夏現在、「第一列島線」を巡る米中の戦線は、3カ所に拡大している。
 南シナ海、東シナ海、そして朝鮮半島だ。
 まず南シナ海に関しては、カーター国防長官率いるペンタゴン(米国防総省)が、中国に対する危機感を強めている。
 黄岩島を中国に軍事要塞化されたら万事休すなので、空母「ジョン・C・ステニス」をフィリピン近海に釘付けにするなどして、対抗心を露(あら)わにしている。

 また7月12日、常設仲裁裁判所が、フィリピンにとって(同時に日米にとって)「満額回答」とも言える判決を下した。
 これは習近平政権から見たら受け入れがたい判決で、中国国内では日米による陰謀説が飛び交った。
 重ねて言うが、習近平主席が目指しているのは、「パックス・チャイナ」である。
 それは、中国という宗主国と周辺の属国(朝貢国)からなる古代の冊封体制に、アジアの姿を戻すことである。
 列強に攻め入られた1840年のアヘン戦争の前の姿に戻すことである。
 つまりは、1840年後に作られた国際ルールの否定である。

 早い話が、習近平主席は「アジアのルールはアジアの皇帝であるオレが決める」と言いたいのだ。
 だから常設仲裁裁判所の判決など、「一枚の紙くずにすぎない」(劉振民外務次官)。
 東シナ海に関しては6月9日深夜、ついに人民解放軍の艦艇が、尖閣諸島の接続水域に侵入した。
 このことは日本にとって、二つの重大な意味を持つ。

 一つは、人民解放軍による尖閣諸島奪取のシナリオが、「第4段階」(領有権の主張→漁船の侵入→公船の侵入→艦艇の侵入)まで来たことだ。
中国側からすれば、次は軍による尖閣奪取である。

 実際、中国は8月5日から9日にかけて、尖閣諸島近海に「猛襲」し、日本は震撼した。
 私は8月初旬から中旬にかけて北京を訪問したが、中国側の「空気」を読み解くと、次のようなことであったと推察される。

 1: 中国は、7月12日の常設裁判所の判決の「黒幕」は日本とアメリカだと思っている 
 2: このまま日本が、南シナ海の問題に関わってきたら、やっかいなことになる 
 3: 日本に「南シナ海問題に関わるな」という警告を発する意味で対日威嚇行動を実施する 
 4: そのため今回の行動は、日本に対する「反撃」であって、「挑発」ではない 
 5: 今回の行動は、8月半ばまでにいったん終える 
 6: 今回の行動は、近未来に釣魚島(尖閣諸島)を奪取するためのものでもあり、今後、日本の動きを見ながら常態化させていく

 従来の中国外交は、自国で重要な国際イベントを控えた時は、ひたすら周辺諸国との「微笑外交」に務める。
 一昨年11月の北京APEC(アジア太平洋経済協力会議)、昨年9月の抗日戦争勝利70周年軍事パレードの時も、同様だった。
 だが今回は、杭州G20開催の1カ月前というのに、あえて日本への「恫喝外交」に出たのである。
 それだけ南シナ海問題で、追い詰められていたとも言えるが、尖閣を「取りにくる一歩手前」まで来たとも言えるのである。

■人民解放軍はいつ決断するか

 それでは、人民解放軍はいつ尖閣奪取の決断を下すのか。
 私は、アメリカ軍が尖閣諸島を巡る日中戦争に加担しないと中国が確信を持つことが、その必要条件であると見ている(十分条件ではない)。
 ともあれ、「第一列島線」をめぐる米中の角逐の渦中に、日本もいよいよ巻き込まれる時代が到来したということだ。
 安倍晋三政権は、この3月に安全保障関連法を施行するなど、そのための布石は打ってきたが、8月上旬の中国漁船の襲来の時などは「戸惑い」を隠せなかったという。

 ところで、日本以上に、旗幟(きし)を鮮明にすることをアメリカから求められているのが、隣の韓国だ。
 7月8日、アメリカは韓国に圧力をかけて、ついにTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備を発表させた。
 これによって、3年以上にわたって続いてきた中韓蜜月時代は瓦解(がかい)した。
 9月の杭州G20での中韓首脳会談も、「韓国側からせっつかれているが、当の習近平が首を縦に振らないのでどうしようもない状態」(中国の外交関係者)だという。

 日本ではあまり話題にならなかったが、実は習近平主席は6月17日、セルビアを訪問し、ベオグラードの中国大使館前で誓いを立てている。
 「2度とアメリカの好き勝手にはさせない!」
 1999年5月7日、コソボ紛争でアメリカ軍に空爆された中国大使館は、29人もの死傷者を出した。
 セルビアを離れた習近平主席は、それから一週間のうちに、ウズベキスタンと北京で2度も「盟友」プーチン大統領と会談し、アメリカに対する「共闘」を確認しあったのだった。

 中国がいくら世界第二の軍事大国にのし上がったとはいえ、世界最大の軍事大国アメリカに対抗するのはハイリスクだと思うかもしれない。
 だが第一に、自国及び世界に武力展開しているアメリカ軍に対して、中国軍は中国近海に結集している。
第二に、中国近海の防衛は中国にとって核心的利益(国家の最優先事項)だが、アメリカにとってそうではない。
第三に、年間5000億ドル超の米中貿易を始め、アメリカ経済の少なからぬ部分を中国経済が支えている。

 これらの理由で、アメリカは中国と一戦を交える気はないと、習近平政権は判断している。
 だから多少、横暴な振る舞いをしても、痛い目には遭わないというわけだ。
 加えて、昨今の中東やヨーロッパの混乱も、アメリカが「アジアのことは中国に任せる」と言いやすい追い風と見ている。

 来年は5年に一度の中国共産党大会の年、すなわち中国が最も対外的に強硬に出る年である。
 前回2012年は、フィリピンからの黄岩島奪取と、日本の尖閣国有化への抗議で、騒然となった一年だった。

 またこのところの中国経済の悪化も、対外的に強硬になる要因となる。
 中国経済は、昨年は「V字型」(急回復)と言われたのが、
 今年前半は「L字型」(悪化しっぱなし)に変わり、
 いまや「h字型」(ドン底に落ちる)と言われている。



WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年09月15日(Thu)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7714

あらゆる正面で閉塞状態の中国

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■標的にされる豪州

 南シナ海とオリンピックという二つのことが相まって中国のナショナリズムの毒舌は豪州を標的にしている。
 南シナ海に対する中国の主張を否定した先月の国際仲裁裁判所の裁定が発端になった。
 豪州は日米と共に中国に対し裁定の尊重を求めた。
 中国は烈火の如く怒った。
 人民日報傘下の環球時報は豪州が南シナ海に入って来れば豪州は格好の攻撃目標になる等と主張している。
 オリンピック水泳競技も紛争の種になっている。豪
 州の選手が中国の選手を薬物使用者だと呼んだため、中国メディアは対豪批判を爆発させた。

 これは、中豪関係を超え、中国の台頭と西欧の間の緊張を示している。
 南シナ海と太平洋が競争の海域になれば、豪州は、中国がアジア太平洋を支配することを受け入れるのか、あるいは引き続き同盟国である米国の支配に賭けるのかという難しい選択に直面する。

 これまでは、安全保障上の懸念は経済上の利益に比べて重要性が少ないと考えられてきた。
 資源の対中輸出により豪州は20年以上、不況を回避することができた。
 しかし、経済関係でも問題が出てきた。
 今年に入って、豪州政府は中国企業によるSキッドマン社(豪州の国土の1%を所有する)の買収を阻止した。
 先週は2つの中国企業によるオースグリッド送電電力公社の買収を阻止した。
 買収阻止に当たって豪州政府は安全保障上の懸念を理由にした。

 米国は、南シナ海の航行の自由作戦への豪州海軍の参加を求めている。
 一方、中国は、豪州がそのような活動に参加すれば厳しく対応することを明らかにしている。
 中国の対応は、当面心理的、外交的なものであろうが、中国からの投資が阻止されることになれば中国の反発は一層強まるであろう。

 このように考えると、豪州が今後数十年の間地政学上の引火点になる可能性がある。
 豪州にとり21世紀はそう幸運な時代にはならないかもしれない。

出 典:Gideon Rachman ‘Why Australia’s luck may be running out’ (Financial Times, August 15, 2016)
http://www.ft.com/cms/s/0/126470e0-62c5-11e6-a08a-c7ac04ef00aa.html#axzz4Hdp0WXHm
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 上記は、興味深い見解です。
 従来、豪州の中国観は総じてソフトなものであり、中国の脅威も左程感じてきませんでした。
 同時に、価値を共有する国として対米同盟は強固に保ってきました。
 ところが、南シナ海の問題や中国の対豪投資の問題などを契機に、豪州の中国に対する安全保障観がより現実的なものに変わり始めています。
 これは、悪いことではありません。

 ラックマンは、今の問題の根源は中国の台頭にかかる戦略上の問題であるといいます。
 まさにそうでしょう。
 中国がかつて宣言したように「平和的」な台頭であれば問題はありません。
 しかし最近の中国の言動や振る舞いを見れば、とても「平和的」とは言えません。
 覇権主義であり、拡張主義です。

■中国の最大の障害

 南シナ海の問題を契機に、今中国の対外関係はほぼあらゆる正面で閉塞状態にあります。
 中国から見て最大の障害は、米国を中心とする日本、豪州、韓国などの同盟です。
 それを打破するために、
第一に日本への対応を厳しくし、
第二に韓国、豪州と米国の間に楔を打ち、
第三はASEANの国々を分断しよう
としています。
 中国の対豪州戦略は対韓国戦略と同様に中国の対ミドル・パワー戦略とも言えるもので、今後経済分野を含め対抗措置をとっていく可能性もあります。
 この戦略には結構高い優先度が置かれているものと思われます。 

 THAADに関する韓国に対する中国のメディアの執拗な批判や中国における韓国文化活動の停止などは、韓国の政府内外に大きな心理的圧迫を加えています。
 今の中国の言動を見る限り、対中均衡を強化していく他により良い政策はありません。
 米国を中心に日本、豪州、韓国の連携を一層強めていくことが重要です。

 中国の海洋進出の行動は国際秩序に挑戦する勢力であるとの中国の姿を世界に印象付ける結果になっています。
 中国に対する信頼感は大きく低下しています。
 英国のメイ新政権は、仏EDFと中国の企業が建設するヒンクリーポイント原発の最終決定を延期しました。
 在英中国大使が激しくこれを批判する書簡をメディアに投稿しましたが、問題の深刻さが窺われます。
 メルケル独首相の対中姿勢も最近厳しくなっているといわれます。
 漸く欧州がアジアの現実を理解し始めたのであれば良いことです。






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